個人向け国債は、銀行の窓口でも買えます。
では、その銀行が破綻したらどうなるのでしょうか。預金保険で守られるのは1000万円までだと聞いたことがある方なら、残りはどうなるのかと気になるはずです。
結論から書くと、国債は預金保険の対象ではありません。 ただしこれは「守られない」という意味ではありません。そもそも仕組みが違います。
1. 預金保険が守るのは1金融機関あたり元本1000万円までと利息
はじめに、預金のほうから確認します。
預金保険制度で保護されるのは、一般の預金等であれば1金融機関ごとに預金者1人あたり元本1000万円までと、その利息等です。無利息・要求払い・決済サービスという3つの条件を満たす決済用預金は全額が保護されますが、ふつうの普通預金や定期預金は1000万円が上限になります。
同じ銀行の複数の支店に預けていても、合算されます。1000万円を超えて預けている部分は、破綻時に全額が戻るとは限りません。
これが「1000万円の壁」と呼ばれるものです。
2. 国債が預金保険の対象外なのは、守られないという意味なのか?
一方、国債は預金保険の対象外です。外貨預金や投資信託と同じく保護対象から外れています。
ここだけを読むと、国債のほうが危ないように見えます。「預金なら1000万円までは守られるのに、国債は一円も守られないのか」と。
そうではありません。対象外なのは、預金保険という仕組みを必要としないからです。
財務省の回答は「振替口座簿の記載又は記録により権利が定まる」
財務省は、個人向け国債のQ&Aでこの点に答えています。
振替口座簿の記載又は記録により権利が定まるため、取扱機関が破綻した場合でも、その権利は保護され、利子や償還金がもらえなくなることはありません
いまの国債は、振替国債という形で金融機関が管理する振替口座簿に記録されています。その記録は、金融機関の財産ではありません。 誰がいくら国債を持っているかを記録しているだけで、金融機関の懐に入っているわけではない。だから金融機関が破綻しても、記録に基づく権利はそのまま残ります。
3. 預金と国債では、お金を貸している相手が違う
なぜこうなるのか。お金の流れをたどると、はっきりします。
預金は、銀行にお金を貸している状態です。預金は銀行にとっての負債であり、集めたお金を銀行は貸出や運用に回します。だから銀行が破綻すれば、貸したお金が戻らない可能性が出てきます。その穴を埋めるために、1000万円までという保険が用意されているわけです。
国債は、国にお金を貸している状態です。お金は国に渡っていて、銀行は帳簿を預かっているにすぎません。銀行が破綻しても、国に対する債権は消えません。保険で埋めるべき穴が、そもそも開かないということになります。
同じ窓口で買っていても、お金を貸している相手が違う。 ここが預金と国債の決定的な差です。
4. 個人向け国債に購入の上限がないのはなぜか
この構造が分かると、もうひとつの事実にも説明がつきます。
個人向け国債には、購入金額の上限がありません。 最低額面は1万円で、1万円単位であればいくらでも買えます。
預金のように「1金融機関あたり1000万円」という線を引く必要がないからです。何億円分を持っていても、権利は振替口座簿の記録で定まります。
1000万円を超える資金をどこに置くか、という悩みに対しては、選択肢のひとつになりうるということです。もっとも、個人向け国債は発行後1年間換金できませんから、すぐ使う予定のお金には向きません。
※上記の点についてはは「個人向け国債は預金の代わりか?」で整理しましたので、興味があれば、参考にしてみて下さい。
5. 元機関投資家イズミダの視点
ここまでの話を、ひとつの言葉に置き換えておきたいと思いますーーー「リスクが消えたのではなく、リスクの相手が変わった」ということです。
預金で負っているのは、その銀行が破綻するかどうかというリスクです。国債で負っているのは、国が利子や元本を払えなくなるかどうかというリスクです。銀行の信用から、国の信用に乗り換えているという理解が正確だと思います。
「国の信用は銀行より強い」というのが一般的な整理でしょう。ただし「絶対に安全」と言い切れるものでもありません。債券である以上、発行体の信用リスクからは逃れられません。
※株式と債券でリスクの性質がどう違うかは「元機関投資家が教える株式投資と債券投資のメリットとデメリットー知っておきたい12の視点」で整理しています。
機関投資家の世界では、この二つを分けて管理します。取引相手が潰れるリスク(倒産リスク)と、発行体が払えなくなるリスク(信用リスク)です。どこの証券会社を通したかと、何を買ったかは、別の話として扱います。
個人も、同じ整理ができます。どこで買ったかと、誰にお金を貸したか。 この二つを分けて見ると、「銀行が潰れたら」という不安が、どこにかかる不安なのかがはっきりします。
資産を置く先を考えるときは、商品の名前ではなく、最終的に誰の信用に乗っているのかまで一度たどってみる。手間はかかりますが、一度やっておけば判断の軸が残ります。
※資産全体をどう配分するかという観点は「国の年金運用機関GPIFは、なぜ4資産に25%ずつ分けるだけなのか?」も参考になると思います。