1. 営業利益率16.8%から9.0%へ。5期で起きた収益力の後退

まず数字の並びを見てほしい。売上高は2021年12月期の1,552億円から2025年12月期の1,657億円へ、5期で1割にも届かない伸びだ。ほぼ横ばいと言っていい。

変わったのは利益のほうである。営業利益は同じ5期で260億円、266億円、257億円、248億円、149億円と推移した。営業利益率に直すと16.8%、16.0%、14.9%、15.0%、9.0%となる。最後の1期で一気に落ちている。

2025年12月期通期の実績は、売上高1,657億円で前期比+0.1%、営業利益149億円で▲40.0%、経常利益169億円で▲36.7%、親会社株主に帰属する当期純利益36億円で▲63.7%だった。

売上がほとんど動いていないのに営業利益が4割落ちるというのは、価格や数量の話ではなく費用の話である。売上総利益847億円に対して販売費及び一般管理費が697億円。売上高に対する販管費の比率は42.1%に達している。

会社の説明も費用面に触れている。紅麹関連製品に関する事案について、健康被害にあわれた顧客および損害を受けた企業への補償に誠心誠意対応を進めているとし、品質・安全に関する意識改革と体制強化、コーポレート・ガバナンスの抜本的改革などを柱とする再発防止策の実行と定着に取り組んでいるという。

売上の側は戻り始めている。会社によれば、自主回収に伴い停止していた広告を2025年7月に本格的に再開し、下期も継続的なマーケティング活動を展開した結果、ヘルスケア・日用品ともに売上は回復基調となった。

営業利益の下に、もう一段大きな穴がある。特別損失は196億円で、会社は仙台新工場およびタイ工場において減損損失146億円を計上したと説明している。この結果、税金等調整前当期純利益は37億円まで縮み、ROE(自己資本利益率)は1.7%に沈んだ。

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出所:小林製薬株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:小林製薬株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

2. 化学業種の中央値と並べると、どこが強くどこが弱いのか

この会社はEDINET上の業種区分では化学に属する。だが原価構造を見ると、素材メーカーの姿ではない。

2025年12月期通期の粗利率は51.1%である。化学業種161社の粗利率中央値28.4%に対して、1.8倍の水準だ。自社ブランドの日用品とヘルスケア商品を並べる会社の原価構造そのものと言える。

ところが営業利益率9.0%は、化学業種の中央値6.9%をわずかに上回る程度にとどまる。粗利で2倍近い差をつけながら、営業段階では差が消えている。販管費42.1%という重さが、その差をきれいに食べてしまった形だ。

研究開発費は91億円で、売上高に対して5.5%。ブランドと新製品で戦う会社としては相応の水準を維持している。会社は2025年秋に発売した局所麻酔成分を配合したのどの鎮痛薬や、無香料タイプの消臭剤といった新製品が売上増加に貢献したと説明している。

財務は厚い。自己資本比率は76.3%で、化学業種の中央値64.6%を上回る。一方でROE1.7%は中央値6.6%を大きく下回った。

「化学セクターの銘柄」というラベルから連想する姿と、実際の数字は噛み合わない。粗利率で見れば消費財のブランド企業で、利益率で見れば業種平均並み、資本効率で見れば業種下位という3つの顔が同時に立っている。

そして厚い自己資本は、それ自体では褒め言葉にならない。ROEが1.7%まで沈んでいるとき、分母の厚さは資本効率を押し下げる方向に効く。負債をほとんど使わない財務が最適かどうかは、収益力が戻ったあとに改めて問われる論点だろう。

3. 1カ月で最も高い終値と、PER43.96倍・PBR2.1倍

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

株価の動きを追う。8月10日の終値は5,617円だった。そこから8月18日には5,501円まで下げ、これが直近1カ月では最も低い終値になる。

下旬に入ってからは戻り歩調で、8月31日は5,690円、9月1日は5,735円と5,700円台を回復した。

その後は9月2日5,679円、9月4日5,695円、9月7日5,654円と5,600円台から5,700円手前で往復していた。動いたのは9月8日で、前日から4%を超えて上昇し5,913円をつけた。直近1カ月では最も高い終値である。

1カ月の起点5,617円と比べると5%台の上昇にとどまる。派手な値動きではない。ただ、この間に決算の開示はなく、上げの理由を開示情報だけで特定することはできない。相場全体の資金の向きや、上期決算をあらためて評価する動きが意識された可能性はあるが、単一の材料に帰すべき局面ではない。

9月8日時点のPER(株価収益率)は43.96倍、PBR(株価純資産倍率)は2.1倍である。PERは2026年12月期の会社予想である1株当たり利益134円52銭に対する倍率だ。

40倍台という水準は、利益がまだ本来の水準に戻っていないところで計算されている点を押さえておきたい。分母である予想1株当たり利益134円52銭に対し、2023年12月期の実績1株当たり利益は268円16銭あった。落ちた分母の上に立っている倍率だから、業種内の平均的な水準と単純に並べても読み取りにくい。

PBR2.1倍は、1株当たり純資産2,827円68銭に対する水準である。自己資本比率76.3%という厚い純資産の上に2倍強がついている形だ。

4. 筆者コメント

利益が4割落ちた会社の株価が、なぜ40倍台の倍率を保っていられるのか。ここが今のこの銘柄で一番おもしろい論点だと思う。

答えの半分は、市場が見ているのが2025年12月期の実績ではなく、そこから先の姿だという単純な理由だろう。落ちた利益で割れば倍率は自動的に高くなる。倍率の高さそのものは、期待の強さと同じ意味ではない。

もう半分は、粗利率51%という原価構造が壊れていないことにあるのではないか。売れる商品を持っている会社は、費用が正常化したときに利益が戻る余地を残している。逆に粗利率が崩れていたら、費用をどう削っても元には戻らない。

だから注目したいのは営業利益の額そのものより、粗利率と販管費率の組み合わせだ。粗利率が5割台を維持したまま販管費率が下がっていくのか、それとも粗利率を削って売上を取りにいくのか。この2つの比率を並べて追う見方をおすすめしたい。