4. 60歳代に多い「まとまった資金を一括で入れるか、分けるか決められない」というご相談。ファイナンシャルアドバイザー・中島 卓哉が伝えたいこと
60歳代は、働き方が変わる時期と、まとまったお金を受け取る機会が重なりやすい年代です。これまで手元で見たことのない大きさの数字が一度に来る一方で、公的年金を受け取り始めるまでにはまだいくらか間がある、という方も少なくありません。前半でみたように、厚生年金の平均は月15万289円である一方、月10万円に届かない方も19.0%います。受け取れる額に幅がある以上、足りない分をどう埋めるかも人それぞれです。保険代理店で1000世帯以上のご相談を担当してきた立場から申し上げると、まとまったお金の入れ方を「一括か、分割か」の二択で決めようとするほど、かえって手が止まります。相談の場では次のような声を耳にします。
4.1 60歳代に多いお悩み相談は「まとまったお金を一度に入れてよいのか、受け取り始めるまでの間が心配」

「近いうちに、まとまったお金を受け取る時期を迎えます。これまで金融商品は何も持っていなくて、ただ預けているだけでした。NISAやiDeCoという名前は聞いていて、始めてみたい気持ちはあります。少額からでも気軽に始められると聞いて、思っていたほど身構えるものではないのかなとも感じています。
ただ、受け取ったお金を一度にまとめて入れてしまっていいのか、それとも毎月少しずつ積み立てていくほうがいいのか、そこが決められません。年金を受け取り始めるまでの間のことも、介護にかかるお金のことも気になります。何から手をつければいいのか、順番が分からないんです」
まとまったお金を前にして、一度に入れるか分けるかという入口で足が止まってしまう方には、相談の場でも数多くお会いします。
4.2 【ファイナンシャルアドバイザー・中島 卓哉が回答】一括か分割かより先に、受け取り始めるまでの空白を埋める順番を決める
まとまった資金を「一括か分割か」の二択だけで悩む必要はありません。
まずは年金を受け取り始めるまでの生活費や、介護への備えを確保したうえで、NISAやiDeCoなど各制度の「引き出せる時期」の違いから整理しましょう。
そのうえで、手元資金を「一括で運用する分」と「月々積み立てる分」に切り分けます。口座開設などの環境整備を先に進めつつ、メリットと注意点を一覧で比較し、必要に応じて貯蓄型の保険も選択肢に入れながらバランスを見極めていきます。
資金の役割と使う時期を順序立てて配分することが、受け取り始めるまでの空白期間を安心して埋める確実な方法です。
4.3 ポイント1:NISAとiDeCoを、増え方ではなく「いつ引き出せるか」で見分ける
入れ方を考える前に、入れる先の性格を分けておきます。NISAは、運用で得た利益に税金がかからない制度で、少額からでも始められます。iDeCoは、老後のための年金を自分でつくる制度で、払った掛金がその年の所得から差し引かれるため、税負担が軽くなる効き方をします。どちらも税の面で有利という点では並んで語られますが、決定的に違うところが一つあります。それは、置いたお金をいつ引き出せるかです。前者は必要になったときに引き出せます。後者は原則として一定の年齢になるまで引き出せません。受け取り始めるまでの空白が気になっている方にとっては、この違いは増え方の差よりも先に確かめるべき点です。空白の期間に取り崩すかもしれないお金を引き出せない側に置いてしまうと、あとから動かせません。逆に、空白を越えたあとに使うお金であれば、引き出せない代わりに掛金が所得から差し引かれる側に置く意味が出てきます。「どちらが得か」ではなく「いつ引き出せるか」で見分ける。ここを決めておくと、金額の割り振りは自然に決まっていきます。
4.4 ポイント2:一度に入れる分と毎月積み立てる分に、予算として先に割り振る
次に、受け取ったお金を用途ごとの予算に割り振ります。ここで大事なのは、「全額を一括にするか、全額を積立にするか」という決め方をしないことです。実際のご相談では、当面の生活に置いておく分、一度にまとめて入れる分、毎月の積立に回す分の三つに分けていきます。一度に入れる分は、入れた時点の値段でその後の増減が決まるため、値動きのある資産に全部を寄せると、その一回の判断に結果が左右されます。毎月に分けて入れる分は、買う時期がばらけるので、値段が上下しても平均的なところに落ち着きやすくなります。この二つは対立するものではなく、割合の問題です。そして、受け取り始めるまでの空白を埋める役として考えたいのが個人年金です。これは決まった時期から決まった形でお金を受け取れるようにしておく仕組みで、増やすことよりも「いつから、どれくらい入ってくるか」をあらかじめ決めておける点に意味があります。空白の期間に入ってくる分をここで用意しておけば、値動きのある資産を空白のあいだに売らずに済みます。
4.5 ポイント3:口座を開く手続きを先に済ませ、良い点と困る点を同じ表で比べる
割り振りの方向が見えたら、手続きを先に進めておくことをおすすめしています。口座を開くには本人確認の書類が必要で、申し込んでから使えるようになるまでに日数がかかります。「何を買うか決まってから開こう」と考えていると、決めた頃にはまだ口座がない、という順番になりがちです。買うものを決めるのは口座ができてからでも間に合うので、先に器を用意しておくほうが動き出しやすくなります。そのうえで商品を選ぶときは、良い点と困る点を必ず同じ表に並べて比べてください。運用にかかる手数料はいくらか、値下がりして元本を割り込むことがあるか、途中でやめたときにどう扱われるか、置いておく期間はどれくらい必要か。こうした項目は、有利な点を説明する場面では後ろに回りがちですが、比べるときは同じ大きさで見ておく必要があります。初めて金融商品を持つ方ほど、この表を自分の手で書き出しておくと、あとから「聞いていなかった」と感じることが少なくなります。
4.6 ポイント4:保障と運用が一体になった保険を、備えとして重ねて持つかを決める
最後に、介護のお金という心配への向き合い方です。保険の中には、保障を持ちながら同時に運用も行う形のものがあります。万一のときや重い障害を負ったときに保険金が出るほか、所定の状態になれば以後の払い込みが免除される仕組みが付いているものもあります。運用の成果によって受け取る額が変わるため、増えることも減ることもあり、早い時期にやめると払い込んだ額を下回ることが多い点は、先に押さえておいてください。私がお伝えしているのは、こうしたものを「どちらか一つを選ぶ対象」として見ないことです。当面使うお金、空白の期間に入ってくるお金、長く置いておくお金、そして万一のときに出るお金。性格の違うものを薄く重ねて持っておくと、どれか一つが不調のときに、そこを売らずに別の段でしのげます。介護のお金も、預貯金だけで身構えるのではなく、この重なりのどこで受け止めるのかを決めておくほうが現実的です。
まとまったお金を前にして、一括か分割かの入口で立ち止まる必要はありません。引き出せる時期で制度を分け、予算として割り振り、器を先に用意して同じ表で比べていけば、選ぶ順番のほうが先に決まります。これは一つの考え方であり、どの制度にどれだけ割り振るか、保険を重ねるかどうかは、受け取り始める時期やご家族の状況、税や制度の条件によって異なります。手続きを進める前に、いつ使うお金なのかを用途ごとに書き出しておくと、判断の材料がそろいます。税の扱いや制度の条件はその年の決まりやご家庭の状況で変わるため、金額を決める段階では専門家に確認しながら進めてください。
5. まとめにかえて
厚生年金(国民年金部分を含む)の平均年金月額は15万289円、国民年金は5万9310円でした。男女別では厚生年金で16万9967円と11万1413円と、およそ6万円の開きがあります。
受給額ごとの人数を見ると、月10万円未満が19.0%、月20万円以上が18.8%で、高いほうよりも低いほうに人数が寄っています。国民年金だけを受け取っている人まで含めれば、この傾向はさらに強まります。
平均は分布の一点にすぎませんので、まずはねんきん定期便やねんきんネットでご自身の見込額を確かめてみてください。そのうえで、足りない分を何で埋めるのかを、使う時期ごとに書き出しておくと判断がしやすくなります。
加入記録や見込額について分からない点があれば、年金事務所やねんきんダイヤルで確認できます。
参考資料
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「年金はいつ支払われますか。」
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
- 日本年金機構「国民年金保険料」
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説
- 【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイント 日本の公的年金制度の仕組みをおさらい!ライフイベント別の年金手続き(転職・退職・住所変更・死亡)も
中島 卓哉
