4. 営業CF1,504億円に対し投資は1,866億円の支出。無形資産に1,202億円を投じた期
2025年12月期のキャッシュ・フローは、それまでの4期とまるで形が違う。
営業活動によるキャッシュ・フローは1,504億円の収入で、前期の1,043億円から461億円増えた。会社の説明では、税引前利益778億円と減価償却費及び償却費787億円が主な増加要因だという。ここまでは順調である。
問題は使い方だ。投資活動によるキャッシュ・フローは1,866億円の支出となり、前期の647億円から1,219億円も膨らんだ。営業で稼いだ1,504億円を超える額を投じたことになる。
中身は会社が明示している。無形資産の取得による支出1,202億円、有形固定資産の取得による支出589億円、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出151億円である。最大の項目が工場でも設備でもなく、無形資産だという点が目を引く。
この無形資産が何かも開示されている。会社は2025年1月に欧州・北米・オセアニア地域の四輪タイヤのDUNLOP商標権等の譲受契約を締結し、5月7日に本取引をクロージングした。まずは北米・オセアニア地域でDUNLOPビジネスを開始したという。貸借対照表側でも無形資産が885億円から2,213億円へ、のれんが295億円から472億円へ増えている。
結果として、営業から投資を差し引いたフリー・キャッシュ・フローは361億円のマイナスとなった。それでも配当金の支払い168億円は実行している。
不足分は外部調達で埋めた。財務活動によるキャッシュ・フローは309億円の収入で、会社によれば社債発行及び長期借入による収入873億円が入り、社債償還及び長期借入金の返済223億円、配当168億円、リース負債の返済165億円が出ていった。有利子負債は4,066億円へ754億円増えている。
もっとも、会社はこの調達を計画の範囲内と位置づけている。中期計画で目標としていたD/Eレシオ0.6を前倒しで達成したという説明で、日本格付研究所からはA+(長期)の格付を取得している。財務の余力を意識しながら、ブランドという無形の資産に資金を振り向けた期だったと読み取れる。
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出所:住友ゴム工業株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成
5. 営業利益が6.4倍になった正体。事業利益率7.5%という別の物差し
2025年12月期の営業利益は826億円で、前期比638.3%の増益だった。6.4倍である。この数字をそのまま成長と受け取ると読み間違える。
会社は営業利益とは別に「事業利益」という指標を開示している。売上収益から売上原価と販売費及び一般管理費を控除して算出したものだ。この事業利益は908億円で、前期比3.2%増。事業利益率は7.5%で、前期から0.2ポイント上昇したにとどまる。
両者の差は、その下の階層にある。会社の説明では、その他の収益及び費用で減損損失や事業再構築費用の減少等により前期比685億円の増益となり、これが営業利益を押し上げた。実際、減損損失は前期の451億円から当期は6.6億円まで減っている。
つまり638%という増益率は、本業の稼ぐ力が6倍になったのではなく、前期に重くのしかかった一時的な費用が消えたことによる水準の回復である。ここを混同しないよう注意したい。
本業側の動きも会社が細かく開示している。タイヤ事業の売上収益は1兆437億円で0.3%の減収だが、事業利益は798億円で4.8%の増益。会社によると、販売価格で約253億円、固定費で約70億円、直接原価で約42億円の増益要因があった一方、数量・構成他で約253億円、経費で約60億円、為替で約9億円、原材料で約7億円の減益要因があり、差し引きで約36億円の増益になったという。
数量が落ちて価格が上がった、という構図がはっきり出ている。会社は低採算品を下市したことや、競争環境の厳しい市場で採算重視の販売を行ったことを理由に挙げており、販売本数の減少は意図した結果でもあるようだ。米国関税の影響は大きなマイナスだったが、値上げと経費の節減でほぼ相殺できたとしている。
残る2つのセグメントは対照的だ。スポーツ事業は売上収益1,256億円で0.1%の減収、事業利益68億円で13.3%の減益。会社は収益性が高い韓国での販売減少が響いたとしている。産業品他事業は売上収益378億円で5.0%の減収ながら、事業利益42億円で11.7%の増益だった。
6. 筆者コメント
キャッシュ・フローの形と、株価が付いている倍率を同時に見ると、市場が何を待っているのかが見えてくる。
この会社は5期のうち2度、営業から投資を引いた収支をマイナスにしている。今回はその幅が最も大きく、しかも投じた先の中心が有形の設備ではなく商標権だった。工場は稼働率で成果が測れるが、ブランドの価値は販売価格と数量にじわじわ現れるもので、確認には時間がかかる。
加えて、投じた資金の相当部分は社債と長期借入で調達されている。負債で買った無形資産の回収を、市場はまだ検証できていない。純資産を下回る値付けは、その検証待ちの状態を映しているとも解釈できる。
となれば、次に確かめるべきは利益の絶対額ではない。地域別の販売数量と価格の動き、そして事業利益率が7.5%からどちらへ動くか。取得した商標権が売上と利益に効き始めたなら、まずここに現れる。
決算資料では営業利益の増減率が見出しになりやすい。だがこの会社に限っては、その一段上にある事業利益と、その下にあるキャッシュ・フローの両方を並べて見る癖をつけることをおすすめしたい。
参考資料
7.1 免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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石津 大希