FX取引サービスをめぐる大規模な情報漏えいが報じられ、ご自身の口座は大丈夫かと気になっている方もいるのではないでしょうか。ネットで取引できる金融商品には、FXのほかに株式や暗号資産(仮想通貨)などもあります。

詐欺被害の面でも、ネット取引は無関係ではありません。警察庁の暫定値では、SNS型投資詐欺の被害額は令和8年8月末までに937.4億円と、前年同期から53.8%増えました。令和7年には、投資詐欺とロマンス詐欺を合わせた暗号資産送信型の被害額が463.2億円にのぼっています。

こうしたなか、金融庁と警察庁は2026年8月6日、日本暗号資産等取引業協会に対し、詐欺被害等の防止に向けた11項目の対策を要請していました(※)。出庫の制限、出庫先の事前登録、フィッシングに耐性のある多要素認証の必須化などが並びます。

この記事では、要請の11項目と警察庁のデータを整理します。要請は法的義務を定めるものではなく、各社の対応は事業者ごとに異なります。

※なお、この要請は情報漏えいへの対応として出されたものではありません。

1. 暗号資産の出庫制限とは?金融庁・警察庁が要請した11項目

暗号資産交換業者への要請11項目1/3

暗号資産交換業者への要請11項目

出所:警察庁「暗号資産を用いた詐欺被害等防止に向けた対策の一層の強化について」をもとにLIMO編集部作成

金融庁は警察庁と連名で2026年8月6日、「暗号資産を用いた詐欺被害等防止に向けた対策の一層の強化について」を発表しました。要請先は一般社団法人日本暗号資産等取引業協会です。

背景として、暗号資産交換業者の顧客の被害が拡大していることや、特殊詐欺の被害金が暗号資産交換業者の口座に送金される事例が挙げられています。要請された対策は次の11項目です。

  1. 口座開設時における不正防止及び実態把握の強化
  2. 詐欺被害等防止のための確認及び注意喚起
  3. 法定通貨入金後又は暗号資産購入後の一定期間の暗号資産の出庫制限
  4. 出庫先の事前登録制及び登録後一定期間の暗号資産の出庫制限
  5. 出庫限度額の適切な設定
  6. 取引モニタリング及びアクセス環境モニタリングの強化
  7. 疑わしい取引検知後の顧客への確認、取引制限及び口座凍結等の措置の迅速化
  8. なりすまし等が疑われる場合の認証強化
  9. 送金依頼人名と暗号資産口座の名義人名の一致確認等
  10. 詐欺被害及び不正利用等に関する検知の端緒、実態の把握及び対策の高度化に資する情報の共有
  11. 警察への情報提供及び連携の強化

実施時期については、資料に「2026年8月に対策を要請」との記載があり、システム上の対応が必要で直ちに講じられない場合は「計画的に対応することが重要」とされています。項目ごとの期限や段階的な実施時期は、資料に記載がありません。

なお、この要請は2026年8月6日に出されたものです。冒頭で触れたように、昨今の情報漏えいへの対応として出されたものではありません。

2. 暗号資産経由の詐欺被害はいくら?令和7年の送信型は463.2億円

警察庁によると、令和7年のSNS型投資詐欺は認知件数が9523件、被害額が1288.0億円でした。SNS型ロマンス詐欺は認知件数が5645件、被害額が546.4億円でした。被害金の交付形態は次のとおりです。

  • SNS型投資詐欺の振込型:7135件(74.9%)、1000.6億円(77.7%)
  • SNS型投資詐欺の暗号資産送信型:1898件(19.9%)、215.5億円(16.7%)
  • SNS型投資詐欺の上記以外(差引):490件、71.9億円
  • SNS型ロマンス詐欺の振込型:3055件(54.1%)、276.0億円(50.5%)
  • SNS型ロマンス詐欺の暗号資産送信型:2177件(38.6%)、247.7億円(45.3%)
  • SNS型ロマンス詐欺の上記以外(差引):413件、22.7億円

※構成比と「上記以外(差引)」は、警察庁の公表値をもとにLIMO編集部が計算しました。警察庁の資料には、上記以外の区分の内訳が記載されていません。

令和7年の暗号資産送信型の被害額は、投資詐欺の215.5億円とロマンス詐欺の247.7億円を合わせて463.2億円です。

たとえば、投資詐欺の暗号資産送信型は1898件で215.5億円なので、1件あたりの平均は約1135万円です。ロマンス詐欺は2177件で247.7億円なので、約1138万円になります(LIMO編集部計算)。

ロマンス詐欺の暗号資産送信型は、前年から件数が177.0%、被害額が189.7%増えています。投資詐欺の前年比は、確認できた範囲では資料に記載がありません。

3. 入金後は出庫を制限される?利用者の操作に関わる6項目

11項目のうち、暗号資産交換業者を利用する個人の操作に関わりうる主な項目を、要請の文言に沿って整理します。要請は事業者に対するもので、実際にどう導入されるかは各社の判断によります。

  • 項目3(入金後・購入後の出庫制限):法定通貨の入金後や暗号資産の購入後、一定期間は出庫を制限することが求められています。制限が解除された後に多額・多頻度の出庫を早期に行う顧客には、取引の背景を確認することも求められています。
  • 項目4(出庫先の事前登録制):出庫先の情報を事前に登録させ、詐欺等との関連性を確認することが求められています。新たに登録された出庫先には、一定期間の出庫制限を設けることも求められています。
  • 項目5(出庫限度額の設定):リスク評価や顧客の属性、保有資産額などに応じて、出庫限度額を設定することが求められています。
  • 項目8(認証強化):なりすましなどが疑われる場合に、本人であることの確認を行うことが求められています。重要な操作時には、フィッシングに耐性のある多要素認証を実装し、必須化することも求められています。
  • 項目9(名義人名の一致確認):振込・送金の依頼人名と口座名義人名が一致するかを確認し、不一致の場合は適切に対応することが求められています。
  • 項目2(第三者の指示への注意喚起):第三者の指示による口座開設や暗号資産の購入・出庫は、詐欺のおそれが高いとして、顧客への注意喚起が求められています。

具体的な制限の期間や限度額は、資料に記載がありません。各社の対応は、事業者ごとに異なる可能性があります。

4. 出庫制限の要請、押さえておきたい注意点は3つ

4.1 1.要請は法的義務ではなく、各社の対応は異なる

今回の発表は、日本暗号資産等取引業協会に対する要請です。資料に、個人の利用者に法的な義務が生じるかどうかの記載はありません。

制限の期間や限度額、開始時期も資料に記載がなく、各社の対応は事業者ごとに異なる可能性があります。ご自身が利用している暗号資産交換業者のお知らせや規約変更の案内をご確認ください。

4.2 2.「暗号資産送信型」だけで足りる?振込を合わせた実質割合に注意

令和7年のロマンス詐欺の暗号資産送信型は、件数の38.6%、被害額の45.3%でした。一方、警察庁によると、銀行口座等への暗号資産の振込も合わせた実質的な割合は、件数の40.4%、被害額の48.6%に達しています。

表面の区分だけでは見えにくい点として、頭に入れておくとよいでしょう。

4.3 3.第三者の指示による出庫は、詐欺のおそれが高いとされる

要請の項目2は、第三者からの指示による口座開設や暗号資産の購入・出庫を、詐欺のおそれが高い行為として注意喚起するよう求めています。SNSなどで知り合った人から投資や送金を持ちかけられて不安なときは、一人で判断せず相談してください。

緊急でない相談は、最寄りの警察署または警察相談専用電話「#9110」で受け付けています。消費者ホットライン「188」からは、お住まいの地域の消費生活相談窓口を案内してもらえます。

5. SNS型投資詐欺の被害額は?令和8年8月末は前年同期比53.8%増の937.4億円

特殊詐欺の被害状況(令和8年8月末・前年同期比)3/3

特殊詐欺の被害状況(令和8年8月末・前年同期比)

出所:警察庁「令和8年8月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」をもとにLIMO編集部作成

警察庁が2026年10月2日に公表した暫定値によると、令和8年(2026年)1月から8月末までの認知件数と被害額は次のとおりです。

  • 特殊詐欺(全体):29687件(前年同期比+3732件、+14.4%)、2360.7億円(+588.4億円、+33.2%)
  • SNS型投資詐欺:7097件(+2347件、+49.4%)、937.4億円(+328.0億円、+53.8%)
  • SNS型ロマンス詐欺:3506件(+13件、+0.4%)、325.8億円(+2.5億円、+0.8%)

令和8年から、SNS型投資・ロマンス詐欺は特殊詐欺の一手口に位置づけられています。特殊詐欺(全体)には、この2つが含まれています。

SNS型投資詐欺の被害額は、前年同期から5割以上増えています。なお、令和8年の暗号資産送信型の被害額は、この記事の執筆時点で確認できていません。

6. まとめにかえて|出庫制限のルールは各社の公式発表で確認を

今回の要請は、日本暗号資産等取引業協会に向けたもので、具体的な出庫制限のルールや開始時期は、事業者ごとに検討・導入されます。ご自身が利用している暗号資産交換業者のお知らせや規約変更の案内を、定期的に確認しておくと安心です。

なお、冒頭で触れた情報漏えいについて、GMOインターネットは2026年10月23日の公表で、取引に使っていない端末からの認証情報の変更、ログイン中のセッションの切断、取引履歴と残高の確認、二要素認証の設定を呼びかけています。FXに限らず、ネットで金融サービスを使っている方は、こうした確認も検討してみましょう。

※暗号資産の取引ルールや法令の適用に関する個別の判断は、金融庁やご利用中の暗号資産交換業者など、関係機関の窓口にご確認ください。

参考資料

池上 翠