「墓じまいは50万円あればできる」と聞いても、その50万円に何が入っているのかは見えにくいものです。墓じまいの費用は、墓石の撤去、改葬の手続き、遺骨を移す先(改葬先)の3つに分かれます。
墓じまいの費用には、自治体や公営霊園が公表している金額と、墓の大きさや寺院とのお付き合いで変わる金額が混ざっています。
ここでは、公的な資料で確認できる費用のみを抽出し、東京都の都立霊園の合葬埋蔵施設を改葬先にした場合に、50万円から使用料を引いて撤去などに回せる額を、遺骨1体と2体で試算します。
※改葬先の使用料は、東京都「令和8年度 都立霊園の使用者を募集します」に掲載された、合葬埋蔵施設・樹林型合葬埋蔵施設の遺骨1体あたりの使用料です。
1. 墓じまいの費用は何に分かれる?撤去・改葬許可・改葬先の3つで、公的な金額があるのは改葬許可と公営霊園の改葬先
墓じまいは、法律の言葉では「改葬」にあたります。墓地、埋葬等に関する法律は、改葬を「埋蔵し、若しくは収蔵した焼骨を、他の墳墓又は納骨堂に移すこと」などと定め、改葬をする人は市町村長(特別区の区長を含む)の許可を受けなければならないとしています。
墓じまいの費用を、金額が公表されているかどうかで分けると次のとおりです。
- 【墓石の撤去・区画を戻す工事】石材店などの見積もりで決まる。公的な統計はない
- 【閉眼供養のお布施・離檀料】寺院とのお付き合いの中で考えるもの。公的な統計はない
- 【改葬許可の手続き】市区町村が手数料の有無を定めている
- 【改葬先の使用料・管理料】公営霊園は金額を公表している
墓石の撤去、お布施、離檀料には公的な統計がないため、この記事では金額を挙げていません。墓の広さや立地、寺院とのこれまでのお付き合いによって変わるものでもあります。
改葬そのものは増えています。厚生労働省「衛生行政報告例」によると、2025年度の改葬は19万1212件で、前年度の17万6140件から約8.6%増えました。10年前の2015年度(9万1567件)と比べると約2.1倍です。2025年度の数字は2026年10月27日に公表されました。
2. 墓じまいの改葬許可にかかる費用は?横浜市は手数料無料で、申請書は遺骨1体につき1通の区も
改葬許可を申請するときに出す書類は、墓地、埋葬等に関する法律施行規則で決められています。申請書には、亡くなった人の本籍・住所・氏名、改葬の理由、改葬の場所などを書き、次の書類を添えます。
- 【埋葬・埋蔵の証明】今の墓地や納骨堂の管理者が作る、埋蔵や収蔵の事実を証する書面
- 【承諾書】申請する人が墓地の使用者でない場合は、墓地の使用者の承諾書
- 【その他】市町村長が特に必要と認める書類
改葬許可の手数料は自治体が決めています。横浜市「改葬(遺骨の移動)の手続き」では、改葬許可証の手数料は無料です。ただし、墓地の管理者が発行する埋蔵証明には、手数料がかかる場合があるとしています。
- 【横浜市】改葬許可証の手数料は無料。埋蔵証明は墓地の管理者によって手数料がかかる場合がある
- 【東京都大田区・世田谷区・文京区】申請書は遺骨1体につき1通
- 【東京都世田谷区】改葬先の寺などの受入証明書または使用許可書が必要
1つの墓に複数の遺骨が納められていれば、遺骨の数だけ申請書を用意することになります。手数料や必要な書類は自治体ごとに違うため、今の墓がある市区町村の案内で確かめることができます。
3. 墓じまいの改葬先の費用は?都立霊園の合葬埋蔵施設は遺骨1体5万3000円から13万1000円、一般埋蔵施設は最も低くても32万850円
改葬先の費用のうち、金額が公表されている例として、東京都の都立霊園の令和8年度の募集を見ます。複数の遺骨を一緒に納める合葬埋蔵施設と樹林型合葬埋蔵施設は、遺骨1体あたりの使用料で、年間管理料の欄は「-」です。
- 【八柱霊園 合葬埋蔵施設(直接共同埋蔵)】遺骨1体あたり5万3000円
- 【小平霊園 合葬埋蔵施設(直接共同埋蔵)2号基】遺骨1体あたり5万8000円
- 【多磨霊園 合葬埋蔵施設(一定期間後共同埋蔵)】遺骨1体あたり6万1000円
- 【八柱霊園 合葬埋蔵施設(一定期間後共同埋蔵)】遺骨1体あたり13万1000円
- 【多磨霊園 樹林型合葬埋蔵施設2号基】遺骨1体あたり9万5000円
- 【雑司ケ谷霊園 樹林型合葬埋蔵施設】遺骨1体あたり11万2000円
「一定期間後共同埋蔵」は、使用許可の日から20年間は個別に保管し、その後に共同で埋蔵する方式です。「直接共同埋蔵」は、はじめから共同で埋蔵します。
墓石を建てる一般埋蔵施設は、使用料が区画ごとに決まり、毎年の管理料もかかります。令和8年度の募集で最も低い使用料は、八柱霊園の一般埋蔵施設の32万850円で、年間管理料は1620円から4860円です。新しい墓石を建てる費用は、この使用料には含まれていません。
4. 墓じまいの費用50万円から改葬先を引くといくら?都立霊園の合葬埋蔵施設に遺骨2体なら、撤去などに回せるのは約23.8万円から約39.4万円
50万円から都立霊園の合葬埋蔵施設の使用料を引くと、墓石の撤去やお布施などに回せる額は次のとおりです。都立霊園の合葬埋蔵施設は、遺骨申込で1体用と2体用があるため、2体でも試算しました。
- 【八柱霊園(直接共同埋蔵)】1体なら使用料5万3000円で残り約44.7万円、2体なら約10.6万円で残り約39.4万円
- 【小平霊園(直接共同埋蔵)】1体なら5万8000円で残り約44.2万円、2体なら約11.6万円で残り約38.4万円
- 【多磨霊園(一定期間後共同埋蔵)】1体なら6万1000円で残り約43.9万円、2体なら約12.2万円で残り約37.8万円
- 【八柱霊園(一定期間後共同埋蔵)】1体なら13万1000円で残り約36.9万円、2体なら約26.2万円で残り約23.8万円
改葬先を墓石のある一般埋蔵施設にすると、八柱霊園の最も低い使用料32万850円だけで50万円の約64%になり、残りは約17.9万円です。ここから新しい墓石の費用と、今の墓の撤去などをまかなうことになります。
※試算の前提:東京都「令和8年度 都立霊園の使用者を募集します」の使用料をもとに、50万円から改葬先の使用料を引いた額です。改葬許可の手数料は横浜市と同じく無料としています。埋蔵証明の手数料、遺骨の運搬、新しい墓石の費用は含めていません。
例)墓じまいの費用を50万円とした場合 都立霊園の合葬埋蔵施設に遺骨2体を移すときの使用料と残る額(令和8年度)1/1
出所:東京都「令和8年度 都立霊園の使用者を募集します」をもとにLIMO編集部作成
5. 同じ都立霊園の合葬でも使用料はなぜ違う?八柱霊園は20年間個別に保管する方式が約2.5倍、樹林型は粉状の遺骨なら約3分の1
同じ八柱霊園の合葬埋蔵施設でも、遺骨2体の使用料は、直接共同埋蔵なら約10.6万円、20年間個別に保管する一定期間後共同埋蔵なら約26.2万円で、約2.5倍の差があります。違いは、すぐに他の遺骨と一緒になるか、20年間は個別に保管されるかです。
樹林型合葬埋蔵施設は、粉状にした遺骨だと使用料が下がります。
- 【多磨霊園 樹林型合葬埋蔵施設2号基】遺骨1体あたり9万5000円、粉状遺骨1体あたり3万1000円
- 【雑司ケ谷霊園 樹林型合葬埋蔵施設】遺骨1体あたり11万2000円、粉状遺骨1体あたり3万7000円
粉状遺骨の使用料は、どちらの霊園でも約3分の1です。ただし、遺骨を粉状にする費用には公的な統計がないため、比べるときは別に見積もりを取ることになります。
6. 都立霊園の合葬埋蔵施設は誰でも申し込める?都内に3年以上住んでいることが要件で、令和8年度の倍率は八柱霊園1.4倍、小平霊園19.4倍
都立霊園の合葬埋蔵施設と樹林型合葬埋蔵施設には、申込みの要件があります。令和8年度の募集では、次のとおりでした。
- 【居住】都内に3年以上継続して住んでいること(八柱霊園の合葬埋蔵施設は都内または千葉県松戸市)
- 【遺骨申込】申込者が申込遺骨の祭祀の主宰者であること
- 【2体用】2体が夫婦(事実婚関係を含む)、パートナーシップ関係、親子または兄弟姉妹であること
募集は年1回で、抽選です。東京都「令和8年度 都立霊園公募受付状況と抽選会について」によると、合葬埋蔵施設の倍率は八柱霊園1.4倍、多磨霊園8.6倍、小平霊園19.4倍でした。使用料の低い施設に申し込んでも、当選するとは限りません。
すでに都立霊園の一般埋蔵施設などを使っていて、自分の代で墓を継ぐ人がいなくなる場合は、墓所を返還して遺骨を合葬埋蔵施設に移す「施設変更」の制度があります。東京都公園協会によると募集は年3回で、使っている霊園の窓口で受け付けています。
7. 検証:墓じまいの50万円は「公表された金額」と「見積もりやお付き合いで変わる金額」に分けて読む
墓じまいの50万円には、性質の異なる数字が並んでいます。改葬許可の手数料や都立霊園の使用料は、自治体が決めて公表している金額で、誰が申し込んでも同じです。一方、墓石の撤去、お布施、離檀料は、墓の広さや立地、寺院とのお付き合いによって変わる金額で、公的な統計もありません。
今回の試算では、改葬先を都立霊園の合葬埋蔵施設にすると、遺骨2体で使用料は約10.6万円から約26.2万円、50万円から残るのは約23.8万円から約39.4万円でした。この残りで撤去や供養がまかなえるかどうかは、見積もりを取り、寺院と話をしてみて初めて分かる部分のように思います。
改葬の件数を見るときも、数字の性質に目を向けておきたいところです。2025年度の19万1212件は改葬の件数で、墓じまいをした墓の数と同じとは限りません。東京都大田区などでは申請書を遺骨1体につき1通出すため、1つの墓から複数の遺骨を移せば、その分だけ手続きが増えます。
相続診断士として相続の資料に触れていると、墓は家や預金とは別の扱いになる点に気づきます。民法第897条では、墓などの所有権は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰する人が引き継ぐとされています。改葬許可も、申請する人が墓地の使用者でなければ、使用者の承諾書が必要です。
費用の額を確かめる前に、墓地の使用者が誰か、祭祀を引き継ぐのは誰かを家族で共有しておくと、見積もりや寺院とのお話も進めやすくなるように思います。そのうえで、公表された金額と見積もりの金額を分けて並べると、50万円で足りるかどうかの見通しも立てやすくなるのではないでしょうか。
8. まとめ
墓じまいの費用は、自治体や霊園が公表している「改葬許可の手数料・改葬先の使用料」と、墓の状況や寺院とのお付き合いで変わる「墓石の撤去費・お布施など」に分かれます。
都立霊園の合葬埋蔵施設へ遺骨2体を移す場合、50万円の予算から撤去等に回せる額は約23.8万〜39.4万円となりますが、これで足りるかは個別の見積もり次第です。また、1つの墓に複数の遺骨がある場合、人数分の手続きが発生する点にも注意が必要です。
見積もりや手続きをスムーズに進めるための大切なポイントは、事前の家族間での共有です。お墓は一般的な遺産とは異なり、慣習に従って祭祀を主宰する人が引き継ぐと法律で定められています。
まずは「現在の墓の使用者は誰か」「祭祀を引き継ぐのは誰か」を明確にしておきましょう。そのうえで、公表されている金額(改葬先など)と、これから見積もる金額(撤去費など)を分けて整理していくと、50万円で足りるかどうかの見通しが立てやすくなります。
※本記事の試算は一定の前提に基づく概算です。実際の費用は、遺骨の数、改葬先、墓の広さや立地などで変わります。改葬許可の手数料と必要な書類は今の墓がある市区町村で、都立霊園の使用料は東京都公園協会でご確認ください。