日本の半導体産業を代表する企業の一つ、ルネサスエレクトロニクス(6723)。昨今の半導体ブームの中で、株価チャートの動きから「AIやデータセンター関連の主要部品を握っているのではないか」という印象を持った方もいるのではないでしょうか。
しかし直近の決算を紐解くと、同社の主役はデータセンター向けではなく、意外にも「自動車向け」であることが分かります。一体なぜ、半導体メーカーであるルネサスの業績は自動車産業とこれほど深く結びついているのでしょうか。
この秘密について、元機関投資家の泉田良輔氏がルネサスエレクトロニクスの事業構造を読み解き、今後の成長を左右する分岐点を解説します。
1. 半導体ブームの中で見落とされがちな「本当の稼ぎ頭」
半導体関連銘柄と聞くと、多くの人はAI(人工知能)やデータセンターに使われる最先端のチップを作っている会社を想像するのではないでしょうか。インタビュアーも、ルネサスエレクトロニクスに対して「データセンターの主要な製品や部品を握っている」という印象を持っていたと語ります。
しかし、実際の売上構成を見ると、そのイメージとは異なる実態が浮かび上がってきます。
同社が直近の四半期(2026年4-6月期)に稼いだ売上収益は4,053億円です(買収にともなう償却などを除いた、会社独自の集計にもとづく数字)。その内訳を見ると、単一の事業としてもっとも大きいのは「自動車向け事業」の1,871億円です。これに対し、産業向け・インフラ向け・IoT向けの3つを合わせた「産業・インフラ・IoT向け事業」が2,163億円となっています(このほかに「その他」の事業が少額あります)。
泉田氏は、ルネサスの主力製品について次のように指摘します。
「データセンター用ではないです。いわゆるそれ以外のもの、産業・インフラ・IoT向け事業というのに入ってまして(中略)一番大きい事業なんですかというと、自動車向けの事業が一番大きいですよというのが、この会社の特徴なんですよ」
なお、データセンター向けの製品について会社側は明確な内訳を開示していませんが、泉田氏は「インフラ向けに入っているかもしれない」と推測しています。いずれにせよ、単一の事業として最大の稼ぎ頭となっているのは自動車向けです。
2. なぜ「自動車と産業」に強いのか? 生い立ちと主力製品
では、なぜルネサスは自動車向けにこれほど強いのでしょうか。それを理解するには、同社が何を作っているのか、そしてどのような歴史を辿ってきたのかを知る必要があります。
ルネサスの主力商品は「マイクロコンピュータ(マイコン)」と呼ばれる半導体です。これは、自動車のエンジンをコントロールするユニット(ECU)や、ボディの制御など、自動車の電装化に欠かせない部品として使われています。
そして、この得意分野は同社の成り立ちと深く関係しています。泉田氏によれば、ルネサスは日立製作所と三菱電機の半導体部門が合弁で設立した会社に、後からNECエレクトロニクスが合流して生まれた会社です。
泉田氏はこの生い立ちについて、次のように解説します。
「いわゆる産業エレクトロニクスメーカーの半導体、マイコン部門が合併してできた会社なんですよ」
日立や三菱電機といった母体企業は、もともと産業用の機械やモーター、インバータなどを製造しており、その下地があったからこそ、ルネサスは自動車用と産業用のマイコンに強みを持っているのです。
泉田氏は、ルネサスを自動車向けマイコンが得意でグローバルでのシェアも高く、それを堅実に続けている会社だと見ています。メモリ(NANDやDRAM)を手がけるキオクシアや、コンデンサーを主力とする村田製作所などとは、同じ電子部品・半導体セクターであっても、ビジネスの構造が根本的に異なっているのです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日