厚生年金の平均額を男女別に見ると、その差の大きさに驚く方が多いのではないでしょうか。
厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の平均月額は男性16万9967円、女性11万1413円でした。差は月5万8554円で、男性は女性の約1.5倍です。一方、国民年金の男女差は月4013円にとどまります。
この記事では、厚生年金だけになぜこれほどの差が出るのかを、金額の分布と現役期の賃金データの2つから確認していきます。
なお、公的年金の仕組みや平均受給額に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。
1. 厚生年金の男女差は月5万8554円
まずは平均額の確認から始めます。ここで扱うのは令和6年度末時点の受給権者の平均月額で、厚生年金の金額には老齢基礎年金が含まれています。
1.1 男性は女性の約1.5倍
厚生年金と国民年金それぞれの平均月額は次のとおりです。
- 厚生年金:総数15万289円/男性16万9967円/女性11万1413円(差5万8554円)
- 国民年金:総数5万9310円/男性6万1595円/女性5万7582円(差4013円)
国民年金の男女差が4013円にとどまるのに対し、厚生年金は5万8554円です。差の出方がまったく違います。
公的年金の基本的な仕組みについては、LIMOの記事「【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説」で詳しく解説されているため、要点を引用して確認しておきましょう。
公的年金制度は、しばしば「2階建て構造」に例えられます。これは、日本の年金制度が「1階」の国民年金(基礎年金)と、「2階」の厚生年金という2つの制度で構成されているためです。1階部分の国民年金は、原則として日本国内に居住する20歳以上60歳未満のすべての人が加入対象で、保険料は所得にかかわらず一律(2026年度は月額1万7920円)。保険料を40年間(480カ月)すべて納付すると、満額(2026年度は月額7万608円)を受け取ることができます。2階部分の厚生年金は、会社員や公務員のほか、パートタイマーなどで特定適用事業所に勤務し一定の要件を満たす人が国民年金に上乗せして加入します。保険料は収入に応じて変動し、受給額は加入していた期間や納付した保険料額によって個人差が生じます。
出所:【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説
1.2 1階は一律、2階は収入と期間で変わる
1階の国民年金は保険料が一律で、納付月数だけで金額が決まります。だから男女差が4013円に収まります。
これに対して2階の厚生年金は、報酬と加入期間で金額が変わります。厚生年金の平均額に含まれる基礎年金部分は男女で大きく違わないはずですので、5万8554円という差の大半は2階部分から来ていることになります。
令和8年度の1階部分と、標準的な夫婦世帯の金額については、LIMOの記事「【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイント」から要点を引用して確認しておきましょう。
- 国民年金(老齢基礎年金(満額)):7万608円(1人分)
- 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分)
出所:【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイント
2. 金額の分布を見ると差の形がわかる
平均だけでは、どこに人が集まっているのかが見えません。月額階級別の割合を見ていきます。
2.1 月10万円未満は女性の38.2%
厚生年金の受給権者を月額の階級別に見ると、次のようになっています。
- 月10万円未満:総数19.0%/女性38.2%
- 男性:15万円以上20万円未満41.3%/20万円以上25万円未満24.1%/25万円以上3.4%
- 女性:10万円以上15万円未満49.5%/15万円以上12.3%
女性は10万円台に半数近くが集まり、そこから下に38.2%が広がっています。男性は15万円以上20万円未満に4割が集中し、20万円以上も27.5%います。
女性は10万円台とそれ以下に、男性は15万円以上に集まっています1/2
出所:厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成
2.2 山の位置が5万円ずれている
男女それぞれで最も人数が多い階級を比べると、女性は10万円以上15万円未満、男性は15万円以上20万円未満です。山の位置が1階級、金額にして5万円ほどずれています。
平均の差5万8554円は、この山のずれとほぼ一致します。一部の高額受給者が平均を引き上げているのではなく、分布そのものが横にずれているということです。
3. 差の背景にあるのは報酬と勤続年数
厚生年金は現役期の報酬と加入期間で決まります。その2つが現在どうなっているかを、賃金の統計から見ていきます。
3.1 同じ役職でも所定内給与に差がある
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の役職別データを男女別に見ると、次のとおりです。かっこ内は前年比です。
- 部長級:男性64万2400円(0.9%増)/女性57万8300円(5.2%増)
- 課長級:男性54万1400円(3.6%増)/女性47万300円(2.7%増)
- 係長級:男性41万900円(3.7%増)/女性36万5700円(3.3%増)
いずれの役職でも男性が上回っています。部長級では月6万4100円の差です。この差が現役期を通じて積み上がると、報酬比例部分の金額に反映されます。
3.2 勤続年数にも開きがある
同じ調査によると、部長級の平均勤続年数は男性22.9年、女性20.0年でした。2.9年の差があります。
厚生年金は加入期間の長さがそのまま金額に効く仕組みですので、勤続年数の差も受給額の差につながります。報酬の差と期間の差が重なることで、老後に受け取る金額の開きが生まれているという構図です。
現役期の報酬と勤続年数の差が、そのまま老後の受給額の差につながります2/2
出所:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」をもとにLIMO編集部作成
3.3 ただし方向は変わりつつある
前年比を見ると、女性部長級は5.2%増と男性の0.9%増を大きく上回っています。課長級・係長級では男性の伸びのほうが高いものの、部長級では差が縮まる方向に動きました。
いま受け取っている方の年金額は、数十年前の働き方を反映したものです。現役期の賃金差が縮まれば、その世代が受け取る年金の差も時間をかけて縮まっていくことになります。
男女差という言葉だけが独り歩きしがちですが、内訳を開くと報酬と加入期間という2つの要素に分かれます。
自分に当てはめるなら、変えられるのは加入期間のほうです。ねんきん定期便で自分の記録を確かめるところから始めてみましょう。
4. 平均の差より、自分がどこにいるかを見る
男女差は制度の話ではなく、働き方の履歴が積み上がった結果です。個人として動かせる部分がどこかを整理しておきます。
4.1 加入期間は後から増やせることがある
報酬はさかのぼって変えられませんが、加入期間は今後の働き方で伸ばせます。60歳以降も厚生年金に加入して働けば、その期間の分だけ報酬比例部分が増えます。
ただし60歳以降の加入で増えるのは2階部分が中心です。老齢基礎年金は20歳から60歳までの480月が上限のため、そこで不足した分がそのまま埋まるわけではありません。経過的加算という形で一部が補われる仕組みになっています。
4.2 短時間勤務でも加入できる場合がある
パートタイムで働いている場合でも、勤務先が特定適用事業所であり一定の要件を満たせば厚生年金に加入できます。加入すれば保険料の負担は増えますが、その分だけ将来の年金も増えます。
加入の要件は法改正で段階的に変わっていく部分ですので、ご自身が対象になるかは勤務先か年金事務所にご確認ください。
5. 【一次資料を読む視点】平均と分布は別々に見る
筆者は官公庁の一次資料をもとにしたデータ記事を書きながら、校閲の仕事にも携わっています。統計を扱うときにいつも気をつけているのが、平均だけで話を終わらせないことです。
5.1 平均が同じでも中身は違う
今回の女性の平均11万1413円は、10万円台に半数が集まり、10万円未満にも38.2%がいるという分布から出た数字です。同じ平均でも、全員が11万円前後に固まっている場合とはまったく意味が違います。
記事や資料で平均額を見かけたら、分布の表が同じ資料にないかを探してみてください。概況には月額階級別の表が載っています。
5.2 存在しない集計を作らない
概況に載っているのは「男女別」の表と「年齢別」の表で、男女と年齢を掛け合わせた表はありません。「70歳代女性の平均は◯万円」といった数字は、この資料からは出せないということになります。
複数の表を組み合わせて計算した数字を引用するときは、それが元資料に載っている値なのか、自分で計算した値なのかを分けて書くようにしています。
6. 【落とし穴】数字を読むときに気をつけたいこと
この記事の数字を引用するときの注意点を挙げておきます。
6.1 厚生年金の平均には基礎年金が含まれる
16万9967円や11万1413円は、老齢基礎年金を含んだ金額です。ここにさらに基礎年金の満額を足すと二重に数えることになります。
6.2 年度と資料の対応を確かめる
年金額は令和6年度末時点の実績、賃金は令和7年の調査結果です。それぞれ対象としている時点が違いますので、直接の因果関係として結びつけて読むことはできません。現役期の傾向と受給世代の実績を並べて見ている、という位置づけです。
6.3 役職別のデータは管理職層の姿
部長級・課長級・係長級の賃金は、その役職に就いている人の平均です。役職に就いていない層も含めた全体の男女差とは別の数字になります。
7. 【対応策】自分の記録を確かめる3つの手順
平均を眺めるより、自分の数字を出すほうが先です。
7.1 ねんきん定期便で加入月数を見る
厚生年金と国民年金それぞれの加入月数を確認します。転職や退職で抜けている期間がないかもあわせて見ておいてください。記録に疑問があれば年金事務所で訂正の相談ができます。
7.2 配偶者の分もそろえる
世帯で見るなら、配偶者の見込額も並べます。男女で金額に差があるということは、どちらが先に亡くなるかで残された側の家計が変わるということでもあります。
7.3 書面を1カ所にまとめて家族と共有する
ねんきん定期便、年金証書、振込通知書は、まとめて保管して置き場所を家族に伝えておくと、後から確認する側の負担が軽くなります。金額そのものより、どこを見れば分かるかを共有しておくことが役に立ちます。
8. まとめにかえて
厚生年金の平均月額は男性16万9967円、女性11万1413円で、差は5万8554円でした。国民年金の男女差が4013円であることを踏まえると、差が生まれているのは報酬と加入期間で決まる2階部分だとわかります。
月額階級別に見ると、女性は10万円以上15万円未満に49.5%、10万円未満に38.2%が集まっていました。男性は15万円以上20万円未満が41.3%で、山の位置が5万円ほどずれています。
背景には現役期の報酬と勤続年数の差があります。ただし令和7年の調査では女性部長級の賃金が前年比5.2%増と男性を上回っており、方向としては縮まりつつあります。


