8. 額面から引かれる4つのお金は、それぞれ誰にかかるのか「介護保険料・医療保険料・所得税・住民税」

ここが、一覧表の金額と口座に届く金額を隔てている部分です。年金額が一定以上(65歳以上で年額18万円以上など)になると、次の4つが年金から直接引かれる形になり、手元に残るのは額面の約80%〜85%にとどまります。

  1. 介護保険料: 65歳以上の全員が対象。市区町村によって金額が異なります。
  2. 国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料): 75歳未満は国保、75歳以上は後期高齢者医療制度の保険料が引かれます。
  3. 所得税および復興特別所得税: 一定の控除額を超えた場合に課税されます。
  4. 個人住民税および森林環境税: 前年の所得に応じて課税されます。

4つのうち上の2つが社会保険料、下の2つが税です。順に押さえておきたいのは、介護保険料が65歳以上の全員にかかること、医療保険料は75歳を境に入る制度が変わること、そして税の2つは所得や控除の状況によってかかるかどうかが分かれることです。したがって、同じ額面の人でも、住んでいる市区町村や年齢、控除の状況によって引かれる額は変わります。約80%〜85%という幅は、その振れをまとめて表した目安だと考えてください。正確な金額は、お住まいの市区町村の窓口や年金の窓口で確かめていただくのが確実です。

川勝 隆登
この4つを順に見ていくと、自分でどうにかできる部分とそうでない部分が分かれます。介護保険料と医療保険料は住まいと年齢で決まる部分が大きく、税の2つは前年の所得で動きます。まずは動かせない部分を確かめ、次に受け取り方や働き方で動く部分を考える。この順番で並べると、打てる手が整理しやすくなります。

9. 投資をせずに額面そのものを増やす手立てには、どんなものがあるのか

引かれる割合を大きく変えるのは難しい一方で、引かれる前の額面そのものを厚くしていく方向もあります。値動きのある商品を使わず、公的な制度のなかで受け取る額を増やす手立てを3つ取り上げます。

9.1 70歳まで厚生年金に加入し続けると、報酬比例部分はどう積み上がるのか

厚生年金に加入できるのは原則70歳までです。65歳を過ぎても会社員として働き続ければ、その期間のぶんだけ保険料を納めることになり、納めた期間が延びた分、老齢厚生年金の報酬比例部分も積み上がります(上限あり)。上乗せ部分を厚くする方法の1つで、働いているあいだは受け取り始める時期を後ろにずらす判断も取りやすくなります。

9.2 受け取りを後ろにずらしたとき、増える割合はどこまで積み上がるのか

受け取り始めるのは原則65歳からですが、66歳から75歳までの範囲で後ろにずらす選択もできます。増える割合は1ヶ月あたり0.7%で、70歳まで待てば42%、75歳まで待てば最大84%まで積み上がる形です。この上乗せは生涯にわたって続きます。ただし、増えるのは額面のほうです。額面が増えれば所得も増えますので、税率や社会保険料の負担の区分が上がり、引かれる額も一緒に大きくなるケースがあります。待っている間に受け取れなくなるものもありますから、手取りへの影響とあわせて判断することになります。

9.3 60歳から65歳までの任意加入で、1階部分をどこまで満額へ近づけられるのか

20歳から60歳までのあいだに未納や免除の期間が残っていて、国民年金が満額に届いていない方には、「任意加入制度」という仕組みが用意されています。60歳から65歳になるまでのあいだ、保険料を追加で納められる制度です。納めた月数のぶんだけ基礎年金が上がりますので、土台の部分を厚くする方法の1つになります。未納の期間があるかどうかは、加入記録をたどれば分かります。

10. 額面と手取りをめぐって迷いやすい3つの質問には、どう答えられるのか

10.1 Q1. 失業手当を受け取っているあいだ、特別支給の老齢厚生年金は止まってしまうのか

A. 同時には受け取れない仕組みです。ハローワークで失業手当(基本手当)の求職の申し込みを行うと、65歳未満の方の場合、その翌月から失業手当の受給が終わるまでのあいだ、特別支給の老齢厚生年金が全額支給停止になります。併給調整と呼ばれる扱いです。どちらが手元に多く残るかは金額しだいですが、比べるときは額面ではなく引かれたあとの額で並べてみてください。

10.2 Q2. 夫が受け取っている加給年金は、妻が65歳になったあとどうなるのか

A. 妻自身が65歳を迎え、自分の老齢基礎年金を受け取り始めた時点で、夫に付いていた加給年金は止まる扱いになります。そのあとは、妻の生年月日に応じた一定額が「振替加算」という形で、妻自身の老齢基礎年金へ一生涯上乗せされます。世帯として受け取る額面がどう組み替わるのかは、切り替わる年の前に確かめておきたいところです。

10.3 Q3. 年金にかかる税金と、確定申告が要る場合はどう分かれるのか

A. 公的年金は雑所得にあたり、所得税と住民税の対象です。ただし線が引かれていて、65歳以上なら公的年金等の収入が年間205万円未満、65歳未満なら年間155万円未満であれば、所得税はかかりません。申告のほうにも、公的年金等の収入が400万円以下で、その年金に係る雑所得以外の所得が20万円以下という2つを満たせば手続きが要らなくなる「確定申告不要制度」があります。なお、源泉徴収された税の還付を受けたい場合などには、申告を行うこともできます。

支給日ごとの振込額が世帯単位でどのあたりに来るのかを確かめたいときは、【厚生年金】2026年6月支給分から「標準的な夫婦世帯」の年金額が4495円アップ!支給日に「60万円(月30万円)以上」受給する人は全体の何%?遺族・離婚時のルールも解説にまとめています。

11. 【独自試算】額面月20万円から介護保険料・医療保険料・住民税・所得税を引くと、手元にはいくら残るのか

ここまでみてきた数字を使って、額面と手元に届く額の差を1つの金額で出してみます。取り上げるのは、厚生年金の分布のなかで20万円以上21万円未満にあたる階級、つまり額面で月20万円を受け取る場合です。この階級には85万3591人が並んでいます。

前提は次のとおりです。

  • 額面は月20万円、年額にすると240万円とします。厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」の分布で、20万円以上21万円未満にあたる階級です
  • 引かれるのは介護保険料、医療保険料(国民健康保険料または後期高齢者医療保険料)、住民税、所得税の4つとします
  • 引かれる割合は2つの置き方で出します。1つは記事にある約80%〜85%が手元に残るという目安、もう1つは総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」の非消費支出が実収入に占める割合です
  • 年齢は65歳以上、受け取っているのは公的年金だけとし、ほかの収入や控除は考えません
  • 金額はいずれも約・目安であり、保証ではありません。介護保険料は市区町村ごとに、医療保険料は加入する制度ごとに変わります

まず、約80%〜85%という目安をそのまま当てはめます。額面20万円の80%は16万円、85%は17万円です。引かれる額は月3万円から4万円ということになります。年額に直すと、240万円のうち36万円から48万円が引かれ、手元に残るのは192万円から204万円ほどです。一覧表で20万円という数字を見た方が、実際には16万円台から17万円台で暮らしを組むことになる、という幅です。

次に、家計調査の実績から割合を出してみます。65歳以上・夫婦のみの無職世帯では、実収入25万4395円に対して非消費支出が3万2850円ですから、割合はおよそ12.9%です。これを額面20万円に当てはめると、引かれる額は2万5800円ほど、手元に残るのは17万4200円ほどになります。単身世帯では実収入13万1456円に対して非消費支出が1万2990円で、割合はおよそ9.9%です。同じように当てはめると、引かれる額は1万9800円ほど、残るのは18万200円ほどです。

つまり、同じ額面20万円でも、どの割合を前提に置くかによって手元に届く額は16万円から18万円ほどの間で動きます。幅にすると2万円ほど、年額では24万円ほどの違いです。ここで大事なのは、どちらの数字が正しいかではなく、額面という1つの数字からは手取りが1つに定まらない、という関係のほうです。

引かれるものの中身にも触れておきます。夫婦のみの無職世帯の非消費支出3万2850円は、直接税1万2547円と社会保険料2万296円に分かれます。社会保険料のほうが1.6倍ほど大きく、税より重い形です。額面20万円の場合に引かれる2万5800円をこの比率で分けると、税にあたるのが9900円ほど、介護保険料と医療保険料にあたるのが1万5900円ほどという目安になります。一方、単身世帯では直接税7072円と社会保険料5912円がほぼ並びますから、世帯の形によって重心は移ります。

所得税がかかるかどうかも確かめておきます。額面月20万円は年間240万円です。65歳以上で公的年金等の収入が年間205万円未満であれば所得税はかかりませんので、240万円はその線を35万円上回ることになります。同じ「額面20万円」でも、この線の下にいるか上にいるかで引かれ方が変わるということです。

最後に、この手取りで何ができるのかを並べます。65歳以上・単身の無職世帯の消費支出は14万8445円ですから、手取り16万円なら1万1555円、17万円なら2万1555円が残る計算です。一方、夫婦のみの無職世帯の消費支出は26万3979円ですので、手取り16万円では10万3979円届きません。額面20万円という数字は、単身なら生活費をまかなえる水準に見え、夫婦世帯では大きく足りない水準にもなる。同じ数字がどちらにも読めるということです。

なお、この試算は公的年金だけを受け取る前提で、ほかの所得や控除、扶養の状況は織り込んでいません。介護保険料は市区町村ごとに異なり、医療保険料も75歳を境に入る制度が変わります。住民税や所得税は前年の所得と控除で決まりますので、実際に引かれる額はご自身の状況によって上下します。ご自身の見込み額は年金の窓口やねんきんネットで、保険料の額はお住まいの市区町村の窓口で、税の扱いは税務署や税理士に確かめてから当てはめてください。