所得代替率ってなんだ
8月27日に厚生労働省が財政検証の結果を発表しました。
公的年金の今後の財政状況を分析するための検証であることから専門用語が多く、しかも経済成長率や労働市場への参入状況、インフレ率など多くの要件が前提になっているので、複数のシナリオを使って分析結果がまとめられています。そのため、資料を読んでもなかなか自分の生活につなげにくくなっているのではないでしょうか。
しかし、この内容は今後の資産形成などを考えていくには非常に重要な指標が含まれていますので、ぜひ目を通すことをお勧めします。
その時には、「所得代替率」に注目してください。厚生労働省の資料によると、所得代替率は「公的年金の給付水準を示す指標。現役男子の平均手取り収入額に対する年金額の比率により表される」と記されています。
具体的な計算式としては
所得代替率=(夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金)/現役男子の平均手取り収入額
と説明され、実際の数値を入れて
2014年 62.7% = (12.8万円 + 9.0万円) /34.8万円
2019年 61.7% =(13.0万円 + 9.0万円)/35.7万円
と計算されています。
政府は所得代替率を50%以上に維持する
ところで国民年金法では、その第2条に「・・・・比率が百分の五十を上回ることとなるような給付水準を将来にわたり確保するものとする」と規定しています。
すなわち「所得代替率」でみて、公的年金の給付水準の下限を50%としていることもわかります。このため、現在の制度では、将来にわたって公的年金が受け取れなくなるという想定ではありません。
ただ、この水準をみて、「公的年金の水準が現役世代の半分以上確保される」と判断するわけにはいきません。
この数値は、ある一定の世帯(夫が働き妻が専業主婦の世帯)を想定して、年金保険料を負担する側(夫だけが働いているという前提で現役男子)の所得を分母に、年金を受け取る側(前提は保険料を負担してきた男性とその専業主婦たる妻)の受給額を分子において、比較しているだけの数値なのです。
「所得代替率」はあくまで、年金財政を分析するための数値だと考えてください。年金財政の需要と供給、公的年金制度の受給側と供出側といった側面が強く出ている数値で、個人の生活感に近いものとは言えないこともわかります。
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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史