親に借金がないか、管理の難しい空き家が残されていないか。亡くなったあとに分かるのでは遅いと、不安を抱える人は少なくありません。

最高裁判所の「令和7年 司法統計年報 3 家事編」によると、家庭裁判所への相続放棄の申述は令和3年の25万1994件から令和7年の32万3524件へ、5年で28.4%増えました。

3か月の熟慮期間では決めきれず、期間の伸長を申し立てるケースも増えています。本記事では、伸長申立ての件数の推移と、相続人に用意されている「3つの選択肢」について解説します。

1. 相続放棄の申述は5年で28.4%増、令和7年は32万3524件

家庭裁判所が新しく受け付けた相続放棄の申述(新受件数)は、5年連続で増加しています。

【図版1】相続放棄の申述の新受件数の推移(令和3年〜7年)1/3

【図版1】相続放棄の申述の新受件数の推移(令和3年〜7年)

出所:最高裁判所「令和7年 司法統計年報 3 家事編」をもとにLIMO編集部作成

5年間での増加件数は7万1530件となり、率にして28.4%の増加でした。なお、この数値は家庭裁判所が新しく受け付けた「申し立てられた件数」となります。実際の受理件数とは異なる点に配慮しておきましょう。

申述が増加した背景として、メディアの報道では空き家や負債を引き継がないための選択とみる見方も伝えられています。なお、申述手続きには1人につき収入印紙800円分が必要です。

2. 相続人には3つの選択肢があります 放棄はそのうちの1つです

被相続人が亡くなり相続が始まった際、相続人には3つの選択肢が用意されています。

【図版2】相続人が選べる3つの選択肢と申述概要の比較2/3

【図版2】相続人が選べる3つの選択肢と申述概要の比較

出所:裁判所「相続の放棄の申述」等をもとにLIMO編集部作成

いずれの選択肢も、相続開始を知った時から「3か月以内」の判断・対応が必要となります。

2.1 ① 単純承認(最も一般的)

プラスの資産もマイナスの負債も「全て」引き継ぐ方法です。申述手続きは不要で、何もしないと自動確定します。

裁判所費用も不要(0円)です。ただし、預貯金処分や名義変更を行うと単純承認したとみなされる点に注意が必要です。

2.2 ② 限定承認(利用は少数)

得た資産の限度で負債を返済し、残額があれば相続します。相続人「全員」で家庭裁判所へ申述を行う必要があります。

裁判所費用は被相続人1人あたり収入印紙800円分です。全貌不明時に有効ですが、相続人全員の同意が必要となります。

2.3 ③ 相続放棄(増加傾向)

資産も負債も「一切引き継がない」選択肢です。相続人「単独」で家庭裁判所へ申述できます。裁判所費用は被相続人1人あたり収入印紙800円分です。

最初から相続人でなかった扱いとなり、次順位の親族へ権利が移転することに注意しましょう。

 

申述先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。

熟慮期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内です。その他、連絡用郵便切手の費用が必要となります。

3. 3か月で決められないときは? 期間の伸長を申し立てられます

財産や負債の調査に時間がかかり、3か月以内に方針を決められない場面が生じる形です。そのような場合、家庭裁判所へ「承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることができます。

申立先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所で、費用は被相続人1人につき収入印紙800円分です。期間伸長の申立て自体も「自己のために相続の開始があったことを知った時から、相続人全員で3か月以内」に行うルールがあります。

申立てが認められるかどうかや延長される期間は、個別の事情に応じて家庭裁判所が判断します。

4. 放棄だけではありません 「期間の伸長」の申立ても5年で約2.0倍になりました

司法統計を同じ表で読み解くと、熟慮期間の伸長申立ても急増している実態が分かります。

【図版3】期間の伸長および限定承認の新受件数推移(令和3年〜7年)3/3

【図版3】期間の伸長および限定承認の新受件数推移(令和3年〜7年)

出所:最高裁判所「令和7年 司法統計年報 3 家事編」をもとにLIMO編集部作成

期間伸長の申立ては令和3年の806件から令和7年の1631件へ、825件増加し約2.0倍(102.4%増)となりました。一方、限定承認は689件から637件へ微減傾向を示しています。

令和7年の申立件数を比べると、伸長は放棄の約0.5%、限定承認は約0.2%という割合でした。件数自体は少数ですが、3か月で決めきれず期間を延ばす手続きをとる人が増えている事実が浮き彫りとなっています。

5. 見落としがちな落とし穴:「母のために」子ども全員が相続放棄すると?

「母親に遺産をすべて渡したい」と子ども全員が相続放棄をすると、相続権は次順位である亡き父親の親や兄弟姉妹(すでに死亡している場合は甥や姪)に移ってしまいます。

母親を支えるつもりが、かえって予期せぬ親族トラブルを招き、権利関係を複雑化させるリスクがあります。

良かれと思った判断で思わぬ事態を引き起こさないよう、手続きの前に専門家へ相談することをおすすめします。

6. まとめにかえて|件数が増える今、3か月の使い方を先に決めておく

相続放棄の申述は5年で28.4%増加し、期間伸長の申立ても約2.0倍へ拡大しています。3か月の熟慮期間はあっという間に経過するため、早めの行動が大切でしょう。

  1. 相続開始を知った日を書き出し3か月の期限日を確認する:正確な起算点の把握につながります。
  2. 調べても決められないときは、期限内に家庭裁判所へ期間伸長を申し立てる:判断時間を確保する選択肢となります。

最終的な判断や手続きは、家庭裁判所や弁護士・司法書士などの専門家にご確認ください。

参考資料