台湾TSMCの製造装置の発注額が足元で急拡大している。2020年から立ち上げ予定の5nm世代の投資が活発化しており、2019年7~9月における製造装置の発注額は四半期ベースで過去最高となった。メモリー投資再開の兆しも見え、製造装置市場は底打ち感が出てきたものの、20年以降もこれが持続するかどうかについてはまだまだ不透明なところも多い。
四半期ベースの装置発注額が過去最高
TSMCをはじめとする台湾の大手企業は、台湾証券取引所に装置メーカー、関連設備メーカーに対する発注額を提出しており、これらを「MOPS(Market Observation Post System)」で閲覧することができる。
MOPSに提出されたデータによれば、直近の7~9月期の装置発注額は77億ドル(建屋・付帯設備関連は除く)と過去最高を記録。これまでは四半期ベースで最も高くても40億ドル台であったことを考慮すれば、今回の発注額がいかに高い水準であるかがうかがえる。同社は19年設備投資金額として、100億~110億ドルを計画しているが、4~6月期決算発表時点でこのガイダンスを上回ることを示唆しており、今回のMOPS発注額はこれを裏付けるかたちとなっている。最終的には、120億ドルを超える投資金額となりそうだ。
アップルの採用決定で7月末から装置発注加速
装置発注を牽引しているのは、20年から量産予定の5nmプロセスによるところが大きい。同プロセスはEUVリソグラフィーを本格的に導入する量産プロセスとして、台南の新工場「Fab18」での立ち上げが予定されている。なかでも、最大顧客のアップルが20年のiPhone新機種向けのプロセッサーに5nmの採用を決めたことで、7月末から装置発注が一気に動き出した。
19年末までにおよそ月産4万枚の5nm用装置が導入される見通し。5nmはピーク時の需要として月産5万~6万枚前後が必要とみられており、残りの1万~2万枚分については需要動向をみながら20年以降、導入を行っていく。また、5nmでは7nm+に比べてEUVの採用レイヤー数が3~4倍拡大するとみられており、1台150億円以上と高額なEUV露光装置のほか、マスク関連装置への投資を増やしていることも発注金額増加の背景にある。
サムスンの投資再開で納期問題も
今回のTSMCの投資拡大に続いて動き出したのが、韓国サムスン電子の西安工場第2棟(X2)への投資案件だ。同案件も年内に3万枚規模を導入する予定であったが、TSMCの投資計画が前倒しとなったため、製造装置メーカーの生産スケジュールに余力がなくなっており、サムスンが求める納期スケジュールに応えられない装置メーカーも一部で出てきているようだ。
TSMCの5nm投資、サムスンの西安工場、さらには中国新興メモリー企業の量産ライン投資が動き出してきたことで、製造装置市場は4~6月期を底に回復基調に入ってきた。ただ、現状で具体化してきた案件の多くが年内納入案件で占められており、年明け以降の持続性に疑問が残る。TSMCの5nm投資も納入ベースでは19年に集中するため、20年以降は減速する可能性が高い。やはり他のメモリーメーカーの投資再開が、20年装置市場の浮沈のカギを握ることになりそうだ。
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳