16. 若い頃に入った医療の備えが、いつのまにか何本も重なっている。負担を軽くしながら手薄なところを埋め直す進め方を、ファイナンシャルアドバイザー・徳田 椋が解説

60歳代は、子どもの進学にかかる費用という大きな山を越えた方もいれば、まだこれから支えていく立場の方もいて、家計の形が人によって大きく分かれる時期です。前半でみたように、進学の費用を支える公的な仕組みには、世帯の状況によって使えるかどうかが決まるものがあり、そこに手が届くかどうかで手元に残す必要のある額は変わってきます。一方で共通しているのが、毎月の固定費のなかに、若い頃に入ったまま内容を読み返していない保険料が混ざっていることです。保険会社と保険代理店で保険の見直しのご相談に応じてきた立場から申し上げると、この時期に見直しを希望される方の多くは、保障を減らしたいのではなく、払っている額と受けられる備えが釣り合っているのか確かめたいとおっしゃいます。相談の場では次のような声を耳にします。

16.1 払い続けてはいるけれど、いざというときに何がどれだけ出るのか説明できない

60歳代(ご相談者)
「会社員として働きながら、医療の保険を何本か持っています。入った時期がばらばらで、契約している会社も別々です。ただ、いま自分がどの保障をどれだけ持っているのか、正直なところ説明できません。先日いちばん古い契約を読み返したら、持病があると給付が制限されると書かれていて、入院したときにまとまったお金が出る部分にばかり目が行っていたことに気づきました。がんのときにどこまで治療の選択肢を取れるのか、脳や心臓の病気に備えがあるのかも分かりませんし、この先の認知症や介護のことも気になります。これから何にいくらかかるか読みきれないので、毎月の保険料はできれば今より抑えたい。ただ、そのぶん保障が薄くなるのは避けたいと思っています」

相談の場でも、複数の契約を長く払い続けてきたのに、いざというときに何がどれだけ出るのかまでは把握できていないという方に数多くお会いします。

16.2 【ファイナンシャルアドバイザー・徳田 椋が回答】安くすることと厚くすることは、同時に成り立つ

徳田 椋
「保険料を下げれば、そのぶん備えは薄くなる」と思っている方も多いのではないでしょうか。保険の見直しを考える上で、まずは公的保障を知っておくことが大切です。私はお客様と保険の話をする際は「大切なのは保険料ではなく、保障内容です」とお伝えしています。公的保障も含めて保障の内容を正しく理解し、ご自身にとって必要な保障の優先順位を決めることで、見直しが必要な部分も自然に分かってきます。必要な保障と不要な保障を整理することで、負担を減らし保障を手厚くすることも可能になりますよ。

16.3 ポイント1:備えたい範囲を、自由診療・介護・脳と心臓まで広げて決める

最初に決めていただくのは、商品ではなく範囲です。医療の備えというと入院と手術が思い浮かびますが、いま相談の場で話題になりやすいのは、そこから外に出る部分です。一つ目が、公的な健康保険が使えない治療にどこまで手を伸ばすかという論点です。がんの治療には、国内で承認されていない薬を使うなど、費用の全額が自己負担になる方法があります。こうした治療を選択肢として残しておきたい場合は、その費用に対応する特約が付けられるかどうかを見ます。逆に、公的な保険が使える範囲で治療を受けると決めているなら、この特約は不要です。二つ目が介護です。介護の費用は、医療のように短期間で終わるものではなく、年単位で続くことがあります。まとまった額を一度に預けて備える形の商品もあり、預貯金の一部をそちらに移すという考え方が取れる場合があります。三つ目が、がんに加えて脳と心臓の病気まで含めた備えです。この三つは、治療が長引いたり、その後の働き方が変わったりしやすい病気で、入院した日数ではなく診断や所定の状態になったことでまとまった額が受け取れる形が中心になります。範囲を先に決めておくと、このあとの比較で迷わなくなります。

16.4 ポイント2:いま払っている保険料が何に対していくらなのかを、特約ごとに分ける

範囲が決まったら、いま払っている保険料の中身を分解します。一本の契約に見えていても、実際は主となる保障に複数の特約がぶら下がっていて、それぞれに保険料が割り当てられています。何本も持っている方の場合、この分解をしてはじめて、同じような保障に別々の契約で二重に払っていたことが分かる、というのがよくある結果です。重なっている部分を外すだけで、保障を減らさずに月々の負担が下がります。ここであわせてご覧いただくのが、特約ごとの費用対効果です。たとえば、所定の状態になったらその後の保険料を払わなくてよくなる特約があります。安心感のある仕組みですが、その特約のために毎月いくら上乗せして払い、条件を満たしたときにいくら分の支払いが免除されるのかを並べてみると、判断が変わることがあります。免除される総額に対して上乗せ分が大きければ、その特約を外して、浮いた分を別の備えに回したほうが実質的に厚くなります。つけるかどうかを気持ちで決めず、上乗せ額と免除される額を並べて比べる。この一手間が、無理なく負担を下げることにつながります。

16.5 ポイント3:健康状態による保険料の区分と、会社ごとの得意分野を横に並べる

次が比較の段階です。ここで見落とされやすいのが、同じ保障でも、加入する方の健康状態によって保険料の区分が変わる仕組みがあることです。健康診断の数値や生活習慣が一定の基準を満たしていれば、標準より低い保険料が適用されることがあります。基準や適用の範囲は会社によって違いますから、ご自身の直近の健康診断の結果を手元に置いたうえで、その基準に当てはまるかどうかを確認していきます。もう一つが、会社ごとの得意分野です。医療の保険は、どの会社もひととおりそろえてはいますが、公的な保険が使えない治療への対応が手厚い会社、介護の分野に強みのある会社、入院したときの一時金の条件が緩やかな会社と、力を入れている部分が分かれています。そのため、必要な保障を一社ですべてまかなおうとすると、どこかに割高な部分が生まれます。範囲ごとに強い会社を選んで組み合わせると、合計の保険料を抑えたまま、それぞれの保障を厚くできることがあります。契約が複数になることを嫌がられる方もいらっしゃいますが、いまはどの契約がどの会社かを一覧で管理する方法もありますので、本数そのものを恐れる必要はありません。

16.6 ポイント4:手元の契約を、残す部分と入れ替える部分に仕分ける

最後が仕分けです。新しい提案が良く見えても、いま入っている契約をすべて解約するのは避けてください。長く前に加入した契約には、いまでは同じ条件で入れないものが混ざっていることがあります。判断の材料は三つです。一つ目が、その契約でしか得られない条件があるかどうか。二つ目が、給付の条件が現在の医療の実情に合っているかどうか。冒頭でお話のあった、持病があると給付が制限される、といった条件は、ここで確認する部分です。三つ目が、その契約を残した場合と外した場合で、保障の合計と保険料の合計がどう変わるかです。この三つを契約ごとに書き出すと、丸ごと入れ替えるのではなく、主となる保障は残して特約だけ整理する、という中間の答えが見えてくることがほとんどです。介護についても同じで、すでに介護の分野に強い会社の契約を持っているのであれば、まずその内容を確かめて、足りない部分だけを補うほうが早く済みます。介護に備える商品のなかには、使わなかった場合に払った分が戻ってくる性格をもつものもあり、掛け捨てにしたくないという方には、預貯金の置き場所を移し替える感覚で選べる選択肢になります。

保険料を下げたいという相談は、多くの場合、保障を減らしたいという意味ではありません。払っている額と受けられる備えが釣り合っているか確かめたい、という気持ちの表れです。範囲を決めて、中身を分解して、条件を並べて、最後に仕分ける。この順で進めれば、下げるか厚くするかの二択にはなりません。これは一つの考え方であり、どの保障がどれだけ必要かや、割引や特約が使えるかどうかは、健康状態や加入している契約の条件によって異なります。まずは手元の保険証券を一か所に集めて、契約ごとに保障の中身と保険料を書き出すところから始めてみてください。そのうえで、実際に入れ替えを進める段階では、いまの契約を解約する前に、新しい契約が成立することを確かめてから手続きすることをおすすめします。

17. まとめにかえて

神戸市の基準では、子ども1人を扶養して給与収入だけで暮らす世帯なら年収166万円以下、合計所得金額でいえば101万円以下が住民税非課税の目安でした。高等教育の修学支援はこの線の内側にいるかどうかで開く仕組みで、試算では給付型奨学金を年91万円、4年間受け取ったときの総額と授業料の免除分を合わせると、580万円から644万円という規模になりました。学資として貯めた預貯金の残高は、この判定には入ってきません。一方で、後半でみたように、毎月の固定費のなかにある保険料は、範囲を決めて中身を分解すれば負担を下げながら手薄なところを埋め直せる余地があります。まずは6月ごろに届く決定通知書か課税証明書で自分の世帯の位置を確かめ、進学先の窓口と市区町村の税の窓口で、それぞれの条件を確かめてみてください。

参考資料

徳田 椋