転職したばかりで健康保険の手続きが終わっておらず、病院で医療費を全額支払った。医師の指示でコルセットを作った。整骨院やはり・きゅうに通っている。こうした場面で関わってくるのが、健康保険の「療養費」です。
全国健康保険協会(協会けんぽ)によると、医療費の全額を立て替えた場合などは、あとで申請すると療養費として払い戻しを受けられます。ただし、戻るのは支払った額の全額ではなく、療養費を受ける権利は2年で時効になります。
本記事では、療養費が支給される場面ごとの条件・支給額・申請方法と、申請期限の数え方を、協会けんぽの資料をもとに解説します。
1. そもそも「療養費」とは?医療費を立て替えたときに払い戻される健康保険の給付
療養費は、健康保険の加入者がいったん医療費の全額を支払い、あとから協会けんぽに請求して払い戻しを受ける給付です。
協会けんぽの案内では、健康保険は医療機関の窓口にマイナ保険証等を提示して診療を受ける「現物給付」が原則です。やむを得ない事情で現物給付を受けられないときや、治療のために装具が必要になったときなどに、療養費の対象になります。※被扶養者の場合は「家族療養費」として払い戻されます。
1.1 療養費は保険診療を基準に計算した額から自己負担分を差し引いて支給される
療養費では、支払った医療費がそのまま全額戻るわけではありません。協会けんぽが保険診療の基準で計算した額から、自己負担分を差し引いた額が支給されます。
実際に支払った額が基準の額より少ないときは、実際に支払った額が計算のもとになります。仮の数字で、払い戻される額の計算イメージを確認しましょう。
協会けんぽの資料にある計算方法に、仮の金額を当てはめると次のとおりです。
- 保険診療の基準で1万円の医療費を全額支払った70歳未満の被保険者(3割負担):療養費は7000円
- 協会けんぽの計算額が3万円の治療用装具に3万5000円を支払った70歳未満の被保険者(3割負担):療養費は2万1000円
治療用装具は、協会けんぽが障害者総合支援法等により定められた額にもとづいて計算します。実際に支払った額がそれを超える場合は、協会けんぽが計算した額の範囲での支給です。
※保険診療が認められていない処置や薬剤、予防注射などの費用は、療養費の計算から除かれます。一部負担金の割合は、70歳以上の被保険者は原則2割(現役並み所得者は3割)です。
1.2 療養費が支給される主な場面
協会けんぽは、療養費の給付の範囲として次の場面を挙げています。
- やむを得ず保険医療機関でない病院などで診療を受けたとき
- 資格取得届の手続き中で保険証を提示できず、自費で診療を受けたとき
- コルセットなどの治療用装具を医師の指示で作成し、装着したとき
- 生血液の輸血を受けたとき
- 臍帯血を搬送したとき
- 海外の医療機関で診療を受けたとき(治療を目的に海外に出向いた場合は対象外)
このほか、整骨院・接骨院での柔道整復師の施術や、はり・きゅう、あん摩・マッサージの施術も、一定の要件を満たせば療養費として健康保険の対象になります。
なお、海外で受けた診療は「海外療養費」として申請書や窓口が別に設けられています。医師の指示で移送されたときの「移送費」も、療養費とは別の給付です。
2. 療養費が支給される場面ごとの条件・支給額・申請方法
療養費の申請書や添付書類は、場面によって異なります。協会けんぽの資料から、場面ごとに確認していきましょう。
2.1 マイナ保険証等を提示できず医療費を全額支払ったとき(立替払)
マイナ保険証や資格確認書等を医療機関に提示できず、医療費を自費で支払ったときは、療養費の対象になります。協会けんぽのよくある質問では、マイナ保険証を紛失した場合など、やむを得ない理由があるときとしています。
- 支給額:保険診療の基準で計算した額(実際に支払った額の方が低いときはその額)から、自己負担分を差し引いた額
- 申請書:健康保険療養費支給申請書(立替払等)
- 添付書類:傷病名が記載された処方箋等のコピーなど診療内容を記載した証明書、領収書(領収明細書)
以前加入していた国民健康保険などの資格で受診し、医療費をその保険者に返還したときも療養費の対象です。この場合は、返還した保険者から交付された診療報酬明細書と領収書を添付します。※診療報酬明細書が封かんされているときは、開封せずに封筒ごと添付します。
2.2 医師の指示で治療用装具や治療用眼鏡を作ったとき
医師の指示により、治療用眼鏡・弾性ストッキング・足底装具などの治療用装具を購入、装着したときも療養費の対象です。協会けんぽのよくある質問では、支給対象となる治療用装具の例として次のものを挙げています。
- 関節用装具、コルセット
- 小児の弱視、斜視及び先天白内障術後の屈折矯正の治療用として用いる眼鏡およびコンタクトレンズ(9歳未満の小児のみ対象)
- リンパ節郭清術を伴う悪性腫瘍の術後に発生する四肢のリンパ浮腫の治療のために使用される弾性着衣等
- 眼球摘出後眼窩保護のために装用を必要とする義眼
- 症状固定前の練習用仮義足
装具ごとに支給上限額があります。申請書は「健康保険療養費支給申請書(治療用装具)」で、装具の名称・種類・費用額などが記載された領収書と、医師が記入・証明した「治療用装具製作指示装着証明書」を添付します。
※靴型装具は現物の写真、弾性着衣等は医療機関が発行した「弾性着衣等装着指示書」、治療用眼鏡等は医師の「眼鏡等作成指示書」のコピーが必要です。
2.3 柔道整復師(整骨院・接骨院)で骨折・脱臼・打撲・捻挫の施術を受けたとき
整骨院や接骨院で、骨折、脱臼、打撲及び捻挫(いわゆる肉ばなれを含む)の施術を受けた場合は、健康保険の対象になります。骨折と脱臼は、緊急の場合を除き、あらかじめ医師の同意を得ることが必要です。
療養費は、本来は全額を支払ってから自分で請求する「償還払い」が原則です。ただし柔道整復では、自己負担分だけを柔道整復師に支払い、残りを柔道整復師が患者に代わって請求する「受領委任」が認められています。
このため、多くの整骨院・接骨院の窓口では、病院と同じように自己負担分のみの支払いで施術を受けられます。受領委任の場合は、柔道整復師が患者に代わって保険請求を行うため、施術を受けるときに必要書類へ患者のサインが必要です。
2.4 はり・きゅう、あん摩・マッサージの施術を受けたとき
はり・きゅうの施術は、次の3つの要件を満たす場合にのみ健康保険の対象になります。
- 対象となる傷病であること(神経痛、リウマチ、五十肩、頸腕症候群、腰痛症、頸椎捻挫後遺症)
- 医師がはり・きゅうの施術について同意していること
- 医師による適当な治療手段がない場合であること
※神経痛・リウマチなどと同一範疇と認められる慢性的な疼痛も、対象として認められる場合があります。
あん摩・マッサージは、筋麻痺・関節拘縮等の症状があり、関節の可動域の拡大と筋力増強を促して症状の改善を目的とする施術が必要と、医師が同意している場合に限られます。疲労回復や慰安目的のマッサージは対象外です。
どちらも初回の申請時に医師の同意書を添付し、継続して施術を受けるには6か月ごとに文書による同意が必要です。柔道整復と同じく受領委任が認められており、多くの施術所では自己負担分のみの支払いで施術を受けられます。
3. 療養費の申請期限は2年。時効の起算日は場面ごとに決まっている
療養費は、期限を過ぎると請求できなくなります。協会けんぽは、健康保険給付を受ける権利は、受けることができるようになった日の翌日(消滅時効の起算日)から2年で時効になるとしています。
3.1 療養費の消滅時効の起算日は「支払った日の翌日」が中心
協会けんぽの申請書のページから、立替払等と治療用装具の起算日を確認しましょう。
- 医療費を自費で支払ったとき:医療機関に医療費等を支払った日の翌日
- 国民健康保険など他の保険者の被保険者証を使用したため医療費の返還を行ったとき:診療を受けた日の翌日
- 限度額適用・標準負担額減額認定証を提示せず、入院時の食事の標準負担額を減額されない金額で支払ったとき:医療機関等に食事療養標準負担額を支払った日の翌日
- 生血液を輸血したとき:生血代を支払った日の翌日
- 臍帯血を搬送したとき:搬送に要した費用を支払った日の翌日
- 自己負担額が2割負担の70歳以上の方が、やむを得ず3割負担で医療費を支払ったとき:医療機関窓口等で医療費を支払った日の翌日
- 治療用装具等を購入(装着)したとき:治療用装具等の購入費用を支払った日の翌日
他の保険者に医療費を返還したケースだけは、返還した日ではなく「診療を受けた日の翌日」から数える点に注意が必要です。
3.2 療養費の申請書は協会けんぽ支部へ郵送するか電子申請する
療養費(立替払等、治療用装具)の申請は、協会けんぽが電子申請をすすめています。紙の申請書は、加入している協会けんぽ支部へ郵送します。
加入している支部は、「資格情報のお知らせ」またはマイナポータルで確認できます。※協会けんぽ支部の窓口で、現金による支払いは行っていません。
療養費は、自分から申請して初めて払い戻される給付です。立て替えた医療費や装具の費用は家計への影響も小さくないため、領収書と医師の証明書類をまとめて保管し、2年の期限内に手続きを済ませておくと安心です。
