16. 60歳代に多い「不動産も金融資産もあるのだから、住民税非課税世帯の優遇は関係ないのでは」というご相談。IFA・鶴田 綾が伝えたいこと

60歳代は、退職を迎える時期と、年金を受け取り始める時期が重なり、収入の形そのものが入れ替わる年代です。前半でみたように、住民税が非課税になる世帯には医療や介護の負担を軽くする優遇措置がいくつも用意されていますが、その判定が何を見て行われるのかまでご存じの方は多くありません。郵便局のリテール営業でお金のご相談に応じてきた立場から申し上げると、「自分は不動産も金融資産も持っているのだから、はじめから対象外だろう」と受け止めている方がとても多いという印象があります。相談の場では次のような声を耳にします。

16.1 60歳代に多いお悩み相談は「資産はあるのに手元の預貯金は減っていく。優遇の対象になるのかも分からない」

60歳代(ご相談者)
「退職を迎える時期になり、退職金はすでに受け取り終えました。確定拠出年金や個人年金のほかに、株式や外貨建ての債券、それに不動産もありますので、資産の形だけを見れば持っているほうだと思います。ただ、毎月の生活費は預貯金から出ていく一方で、手元に残っている額は少しずつ目減りしています。物価も上がっていますし、為替が動くたびに債券の評価も変わるので、このまま同じ形で持ち続けていいのか、自分では判断がつきません。住民税が非課税かどうかで受けられる優遇があると聞きましたが、これだけ資産があるなら自分には関係のない話だろうと思っています。確定拠出年金の受け取り方も、一括にするのか年金にするのかで迷ったままです」

相談の場でも、資産の形は整っているのに、手元の預貯金が減っていく感覚と、税金の判定の仕組みが結びつかないままの方に数多くお会いします。

16.2 【IFA・鶴田 綾が回答】判定に使われるのは、持っている資産の量ではなく前年の所得

鶴田 綾
「これだけ資産があるのだから優遇は関係ない」と心配されていますが、住民税非課税世帯の優遇はどれだけ資産があるかではなく所得、収入によって決まりますので、そこは資産額は関係ないと安心しても大丈夫だと思います。
また、持っている資産が物価の上昇に耐えられるかについてはネットのインフレ計算機などを活用し、今後物価高が続いた際の生活費などをシミュレーションしておきましょう。
足りない生活費は現在保有している資産を取り崩すだけで足りるのか?それとも保有している資産を運用しながら少しずつ取り崩す必要があるのか?などをIFAなどお金のプロに相談するのも一案です。
プロの意見を聞くことで、保有している資産をどう扱えばいいかが分かりやすくなります。

16.3 ポイント1:持っている資産を、物価が上がっても目減りしないかという目で点検する

まずは、いま持っているものを並べて、物価の上昇に耐えられる形になっているかを確かめましょう。預貯金は額面が減らないという安心感がある一方で、物の値段が上がっていく局面では、同じ金額で買えるものが少しずつ減っていきます。反対に、株式や投資信託、債券、不動産といった資産は、値動きがある代わりに、物価や金利の動きをある程度反映して価値が変わっていく性格を持っています。だからこそ、値動きがあることを理由に慌てて整理してしまうと、物価の上昇に対して無防備な形に寄ってしまうことがあります。区分の異なる資産をすでに複数お持ちであれば、多くの場合、まず必要なのは組み替えではなく、今の形をそのまま維持できるかどうかの確認です。売る前に、何を持っているかを一覧にして、物価が上がっても価値が保たれる部分がどれだけあるのかを見る。この順序を踏まずに動かしてしまうと、後から元の形に戻すことはできません。

16.4 ポイント2:生活費の不足は、受け取りを始める時期と、必要な分だけ解約する方法で埋める

手元の預貯金が毎月少しずつ減っていく状態が続くと、「資産を大きく整理しなければ」という気持ちになりがちです。けれども、埋めるべきなのは毎月の不足であって、資産全体を組み替える必要があるわけではありません。個人年金のように、受け取りを始める時期をこちらで選べるものがあるなら、それを早めに受け取り始めて生活費に充てるという方法があります。受け取る時期を前に動かすだけで、預貯金から出ていく分をそのまま置き換えられることがあるからです。もう一つは、まとまって持っている資産を、必要な分だけ部分的に解約するという考え方です。債券などは、全部を売り切るのではなく、一部だけを解約して現金にする方法が用意されている場合があります。全部か何もしないかの二択で考えるのをやめると、資産の形を大きく崩さずに毎月の不足を埋められると感じています。まずは足りない額の見当をつけて、受け取りの時期で埋められる分と、部分的な解約で埋める分に分けてみましょう。

16.5 ポイント3:金利や為替は当てにいかず、換える時期を決めるための材料としてそろえる

外貨建ての資産をお持ちの方から、いまが円に換えるべき時なのかというご質問をよくいただきます。ただ、海外の政治情勢や各国の金利の動き、そこから生じる為替の水準は、誰かが正確に言い当てられるものではありません。円安の局面では外貨建ての資産が有利に見え、円高に振れれば目減りして見えますが、その方向を予想して動くのは、資産を守る方法にはなりません。そこで確かめておきたいのは、いま自分の資産の評価がどのような外部の事情で動いているのかという点です。金利が上がれば債券の値段は下がる、通貨の組み合わせによって金利の差が生じる、といった関係を押さえておくと、評価額が動いたときに慌てなくなります。予想を当てるためではなく、いつ換えるかを自分で決めるための材料としてそろえる。そう捉え直すと、市場の話を聞くこと自体が、判断を人任せにしないための準備になります。

16.6 ポイント4:一括か年金か。受け取り方の違いは、使える控除と翌年の判定の両方に及ぶ

ここが、はじめのご相談への答えになる部分です。住民税が非課税になるかどうかの判定は、どれだけ資産を持っているかではなく、前年の所得がいくらであったかで行われます。不動産や株式を持っていること自体が判定に使われるわけではありません。だからこそ、大きなお金を受け取る時期と方法が影響してきます。たとえば確定拠出年金は、一括で受け取ると退職金と同じ枠の控除を使うことになり、すでに退職金を受け取っている場合はその枠を使い切っていて、思ったより税金の負担が重くなることがあります。同じ資金を年金の形で分けて受け取れば、公的年金等の控除を使いながら、一年に集まる所得を抑えられる場合があります。どちらが有利かは受け取る額と時期の組み合わせで変わりますが、受け取り方を選べるということは、その年の所得を自分で調整できるということでもあります。

資産があるかどうかではなく、前年の所得がいくらだったか。判定の入り口がそこにあると分かれば、受け取り方や換える時期を自分で決める余地が残っていることも見えてきます。これは一つの考え方であり、どの受け取り方が有利になるかや優遇の対象になるかは、退職金を受け取った時期、保有している資産の区分、世帯の状況によって異なります。判断に迷うときは、契約している商品の条件と受け取りの見込みを手元にそろえて、専門家に相談してみるのも選択肢の1つです。

17. まとめにかえて

神戸市の基準では、ひとりだけの世帯で年金収入のみなら65歳以上で155万円以下、配偶者や扶養親族が1人いれば211万円以下が非課税の目安でした。判定に使われるのは前年の合計所得金額で、土地と建物にいくらの評価額が付いていても、この計算には入りません。試算では、不動産を持つ世帯と持たない世帯が受けられる優遇が年9万2400円で並び、差が出たのは、その不動産が家賃を生んだ年でした。持っているものを数える前に、その年に所得が立つのかどうか。決定通知書か課税証明書を手元に置いて、市区町村の窓口で確かめてみてください。

参考資料

鶴田 綾