ギグ・エコノミー

6月、7月と英国、米国に出張して、現地の金融制度や確定拠出年金に関する取材を行ってきました。そのなかで気が付いた共通点がありました。それは企業年金に関して当局や業界が、ウーバー・ドライバーのようなフリーランスで働く形態の人が主流になる経済、「ギグ・エコノミー」の台頭に注意を払っていることです。

英国:1,000万人も増加した企業年金加入者、次はギグ・エコノミーの担い手

英国は2012年にすべての企業に企業年金を義務付け、従業員が自動加入する制度をスタートさせました。

政府は確定拠出年金を推進する組織「NEST(National Employment Savings Trust、国家雇用貯蓄信託)」を設立して、中小企業の従業員への確定拠出年金の普及を後押ししました。その結果、2018年の導入期限までに、企業年金加入者は1,000万人ほど増え、加入者比率は2012年の46.5%から2018年には76.2%へと急上昇しています。

劇的な加入者数の増加をもたらした効果的な政策だったといわれていますが、英国当局は次の課題として、企業年金の対象になっていないギグ・エコノミーの担い手にどう自助努力を促すかを考え始めていました。

米国:加入手続きをより簡便にした中小企業向けDC

米国でも、複数の企業で共同運用ができるMultiple Employer Plans(MEPs)と呼ばれる企業年金の規制緩和案が議論されています。これは中小企業ほど企業年金の加入率が低く、その改善が求められている中で起きている議論ですが、個人事業主も参加できるように視野を向けようとしています。

こうした中、米国フィデリティでは、より低コストで企業年金を提供できるように、商品をターゲット・デート・ファンド(TDF)だけに絞り、申し込みもWebだけに限定する等、工夫を凝らしています。

日本:iDeCo+の活用を広げる施策が求められる

ひるがえって日本はどうでしょうか。自営業者、なかでも1人で働く人が増え、フリーランサーという言葉がメディアでも多く取り上げられるようになってきました。しかしそのための企業年金としては、明確な議論がなされていないように思います。

制度としては個人型確定拠出年金(iDeCo)や国民年金基金がありますし、中小企業向けのiDeCO+もあります。しかし、十分に使われていないのではないでしょうか。非課税上限の少なさにも改善点はありますが、手続きの簡素化など、いかに利用者を増やすかの目線がこれからより重要になってくると思われます。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史