令和8年7月17日に公布された労災保険法の改正法は、令和9年4月1日から、政令で定める一部の疾病について、療養補償給付等の請求権の時効を2年から5年にします(厚生労働省)。休業補償給付が対象かどうかは、厚生労働省のページからは確認できません。いまの休業の請求は、労災も傷病手当金も、日ごとに2年で数えます(2026年10月時点)。

協会けんぽの傷病手当金のページは、業務上・通勤災害によるもの(労災保険の給付対象)は支給対象外としています。傷病手当金の申請書にも、傷病の原因が仕事中か通勤途中か、労災を請求中かを書く欄があります。

仕事が原因かもしれない病気やケガで休むとき、「労災と傷病手当金のどちらが多いのか」「労災の認定を待つ間、傷病手当金を申請してよいのか」「両方もらえるのか」と迷う方は、少なくないと考えられます。会社に「傷病手当金で休んで」と言われて、戸惑う方もいるかもしれません。

この記事では、前半でこの疑問に、厚生労働省と協会けんぽ、労働局の公表資料と編集部の試算で答えます。後半では、重ねて受け取れない理屈を昭和33年の通知で確認し、申請書の欄、請求の期限を整理します。労災に当たるかどうかの判断は、労働基準監督署が行います。個別の相談は、労働基準監督署と協会けんぽの支部に確認してください。

1. よくある疑問:仕事のケガで休んでいる。労災と傷病手当金のどちらをもらえる?両方もらえる?労災の認定を待つ間、傷病手当金を申請してよい?

「仕事中に腰を痛めて、休んでいます。会社は、傷病手当金で休むように言いますが、労災のほうが額が大きいと聞きました。どちらをもらえるのでしょうか。両方もらえますか。労災の認定が出るまで時間がかかりそうなので、先に傷病手当金を申請してもよいのでしょうか」。

この疑問は、一人の事情に見えますが、同じ迷いは、仕事や通勤が原因かもしれない病気やケガで休む人に、当てはまりえます。答えは、次の3点です。

  • 仕事中や通勤途中の傷病は労災保険、それ以外は傷病手当金で、本人が選ぶ制度ではありません。協会けんぽは、業務上・通勤災害によるもの(労災保険の給付対象)は傷病手当金の対象外としています。別の傷病で労災の休業補償給付を受けているときは、休業補償の額が傷病手当金の額に達しない部分を除き、傷病手当金は支給されません(協会けんぽ、昭和33年の厚生省通知)
  • 休業4日目からの日額は、労災が給付基礎日額の60%に休業特別支給金の20%を加えた80%、傷病手当金が標準報酬月額の平均の30分の1の3分の2です。標準報酬月額27万円、給付基礎日額9000円と仮定すると、30日休んだ場合は、労災が21万600円、傷病手当金が16万2000円で、差は4万8600円です(厚生労働省、協会けんぽ、編集部試算)
  • 労災を請求中でも、傷病手当金は申請できます。申請書の労災の欄で「請求中」を選び、労働基準監督署名を書きます。労災が認定されると、傷病手当金は返納になります(協会けんぽ北海道支部、令和8年3月13日の資料)

2. 認定を待つ・別の傷病で休む・最初の3日間、3つの場合を確認

読者の方が気にしそうな「もし」を、厚生労働省と協会けんぽの資料で確認します。いずれも、ご自身の給付や返納を確定するものではありません。

  • もし、労災の認定を待つ間に休んでいるなら:傷病手当金は、労災を請求中でも申請できます。申請書の労災の欄で「請求中」を選び、労働基準監督署名を書きます。労災が認定されると、傷病手当金を返納します(協会けんぽ北海道支部)
  • もし、労災の休業補償給付を受けている間に、別の病気も併発したら:休業補償の額が傷病手当金の額に達しない部分を除き、傷病手当金は支給されません。申請書では、別傷病で労災の休業補償給付を受給しているかを答えます(昭和33年の厚生省通知、協会けんぽ)
  • もし、休んで最初の3日間の収入が心配なら:労災は、業務災害なら事業主が平均賃金の60%を補償します。通勤災害は、事業主の補償責任がありません。傷病手当金は、最初の連続3日間の待期には支給がありません(厚生労働省、福井労働局、協会けんぽ)

ここからは、この答えの前提になる仕組みを順に確認します。労災と傷病手当金の違い、最初の3日間、金額の試算、重ねて受け取れない理屈、請求中の扱い、請求の期限の順です。

3. 労災と傷病手当金の違い:仕事中・通勤中が原因なら労災、それ以外は傷病手当金で、本人は選べない

協会けんぽの傷病手当金のページによると、傷病手当金の対象は、業務外の事由による病気やケガの療養のための休業です。ただし、業務上・通勤災害によるもの(労災保険の給付対象)や、病気と見なされないもの(美容整形など)は、支給対象外とされています。

厚生労働省のQ&Aによると、労災の休業(補償)等給付は、次の3つを満たす限り、休業第4日目から、その期間中支給されます。1つ目は、業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のためであること。2つ目は、労働することができないこと。3つ目は、賃金を受けていないことです。

仕事中なのか、通勤途中なのかの判断が難しい場合もあります。協会けんぽ鹿児島支部の案内(平成24年6月)では、労災保険に当たるかどうかを判断するのは、協会けんぽでも、勤務先でも、損害保険会社でもなく、勤務先を管轄する労働基準監督署だとされています。判断が難しいときは、労働基準監督署に相談する案内です。

4. 金額と期間の違い:労災は給付基礎日額の80%、傷病手当金は標準報酬月額の平均の30分の1の3分の2

労災の休業補償給付と休業給付は、福井労働局の案内によると、休業(補償)給付と休業特別支給金の2つが、併せて支払われます。休業4日目から、休業1日につき、休業(補償)給付が給付基礎日額の60%相当額、休業特別支給金が20%相当額です。合わせて80%です。

給付基礎日額とは、原則として、労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます(福井労働局)。計算の考え方は、LIMOの別の記事「【社労士が労災解説】誰でも対象?労災保険「休業補償給付」の支給要件!最大80%?給付のもとになる「給付基礎日額」計算方法 はじめの3日間はもらえない!休業補償給付「待期期間」」でも解説されています。

傷病手当金は、協会けんぽのページによると、支給開始日以前の12か月間の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額に、3分の2をかけた額が、1日あたりの支給額です。支給期間は、支給を開始した日から通算して1年6か月です。

傷病手当金の条件は、「【2026年10月】106万円の壁撤廃へ。社会保険の最大のメリット「傷病手当金」がもらえる4つの条件 1日あたりの支給額と「通算1年6か月」の期間」にもまとまっています。

4.1 【労災の休業補償給付と傷病手当金:5つの観点で比べた違い】

前提条件:労災は休業補償給付(業務災害)と休業給付(通勤災害)をまとめて「労災」と表記。傷病手当金は協会けんぽの場合。福井労働局の「休業(補償)等給付」と、協会けんぽの「傷病手当金」「健康保険傷病手当金支給申請書」のページの記載を、編集部が表に整理したもの1/2

前提条件:労災は休業補償給付(業務災害)と休業給付(通勤災害)をまとめて「労災」と表記。傷病手当金は協会けんぽの場合。福井労働局の「休業(補償)等給付」と、協会けんぽの「傷病手当金」「健康保険傷病手当金支給申請書」のページの記載を、編集部が表に整理したもの

出所:福井労働局「休業(補償)等給付」、全国健康保険協会「傷病手当金」を基にLIMO編集部作成

  • 対象:労災は業務災害・通勤災害による負傷や疾病、傷病手当金は業務外の事由による病気やケガです。
  • 最初の3日間:労災は待期期間で、業務災害は事業主が平均賃金の60%を補償し、通勤災害は事業主の補償責任がありません。傷病手当金は連続する3日間の待期で支給がなく、有給休暇や公休日も数えます。
  • 4日目以降の日額:労災は給付基礎日額の60%に特別支給金20%を加えた80%、傷病手当金は標準報酬月額の平均の30分の1の3分の2です。
  • 期間:労災は休業4日目から要件を満たす限り、傷病手当金は支給開始日から通算1年6か月です。
  • 請求先と時効:労災は労働基準監督署で、賃金を受けない日ごとにその翌日から2年です。傷病手当金は協会けんぽの支部で、労務不能であった日ごとにその翌日から2年です。

表を見ると、日額の割合は、労災が80%、傷病手当金が3分の2で、割合だけなら労災が高く設計されています。期間も、傷病手当金は通算1年6か月の上限がある一方、労災は要件を満たす限り続きます。ただし、基準になる額が、給付基礎日額と標準報酬月額で違うため、実際の額は人によって変わります。

齊藤 慧
病気やケガで働けないとき、収入がどうなるかは、いちばん切実な心配です。制度の名前や割合が並ぶと、頭が混乱しますが、表の1行目の「対象」さえ押さえれば、残りは順に決まっていきます。まずは、休んでいる原因が、仕事や通勤に関係するのかを、落ち着いて整理するところから始めてみてください。

5. 最初の3日間:傷病手当金は有給や公休も数えて支給なし、労災は業務災害なら事業主が平均賃金の60%

協会けんぽの傷病手当金のページによると、傷病手当金は、業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から、連続して3日間(待期)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。待期には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれるため、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません。

厚生労働省のQ&Aによると、労災の休業初日から3日までも「待期期間」といいます。業務災害の場合は、事業主に休業補償を行う義務があり、労災保険としては休業第4日目から支給されます。最初の3日間は、労働基準法に基づき事業主に休業補償を行う義務があるため、事業主に請求する案内です。

福井労働局の案内によると、事業主が払う休業補償は、1日につき平均賃金の60%です。通勤災害や複数業務要因災害の場合は、事業主の補償責任はありません。つまり、通勤災害で休んだ最初の3日間は、労災保険からも、事業主の法令上の補償からも、支給されないことになります。

同じ「待期」という言葉でも、傷病手当金は、誰からも払われない3日間です。労災は、業務災害なら事業主が払い、通勤災害なら誰からも払われません。この違いは、休む日数が短いときほど、収入の差として表れます。

6. 試算:標準報酬月額27万円で30日休むと、労災は21万600円、傷病手当金は16万2000円

協会けんぽのページの計算方法と、福井労働局の案内をもとに、編集部が試算しました。標準報酬月額が過去12か月とも27万円の人で、傷病手当金の日額は、27万円の30分の1の9000円に、3分の2をかけた6000円です。

労災は、給付基礎日額を、標準報酬日額と同じ9000円と仮定しました。休業補償給付が9000円の60%で5400円、休業特別支給金が20%で1800円、合わせて7200円です。業務災害で30日休んだ場合の、最初の3日間は、事業主が平均賃金の60%を払うため、5400円の3日分で1万6200円です。

6.1 【30日休んだ場合の受け取り額:労災(業務災害)と傷病手当金の比較(編集部試算)】

前提条件:標準報酬月額は過去12か月とも27万円、給付基礎日額(原則として労働基準法の平均賃金に相当)は同水準の9000円と仮定。30日連続で休み、最初の3日間が待期、4日目から27日分。労災は業務災害の場合で、最初の3日間は事業主が平均賃金の60%を補償し、4日目からは給付基礎日額の60%と特別支給金20%の合計80%。傷病手当金は、標準報酬月額の30分の1の3分の2。給与の支払いはなく、賞与や他の給付は考えない。編集部試算2/2

前提条件:標準報酬月額は過去12か月とも27万円、給付基礎日額(原則として労働基準法の平均賃金に相当)は同水準の9000円と仮定。30日連続で休み、最初の3日間が待期、4日目から27日分。労災は業務災害の場合で、最初の3日間は事業主が平均賃金の60%を補償し、4日目からは給付基礎日額の60%と特別支給金20%の合計80%。傷病手当金は、標準報酬月額の30分の1の3分の2。給与の支払いはなく、賞与や他の給付は考えない。編集部試算

出所:全国健康保険協会「傷病手当金」、福井労働局「休業(補償)等給付」を基にLIMO編集部試算

  • 労災(業務災害):最初の3日間は1万6200円(事業主が払う分、5400円×3日)、4日目から27日分は19万4400円(7200円×27日)、30日間の合計は21万600円です。
  • 傷病手当金:最初の3日間は0円、4日目から27日分は16万2000円(6000円×27日)、30日間の合計は16万2000円です。

表を見ると、同じ30日休んだ場合、労災のほうが、傷病手当金より4万8600円多くなります。内訳は、最初の3日間の1万6200円と、4日目からの日額の差1200円の27日分です。ただし、試算は仮定の例です。実際は、給付基礎日額が賞与を除く賃金から計算されるなど、標準報酬月額とは基準が違うため、同じ額にはなりません。

7. 【編集者の視点】

今回の試算で、いちばん意外だったのは、差の大きさそのものより、差の出どころです。日額の割合の差は、80%と3分の2の違いで、日額にすると1200円です。最初の3日間に、事業主の補償が入るかどうかのほうが、短い休みでは効いてきます。

ただし、どちらが多いかは、選べる話ではありません。仕事や通勤が原因なら労災、それ以外なら傷病手当金で、原因を決めるのは、本人でも会社でもなく、労働基準監督署です。多いほうを選ぶ視点ではなく、原因を正しく申請書に書く視点が、出発点になります。

この記事は、特定の制度の使い方を勧めるものではありません。標準報酬月額や給付基礎日額、会社の補償は、人によって違います。個別の金額は、労働基準監督署と、加入している健康保険の窓口に確認してください。

8. 併給できない理屈:昭和33年の通知は、労災の休業補償を受けていれば、休業補償が少ない部分を除いて傷病手当金は出ないとした

厚生労働省が公開している昭和33年7月8日の厚生省保険局健康保険課長の通知(保険発第95号の2)は、労災の休業補償費を受給している被保険者が、業務外の傷病で労務不能となった場合を扱っています。回答は、休業補償費の額が傷病手当金の額に達しないときのその部分を除き、傷病手当金は支給されないと解するのが妥当、というものです。

通知の背景には、内閣法制局の意見があります。法制局は、傷病手当金も労災の休業補償費も、療養のために働けなくなった労働者の報酬喪失に着目して、生活保障を図る点で、法的機能は全く同じと整理しました。すでに同じ機能が果たされているのに、重ねて傷病手当金を支給するのは、制度の本旨に照らして趣旨ではない、としています。

厚生省が通知の前に示した理由も、原文に残っています。保険事故は二つでも、保障の対象は、労務不能による収入の途絶や減少という一つの実態であること。併せて受けると、就労している場合の所得を上回り、公平に反することです。当時の傷病手当金は、標準報酬日額の100分の60と書かれており、現在の協会けんぽの案内の3分の2とは、割合が違います。

この通知は、昭和33年のものです。ただ、現在の協会けんぽの申請書にも、「別傷病により、労災保険から休業補償給付を受給していますか」という質問があります。休業補償給付支給決定通知書のコピーを添える決まりも、申請書のページにあります。考え方が、いまの手続きにつながっていると読めます。

齊藤 慧
「両方もらえたら助かるのに」と思うのは、ごく自然な気持ちです。ただ、通知を読むと、制度は、働けない間の生活を一度は支える、という同じ役割を持っています。二重にならない仕組みは、冷たい線引きというより、公平さを保つ工夫として作られたものだと、受け止めてみてはいかがでしょうか。

9. 請求中の扱い:労災の認定を待つ間も傷病手当金は申請でき、認定されると返納になる

協会けんぽ北海道支部の令和8年3月13日の資料は、傷病手当金の申請書の書き方を説明しています。傷病の原因は必ず記入すること(業務外での傷病は「1」)。労災や通災を請求中の場合でも申請できますが、その場合は「2」を記入し、労働基準監督署名も記入すること、とあります。

同じ資料に、労災や通災が認定された場合、傷病手当金を返納いただくことになる、という注意書きがあります。労災の認定には、時間がかかることがあります。その間の生活を支える意味で、傷病手当金を先に申請できる一方、認定後は返納が生じることを、前提にしておく必要があります。

返納の金額や、重なった期間の範囲は、確認した一次資料に詳しい記載がありません。労災の給付と重ならない部分があるかどうかも、個別の状況で違うと考えられます。労災を請求している場合は、協会けんぽの支部に状況を伝え、返納の見込みを確認してください。

9.1 【労災と傷病手当金が重なりうる3つの場面:申請書での扱い】

  • 労災を請求中で、認定を待っている:傷病手当金の申請書では、傷病の原因を書き、労災の欄で「請求中」を選び、労働基準監督署名を書きます。労災が認定されると、傷病手当金を返納します。
  • 別の傷病で、労災の休業補償給付を受けている:申請書の質問に答え、休業補償給付支給決定通知書のコピーを添えます。休業補償の額が傷病手当金の額に達しない部分を除き、傷病手当金は支給されません。
  • 仕事が原因かどうか、判断が難しい:傷病の原因を正しく書きます。業務上・通勤災害は傷病手当金の対象外です。労災に当たるかどうかを判断するのは、勤務先を管轄する労働基準監督署です。

表を見ると、3つの場面とも、傷病手当金の申請書に、労災の状況を書く流れになっています。迷ったら、労災に当たりそうかを、先に労働基準監督署に聞いておくと、申請書の「原因」と「請求中」の欄に、迷わず書けます。

10. 請求の書類と期限:労災は様式第8号か第16号の6を労働基準監督署へ、傷病手当金は申請書を協会けんぽの支部へ

福井労働局の案内によると、労災の休業補償給付は、所轄の労働基準監督署長に、請求書を提出します。業務災害は、様式第8号の休業補償給付支給請求書、通勤災害は、様式第16号の6の休業給付支給請求書です。請求書は、業務災害と通勤災害の別によって違います。

傷病手当金は、協会けんぽの申請書ページによると、加入している協会けんぽの支部に、申請書を出します。審査の結果、支払い可能であれば、受付日から10営業日以内に支払うとされています。電子申請が勧められています。

どちらも、期限があります。労災の休業(補償)等給付は、賃金を受けない日ごとにその翌日から2年です。傷病手当金も、協会けんぽの申請書ページによると、健康保険給付を受ける権利は、受けることができるようになった日の翌日から2年で時効になります。傷病手当金の起算日は、労務不能であった日ごとにその翌日です。

日ごとに数えるため、古い日の分から順に、時効を迎えます。労災か傷病手当金かで迷っているうちに、日数が過ぎることもあります。迷う場合は、早めに労働基準監督署と協会けんぽの支部に、相談してください。

齊藤 慧
会社との関係を考えると、「仕事が原因です」と言い出しにくい場面もあるかと思います。それでも、休んでいる間の生活は、あなた自身のものです。判断に迷う気持ちを、ひとりで抱え込まなくてよいのです。窓口は、制度の使い方を教えてくれる場所ですので、事情をそのまま伝えてみてください。

11. 【編集者の視点】

今回の整理で、いちばん気になったのは、「先にもらえるものをもらう」という発想が、あとで返納につながりうる点です。労災の認定を待つ間に、傷病手当金を申請できるのは、生活を支える意味では大切です。一方、認定後には、返納が生じます。

受け取った傷病手当金を、すぐに使い切ってしまうと、返納の通知が来たときに、負担が大きくなります。返納の範囲は、確認した一次資料では確定できませんでした。請求中に傷病手当金を受け取る場合は、返納がありうることを、頭の片隅に置いておくことをおすすめします。

この記事は、特定の申請の順序を勧めるものではありません。労災の認定、傷病手当金の返納、会社の補償は、個別の事情で変わります。労働基準監督署、協会けんぽの支部、社会保険労務士などに、個別に確認してください。

齊藤 慧
病気やケガで休むと、収入の不安と、体の不安が、同時に押し寄せます。制度の違いを知ることは、そのうちの一つの不安を、小さくする助けになります。この記事の表が、窓口で相談するときの、ひとつの目安になれば幸いです。分からない点は、遠慮なく聞いてみてください。※本記事は、編集部が厚生労働省と協会けんぽ、労働局が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。

12. まとめ

仕事中や通勤途中の傷病は労災保険、それ以外は傷病手当金で、本人が選ぶ制度ではありません。休業4日目からの日額は、労災が給付基礎日額の80%、傷病手当金が標準報酬月額の平均の30分の1の3分の2です。最初の3日間は、傷病手当金は支給がなく、労災は業務災害なら事業主が平均賃金の60%を補償します。

標準報酬月額27万円、給付基礎日額9000円と仮定して30日休むと、労災が21万600円、傷病手当金が16万2000円です(編集部試算)。労災を請求中でも、傷病手当金は申請でき、労災が認定されると返納になります。請求の期限は、どちらも日ごとにその翌日から2年です。

別の傷病で労災の休業補償給付を受けているときは、休業補償の額が傷病手当金の額に達しない部分を除き、傷病手当金は支給されません(昭和33年の通知)。労災に当たるかどうかの判断は、労働基準監督署が行います。個別の取り扱いは、労働基準監督署と協会けんぽの支部に確認してください。

13. よくある質問

13.1 Q. 仕事中のケガで、傷病手当金は使えますか?

使えません。協会けんぽは、業務上・通勤災害によるもの(労災保険の給付対象)は、傷病手当金の支給対象外としています。仕事中や通勤途中のケガは、労災保険の手続きになります(協会けんぽ)。

13.2 Q. 労災と傷病手当金を、同時にもらえますか?

別の傷病で労災の休業補償給付を受けている場合は、休業補償の額が傷病手当金の額に達しない部分を除き、傷病手当金は支給されません。同じ傷病で重ねて受け取れる仕組みは、確認した資料にありません(昭和33年の通知、協会けんぽ)。

13.3 Q. 労災と傷病手当金は、どちらが多いですか?

日額の割合は、労災が給付基礎日額の80%、傷病手当金が標準報酬月額の平均の30分の1の3分の2です。標準報酬月額27万円、給付基礎日額9000円と仮定して30日休むと、労災が21万600円、傷病手当金が16万2000円です。仮定の例で、実際は人によって違います(編集部試算)。

13.4 Q. 労災の認定を待つ間、傷病手当金を申請してもよいですか?

申請できます。申請書の労災の欄で「請求中」を選び、労働基準監督署名を書きます。労災が認定されると、傷病手当金を返納します(協会けんぽ北海道支部)。

13.5 Q. 最初の3日間は、もらえますか?

傷病手当金は、連続する3日間の待期に支給がなく、有給休暇や公休日も数えます(協会けんぽ)。労災は、業務災害なら事業主が平均賃金の60%を補償し、通勤災害は事業主の補償責任がありません(福井労働局)。

13.6 Q. 労災と傷病手当金は、いつまで受け取れますか?

傷病手当金は、支給を開始した日から通算して1年6か月です(協会けんぽ)。労災の休業(補償)等給付は、療養のため労働できず賃金を受けていないという要件を満たす限り、休業第4日目からその期間中支給されます(厚生労働省)。

13.7 Q. 請求の期限は、いつまでですか?

労災の休業(補償)等給付は、賃金を受けない日ごとにその翌日から2年です(厚生労働省のQ&A)。傷病手当金も、労務不能であった日ごとにその翌日から2年です(協会けんぽ)。

13.8 Q. 仕事が原因かどうか、自分で判断できないときはどうしますか?

労災に当たるかどうかを判断するのは、勤務先を管轄する労働基準監督署です。判断が難しい場合は、労働基準監督署に相談してください(協会けんぽ鹿児島支部、平成24年6月の案内)。

参考資料

齊藤 慧