魚を獲る会社という連想と、5,010億円という売上
社名から連想されるのは、漁船と冷凍倉庫の世界だろう。ところが2026年3月期通期のセグメント別売上高を見ると、順番が逆になっている。
食品事業が5,010億円で構成比53.8%。水産事業は3,802億円で40.8%。差は1,200億円あまりある。連結売上高9,313億円の半分以上を、水産以外の事業が稼いでいる計算だ。
食品事業の中身は加工事業とチルド事業に分かれる。会社の説明によると、加工事業では家庭用のちくわやフィッシュソーセージが順調に推移し、業務用も外食や量販店の惣菜向け冷凍食品が堅調だった。チルド事業はコンビニエンスストアの販売促進効果が大きく、弁当や惣菜の販売が前期に引き続き好調だったという。
つまり食品事業の実像は、スーパーの練り物売り場とコンビニの弁当棚である。港ではなく、日常の食卓に近いところに売上の重心がある。
営業利益で見ても順番は同じだ。食品事業296億円に対し、水産事業178億円。売上でも利益でも、食品が水産を上回る構図になっている。
連結子会社71社に散る収益源。利益率が最も高いのは売上166億円の事業だった
会社開示によれば、このグループは連結子会社71社と関連会社27社で構成されている。事業は水産、食品、ファイン、物流の4つに分かれ、それぞれに研究やサービスが付随する。
4事業の営業利益率を並べると、意外な順番になる。物流事業は売上166億円に対して営業利益24億円で、利益率は14.5%。食品事業5.91%、ファイン事業4.94%、水産事業4.67%を大きく上回り、グループで最も高い。
売上構成比では1.8%にすぎない事業が、収益性では首位に立っている。冷蔵倉庫、配送、通関を担う事業が、稼ぐ密度ではもっとも濃い。もっとも、会社の説明では物流の2024年問題を背景とした人員増に伴う人件費の増加や燃料費の上昇があり、当期は増収減益だった。密度の高い事業ほどコスト構造の変化に敏感、ということだろう。
もう一つ目を引くのがファイン事業だ。売上は170億円と小さいが、扱っているのは医薬品原料と機能性原料、そして機能性食品である。会社の注記では、機能性原料はサプリメントの原料や乳児用粉ミルク等に添加する素材として使われるEPA・DHAなどとされている。
魚から医薬品原料へ。ここは水産の技術が縦に伸びた領域で、事業規模は小さくても、この会社が単純な食品メーカーではないことを示している。
その水産事業も、当期は様相が変わった。営業利益は178億円で前期の2.1倍になっている。会社の説明によると、漁撈事業ではブリ・アジ・サバの漁獲が好調で販売価格も上昇し、養殖事業では短期養殖本まぐろの生産比率上昇による利益改善やギンザケの増産が寄与した。南米ではギンザケの販売数量が増え、加工度を高めた付加価値品の生産比率上昇に加え、生残率の向上による養殖コストの低減もあったとしている。
この結果、2026年3月期は売上高9,313億円(前期比5.1%増)、営業利益404億円(27.2%増)、経常利益432億円(22.3%増)、当期純利益275億円(8.4%増)となり、売上高と各段階利益がそろって過去最高を更新した。
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出所:株式会社ニッスイ 有価証券報告書をもとに筆者作成
1カ月で下押しし、当日に安値。PER12.86倍・PBR1.22倍の位置
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出所:各種資料をもとに筆者作成
直近1カ月の株価は、上げてから戻す形になった。8月6日の終値1,263円から8月14日には1,310円まで切り上がり、これが期間内の高値である。
そこからじりじりと水準を下げ、9月4日の終値は1,230円。前日の1,284円から54円、4.2%の下落で、直近1カ月では最も低い終値となった。1カ月を通してみれば2%台の下落で、値幅そのものは大きくない。
直近時点のPER(株価収益率)は12.86倍、PBR(株価純資産倍率)は1.22倍である。当日の下げは同社固有の材料というより、相場全体の地合いが影響した可能性が高い。
業種の分布に照らすと、この会社の位置は悪くない。2026年3月期のROE(自己資本利益率)は9.54%で、水産・農林業の中央値9.24%をわずかに上回る。営業利益率4.34%は中央値3.21%を明確に上回っている。
一方で自己資本比率は40.04%と、中央値41.35%をやや下回る。前期の43.64%からも低下した。資産が18.1%増える一方で純資産の増加が8.4%にとどまったためで、借入と社債で成長投資をまわしている局面だと読み取れる。
水産という言葉には、相場と天候に振り回される不安定な商売という響きがある。ところが5期の実績を並べると、売上高は6,937億円から9,313億円へ一貫して伸び、営業利益は271億円、245億円、297億円、318億円、404億円と切り上がってきた。イメージと数字が、きれいには重ならない。
筆者コメント
業界内での立ち位置に照らすと、この会社の性格がはっきり見えてくる。営業利益率は業種の中央値より高く、自己資本比率は中央値より低い。稼ぐ力を持ちながら、資本を寝かせていないという組み合わせだ。
ここには理由がある。水産の会社が水産だけをやっていれば、利益は漁獲と魚価に振られる。食品と物流を抱え込むと、そこに家庭用食品の需要という別の波が入ってくる。波の位相が違うものを束ねると、合計の振れ幅は小さくなる。
ポートフォリオ分散という言葉は投資の世界の用語だが、事業の側でも同じことが起きている。食品が水産を上回る売上構成は、単なる主従の入れ替わりではなく、収益の安定装置として機能している面があるだろう。
だからこの銘柄を見るときは、水産物の相場だけを追っても足りない。コンビニの弁当棚と、スーパーの練り物売り場。この二つを事業の指標として意識してみることをおすすめしたい。