従来、日本には政策の恩恵をできるだけ多くの中小企業に行き渡らせようという平等主義があったことは否定できません。今も、その名残があるように感じます。
しかし近年、世界の中小企業政策の潮流は、日本の改正中小企業基本法(1999年)でもうたわれている通り、「多様で活力ある独立した中小企業者の育成・発展」です。やはり経済政策の実施に際しては、悪平等は非効率であり、限られた予算を高い技術力があって成長意欲の強い一部の中小企業者に集中投入するといった措置が必要でしょう。
創業支援の領域でも、日本政府の日本再興戦略(6次改定)までは、「開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%台)になることを目指す」というKPI(重要業績評価指標)がありました。
しかし、開業数を増加させることを目標にすると、限られた予算をできるだけ多くの起業家や自営業者に分け与えるということになってしまいます。このKPIはあまり意味がないことに気づいたのか、「未来投資戦略2017」では、あまり強調されていないようですが。
一般にアメリカ経済の活力の原因は開業率が高いことにあると誤解されがちですが、肝心なのは起業数ではありません。一部のスタートアップ企業が短期間で大企業に育ち、そうした生産性の高い革新的な大企業に多くの就労者が集まり、国全体の生産性を押し上げ、経済の新陳代謝が続くという好循環が重要なのです。
限界になる前にできることは?
中小企業庁が2018年度版の「中小企業白書」で試算していますが、今後10年間で70歳(平均引退年齢)を超える零細・中小企業の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人(日本企業の約3割)が後継者未定。これを放置すれば、10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があるそうです。
日本の中小企業に後継者がいないというのは致命的な問題です。それを廃業させないようにしたいと言っても、わずかな予算と能力で政府ができることには限界があります。平成の「失われた30年」の間、一部、延命装置のような融資・信用保証を提供してきた政策金融も、後継者がいないとなれば、さすがに対応は難しくなるでしょう。
アトキンソン氏の議論に戻れば、彼が指摘するような生産性の低い中小企業の数は、放置しておけば自然に減少します。そこで、就労者を生産性の高い大企業、あるいは、成長潜在性の高いスタートアップ等へうまく移動させなければなりません。
また、彼が指摘するように、従来、日本には過剰な数の零細・中小企業が存続し、それが慢性的な過当競争を生み、収益性を低下させてきたとすれば、その問題も自ずと変容していくでしょう。
将来は、日本の中小企業セクターの構造改革の観点から、成長意欲の強い一部の中小企業がM&Aにより廃業寸前の技術力のある中小企業を救うよう促すほかはないと思います。政府は、そうした一部の中小企業を対象としてM&AやDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略等に必要な経営資源や資金面の支援に注力すべきかもしれません。
また、創業支援においても、一億総活躍、輝く個人などと囃し立てて自営業的な起業の件数を無理に増やそうとするよりは、真に国民経済を牽引するようなユニコーン企業候補を発掘し、そこに限られた予算・経営資源を集中投入すべきなのではないでしょうか。
大場 由幸