中小企業基本法(1964年) の基本理念は大企業との「格差の是正」ですので、従来、支援施策の実施においては、「ビジネス環境改善」(環境を整えて、あとは中小企業者の自主性に任せる)というよりは、「支援」(社会政策的な弱者保護)に重点が置かれていたように感じます。

私の経験上、政策支援の対象となる「中小企業」の定義から外れないよう、資本金は変更しないという方針の社長は少なからず存在しました。流行りの起業家やスタートアップと違い、「弱者」のままでいようとしたり、節税や安定成長といった路線も一つの合理的な経営判断なのでしょう。

しかし、中小企業基本法は1999年に改正され、その基本理念は大企業との「格差の是正」から「多様で活力ある独立した中小企業者の育成・発展」へと大きく転換しています。改正からすでに20年も経過しています。

来年2020年度の予算概算要求の中小企業対策費(補助金・委託費)は、わずか1,386億円(経済産業省、2019年8月28日)です。日本に存在する358万社(全体社数比99.7%)もの中小企業・小規模事業者に対して年間でこの金額です。

ただし、中小企業基盤整備機構など中小企業支援を実施する機関が多数あり、それぞれの機関で運営費がかかっています。また、JETROなどは一部、中小企業支援関連の予算もあります。

一方、政策金融については主要先進国と比べ突出した規模となっています。日本では一般予算とは別の財政投融資(特別会計)を活用しており、貸出額3.7兆円(2018年度、日本政策金融公庫の国民生活事業及び中小企業事業によるフロー)、保証額8.1兆円(2018年度、全国51の保証協会による保証承諾)、合わせて11.8兆円です。

米国で政策金融と言えるものはSBA中小企業庁(7(a)ローン及び504ローン)の347億ドル(3.6兆円)のみです。フランスやドイツでは貸出・保証予算で1〜2兆円程度ですし、英国ではBERRビジネス・企業・規制改革省(SFLG信用保証プログラム)の2億ポンド(約340億円)程度です。

政策金融の制度設計についても日本は異例です。日本では、中小企業向け政策金融機関である日本政策金融公庫(2008年の統合前は、旧国民金融公庫/1949年設立、旧中小企業金融公庫/1953年設立)が直接、中小企業・小規模事業者向け貸出業務を行い、かつ、世界でも類を見ない信用保証制度(信用保証+信用保険という二層構造)があります。

さらに、日本独自の「投資育成」という中堅企業に直接出資する公的機関(中小企業の「自己資本の充実」という理念)も存在します。

しかし、先進主要国では、民業圧迫を避ける観点から政策金融が資源配分に歪みをもたらさないよう様々な工夫がなされています。

たとえば、米国や英国では政策金融による直接融資は行われておらず、民間貸出に対する政府保証が中心です。また、フランス(OSEO起業支援・イノベーション振興機構)の政策金融は民間金融機関との協調融資という形態であり、ドイツ(KfWドイツ復興金融公庫)は民間金融機関を経由した代理貸制度です。国際比較すれば、日本の政策金融は過剰だと言われても反論できないかもしれません。

私自身、日本の政策金融システムを諸外国で説明する機会に、様々な質問や批判を受けた経験があります。

たとえば、日本の政策金融が業績悪化企業や赤字企業に対して「追い貸し」(貸出の不良債権化による損失計上を先送りするために追加的な資金供給により貸出先企業を存続させる行動)をしているのではないか。本来は高い金利スプレッドが必要なはずの企業群に、逆に優良企業よりも低い優遇金利を適用して中小企業向け貸出市場の金利設定に歪みを生じさせているのではないか、といったような批判です。

中小企業政策の問題は悪平等主義か?