営業キャッシュフロー117億円はどこから来たのか

この会社を理解する鍵は、損益よりも資金の流れの側にある。2025年12月期の営業キャッシュフローは117億円で、前期の93億円からさらに積み上がった。

会社は、棚卸資産や売掛金の削減を進め上半期より改善を継続したと説明している。総資産も運転資本削減施策や投資有価証券の売却などで前期末から216億円減り、1,205億円となった。

ここに読み間違えやすい点がある。同じ期の親会社株主に帰属する当期純利益は13億円だ。営業キャッシュフローとの差の大半は、稼いだ利益ではなく運転資本の解放から来ている。

棚卸資産は2022年12月期末の624億円から2025年12月期末の505億円へ、売掛金も375億円から238億円へ縮んだ。在庫と債権に沈んでいた現金が、外へ出てきた形である。

営業キャッシュフローの増加を「稼ぐ力の回復」と読みたくなるが、内訳はそう単純ではない。在庫の圧縮は一度きりの効き方をする。

とはいえ、圧縮の余地が消えたわけでもない。棚卸資産回転日数(在庫が売上に変わるまでの日数の目安)は2025年12月期で295日、前期の306日から短縮したものの、なお300日近い。在庫がこれだけ長く滞留する業態そのものが、運転資本の重さを作っている。一度きりの改善と、構造として残る重さ。どちらも同時に見ておきたい。

過去に遡ると、この構造がどれほど厳しく効いていたかがわかる。2021年12月期の営業キャッシュフローは▲65億円、2022年12月期は▲146億円だった。売上を伸ばしながら在庫と債権が膨らみ、現金は出ていくばかりだった時期である。

その穴を埋めたのが借入だ。2022年12月期の財務キャッシュフローは+174億円の収入で、稼げないぶんを外部から調達して回していた。

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出所:JUKI株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:JUKI株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

借入返済161億円という選択。設備投資を抑えた1期の資本配分

では、出てきた現金はどこへ向かったのか。2025年12月期の財務キャッシュフローは▲161億円で、会社は借入金の返済を行ったことなどによる支出としている。

投資キャッシュフローも投資有価証券の売却による収入で+43億円となった。政策保有株式の貸借対照表計上額は前期の18億円から5億円へ縮小しており、保有株式の整理が数字にはっきり出ている。

結果として、短期・長期を合わせた借入金は2023年12月期末の824億円から2025年12月期末の655億円まで減った。自己資本比率は前期末から4.9ポイントの改善である。

注目したいのは、その裏側で投資が絞られていた点だ。2025年12月期の設備投資は17億円で、減価償却費34億円を大きく下回る。前期の39億円からも縮小した。研究開発費も2023年12月期の49億円から39億円へ水準を下げている。

会社は主な資金需要を運転資金と設備投資資金とし、自己資金と金融機関からの借入で調達する方針だとしている。2025年12月期には本社のセール・アンド・リースバックによる資金調達も実施した。そのうえで、今後も積極的な開発投資・設備投資を進めつつ、棚卸資産の圧縮で資金効率を図るとしている。

会社の言葉は投資の側を向いている。だが直近1期の実際の配分は、明らかにバランスシートの修復に寄っていた。減価償却を下回る設備投資は、いつか更新や新規投資という形で戻ってくる支出でもある。

人員も2021年12月期の5,255人から2025年12月期は3,828人へ減った。会社が説明する生産能力適正化やネクストキャリアプログラムの実施が、この縮小として現れていると読める。

JUKIの返済と還元は同時に動き出すのか

還元の側にも兆しがある。1株当たり年間配当は2025年12月期の10円に対し、2026年12月期は15円が予想されている。返済を進めながら配当も増やす計画だ。

資本配分とは、手元の現金をどこに置くかという選択の連続である。直近1期の置き場所は負債の側にはっきり寄っていた。負債の一点に集中していた段階から、少しだけ幅が出はじめた局面と読める。

筆者コメント

資本配分の重心が動こうとしているのが、この会社の直近の姿だ。

5期のキャッシュフローを並べると、2つの時期をくっきり通り抜けていることがわかる。前半は在庫と債権に現金を吸われ、借入で埋めた時期。後半はそれを吐き出し、返済に充てた時期である。

興味深いのは、後半に出てきた現金がほとんど成長投資へ向かっていない点だ。設備投資は減価償却を下回り、研究開発の水準も落ちた。稼いだ現金の行き先は、資産の積み増しではなく負債の削減だった。

これは慎重だが理屈の通った選択だと思う。負債の重い会社にとって、利払いを減らすことは確実に効くリターンだからだ。ただそれは同時に、将来の稼ぐ力への投資を1期分先送りしたことでもある。

無借金に近い会社には「負債を使わない財務が資本効率の面で最適なのか」という論点を向けることになる。負債の重い会社に向ける論点はその逆で、返済が一巡した後の現金を何に投じるつもりなのかだ。

答えの輪郭が見えるのは、おそらく次の期になる。決算をこういう視点で追ってみることをおすすめしたい。

参考資料

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石津 大希