「失業者が増えた」という見出しを目にして、景気の先行きが気になった方もいるのではないでしょうか。

総務省統計局が2026年10月2日に公表した「労働力調査(基本集計)2026年(令和8年)8月分結果」によると、完全失業者は前年同月比2万人減の180万人でした。一方で、自己都合で離職した人は4万人増の84万人に上ります。

全体が減る中で自己都合の離職が増えた背景を、数字の比べ方の違いに注目して整理しましょう。

1. そもそも「完全失業者」とは?自己都合の離職者はどこに入る?

労働力調査でいう完全失業者とは、仕事がなく、仕事があればすぐに就くことができ、調査週間中に仕事を探していた人のことです。

求職理由は「非自発的な離職」「自発的な離職(自己都合)」「新たに求職」の3つに大きく分かれています。自己都合は、自分や家族の都合で離職した人が該当し、定年や倒産・人員整理による離職とは別に数えられる区分です。

会社に在籍したまま転職活動をしている人や、すでに転職先で働き始めた人は、就業者として数えられるため、完全失業者には含まれません。

2. 8月の完全失業者は何人?自己都合は何人増えた?

求職理由別にみた完全失業者数(2026年8月)1/4

求職理由別にみた完全失業者数(2026年8月)

出所:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2026年(令和8年)8月分結果」表4をもとにLIMO編集部作成

2026年8月の完全失業者数は180万人で、前年同月より2万人少なく、13か月ぶりの減少となりました。

求職理由別にみると、自己都合による離職は84万人で、前年同月から4万人増えています。非自発的な離職は41万人で2万人減り、新たに求職した人は45万人で2万人減でした。

非自発的な離職の内訳は、勤め先や事業の都合が23万人で2万人減、定年や雇用契約の満了が19万人で1万人増です。

自己都合の84万人を完全失業者全体の180万人で割ると、約47%になります。前年同月は80万人を182万人で割った約44%でしたから、割合は約3ポイント高まりました。

男女別では、男性が47万人で6万人増、女性が37万人で1万人減と、増加は男性に偏っています。

なお、統計表の注記では、総数に分類不能や不詳の数を含むほか四捨五入もしているため、総数と内訳の合計は必ずしも一致しない点に留意が必要です。

3. 「失業者が10万人増」は本当?原数値と季節調整値の違い

完全失業者数の「前年同月比」と「前月比」の違い2/4

完全失業者数の「前年同月比」と「前月比」の違い

出所:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2026年(令和8年)8月分結果」表4・表6をもとにLIMO編集部作成

季節調整値でみると、8月の完全失業者は177万人で、前月から10万人(6.0%)増えました。完全失業率(季節調整値)も2.5%と、前月の2.4%から0.1ポイント上昇しています。

前年同月比で2万人減という結果と向きが逆に見えるのは、比べている相手が違うためです。原数値の前年同月比は、季節による変動を含んだまま同じ月どうしを比べる見方になります。これに対して季節調整値の前月比は、季節の影響をならし、直前の月からの変化をつかむための数字です。

増加分の内訳を求職理由別にみると、自己都合の離職が81万人で6万人増と最も大きく、非自発的な離職は40万人で2万人増、新たに求職した人は46万人で1万人増でした。なお、季節調整値は項目ごとに調整しているため、内訳の合計は総数と一致しません。

ただし、7月は8万人減の167万人だったため、8月の増加はその直後の動きです。6月の175万人と比べると、8月との差は2万人にとどまります。単月の動きだけで雇用環境が悪化したと判断するのは、慎重に考えたいところです。

4. 非正規雇用は増えている?減っている?

雇用形態別でも、どの基準で見るかによって向きが変わります。

原数値の前年同月比では、非正規の職員・従業員は2126万人で15万人増え、5か月連続の増加です。役員を除く雇用者に占める非正規の割合は36.3%で、前年同月と同率でした。

正規の職員・従業員も3735万人で24万人増え、34か月連続で増加しています。

一方、季節調整値の前月差をみると、非正規は2132万人で、前月より10万人減りました。5月に14万人減、6月に21万人減、7月に10万人減と続き、前月差では4か月連続の減少です。

前年同月と比べた構造の変化なのか、直近の短い動きなのかを切り分けて確認することが欠かせません。

熊谷 良子

ニュースで「失業者が増えた」と聞くと、景気が急に悪くなったように感じやすいものです。ただ、統計には前年の同じ月と比べる見方と、直前の月と比べる見方があり、同じ月の数字でも向きが逆になることがあります。

今回も、原数値では前年同月より2万人減りましたが、季節調整値では前月より10万人増えました。どちらかが誤りというわけではなく、見ている基準が違うだけです。

また、自己都合で離職した人が増えたという事実も、基本集計の数字だけでは理由の中身までは読み取れません。景気の悪化とも、よりよい条件を求める動きとも、すぐには結びつけにくいでしょう。

数字が大きく見えても、母数や比べる相手が変われば、受け取り方は変わってくるものです。数字を見るときは、何と何を比べているのかを最初に確かめておくと、見出しに振り回されにくくなります。

5. 労働力調査の数字を読むときの3つの注意点

注意点は3つあります。数字をそのまま受け取らないために、順に押さえておきましょう。

5.1 注意点1:前年同月比か前月比か、原数値か季節調整値かを確かめる

最初の注意点は、どの数字がどの基準で出されたのかを確かめることです。

原数値は季節による変動を含んだ実際の人数を表し、季節調整値は季節要因を取り除いて月ごとの変化を見やすくしたものになります。前年同月比と前月比とでは、同じ月でも増減の向きが逆になることが珍しくありません。

また、季節調整値は毎年1月分の結果を公表する際に、前年12か月分を加えて再計算されるため、後から数字が改定される点にも注意が必要です。

5.2 注意点2:自己都合の離職者は職探し中の人であり、転職を終えた人ではない

転職者数と転職等希望者数の推移3/4

転職者数と転職等希望者数の推移

出所:総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2026年(令和8年)4〜6月期平均」追加参考表をもとにLIMO編集部作成

2つめの注意点は、完全失業者に数えられる自己都合の離職者は、仕事を辞めて職を探している人であり、転職を終えた人ではないという点です。

総務省統計局が2026年8月10日に公表した「労働力調査(詳細集計)2026年(令和8年)4〜6月期平均」によると、同期間の転職者数は325万人で、前年同期と同数でした。転職者とは、就業者のうち前職があり、過去1年間に離職を経験した人を指します。

転職者数と転職等希望者数の推移は次のとおりです。

  • 2025年4〜6月期:転職者数325万人(前年同期比1万人減)、転職等希望者数1000万人(5万人増)
  • 2025年7〜9月期:転職者数331万人(15万人減)、転職等希望者数1019万人(18万人増)
  • 2025年10〜12月期:転職者数337万人(10万人減)、転職等希望者数1045万人(60万人増)
  • 2026年1〜3月期:転職者数312万人(16万人減)、転職等希望者数1017万人(12万人減)
  • 2026年4〜6月期:転職者数325万人(同数)、転職等希望者数969万人(31万人減)

転職者数は2026年1〜3月期まで4期連続で前年同期を下回り、転職等希望者数は4〜6月期まで2期連続で減りました。

前職の離職理由をみると、離職した失業者127万人のうち、「より良い条件の仕事を探すため」は20万人で前年同期より1万人増にとどまっています。一方、「家事・通学・健康上の理由のため」は26万人で7万人増えました。

自己都合の離職が増えたことを、そのまま転職の活発化や、より良い条件を求める動きの広がりと結びつけるには、慎重さが必要です。なお、詳細集計は基本集計の約4分の1の世帯が対象で、数値は基本集計と必ずしも一致しません。

5.3 注意点3:単月の数字は標本調査のため振れやすい

3つめの注意点は、労働力調査は標本調査であり、単月の数字は上下に振れやすいという点です。

1か月の増減だけで中長期の傾向を断じず、複数の月や四半期の推移とあわせて確認すると、判断を誤りにくくなります。

6. 求人の側から見ると何が起きている?もう一つの公的統計で確認

求人の動き(2026年8月)4/4

求人の動き(2026年8月)

出所:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)について」をもとにLIMO編集部作成

人の動きを示す労働力調査とあわせて、企業の需要を示す求人側の公的データも確認しておきましょう。

厚生労働省が2026年10月2日に公表した「一般職業紹介状況(令和8年8月分)について」によると、8月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍で、前月と同水準でした。正社員の有効求人倍率は1.00倍で、こちらも前月と同水準です。

新規求人倍率(季節調整値)は2.06倍で、前月から0.04ポイント下がっています。8月の新規求人(原数値)は前年同月比で3.4%減でした。

産業別では、製造業が3.9%増、情報通信業が3.3%増となった一方、宿泊業,飲食サービス業は11.1%減、卸売業,小売業は10.2%減と、業種ごとに明暗が分かれています。

求人が求職者を上回る状況は続いているものの、新規求人は前年を下回っており、業種による差も大きい状況です。なお、一般職業紹介状況はハローワークの求人・求職をまとめた統計であり、労働力調査とは集計の元が異なるため、数字を直接比べることはできません。

7. まとめにかえて|雇用統計の数字を読み分ける3つの視点

数字の背景を落ち着いて読み解くために、次の3つの視点を意識してみましょう。

  1. 前年同月比か前月比かを確認する:年単位の変化なのか、直近の短い動きなのかを見分けましょう。
  2. 原数値か季節調整値かを確かめる:季節要因を含むかどうかで、増減の向きが変わることがあります。
  3. 離職者と転職者の違いを区別する:職探し中の人と、転職を終えた人を混同しないことが大切です。

公表資料の数字を一つずつ確かめる習慣が、日々のニュースを冷静に受け止める土台になります。

熊谷 良子

雇用に関する統計は、見出しだけを追うと不安になりがちです。けれども、公表資料の概要ページには、前年同月比も前月比も、原数値も季節調整値も並んで載っています。気になる数字を見かけたら、元の資料を開いて、何と何を比べた数字なのかを確かめてみてください。

自分や家族の働き方を考えるときにも、同じ視点が役に立つはずです。転職や再就職を検討する場合は、人の動きを示す統計と、求人の動きを示す公的データを見比べると、全体の様子をつかみやすくなります。

数字の読み方に少し慣れるだけで、ニュースとの付き合い方はぐっと楽になるでしょう。最初は、前年同月比と前月比の違いを意識するだけでも十分です。一度にすべてを覚える必要はありません。落ち着いて情報を選びながら、これからの働き方や暮らしの計画を、ご自身のペースで考えていってください。

参考資料