8. 60歳代に多い「夫婦それぞれにいろいろな契約があって、どこに何があるのかを自分でも説明できない」というご相談。IFA・筒井 亮鳳が伝えたいこと

長い年月のあいだには、勤め先の都合や住まいの事情、そのときどきの必要に応じて、いくつもの契約が積み重なっていきます。ご夫婦それぞれに別々の付き合いがあれば、その分だけ広がります。ひとつずつは覚えているつもりでも、いざ人に説明しようとすると言葉に詰まる。ここでは、IFAが日頃の面談でよく受けるご相談のひとつを、個人が特定されないよう内容を一般化したうえで取り上げます。

8.1 60歳代に多いお悩み相談は「夫婦それぞれにいろいろな契約があって、どこに何があるのかを自分でも説明できない」

60歳代(ご相談者)
すでに仕事は退いていて、これから先にお金がかかりそうな出来事もいくつか思い浮かんでいます。ただ、夫婦それぞれにいろいろな契約があって、どこに何があるのかを自分でも説明できません。減らさない程度でやっていければと思っていますが、人に聞かれても答えられない状態のままで、何から手をつければよいのか決めかねています。

長く付き合ってきた先があること自体は、それだけ準備を重ねてこられた証でもあります。それでも、頭の中では分かっているつもりのことを、紙の上に並べたことがないという方は少なくありません。相談の場でも、通帳や書類を持ち寄っていただいて初めて「これも入っていたのか」と気づかれることがよくあります。説明できないのは記憶力の問題ではなく、記録として外に出したことがない、というだけのことが多いのです。

8.2 【IFA・筒井 亮鳳が回答】どこの会社の何の契約かを書き留め、窓口の連絡先といつ時点のものかを書き添え、暗証番号や金額は書かずにご家族にも伝わる形にしておく

筒井 亮鳳
「どこに何があるのかを自分でも説明できないのだから、どこから手をつけようもない」と立ち止まってしまう前に、まずは「どこの会社か」「何の契約か」のふたつを書き留めましょう。

そこに窓口の連絡先と記入日を書き添え、暗証番号や金額は書かずに「どこに何があるか」だけをご家族に伝わる形にしておくことが、ご自身にもご家族にも役立つ記録になります。

また、商品などによっては証券会社を一つにまとめることができる可能性がありますので、今のうちに確認してみてもよいかもしれません。

8.3 ポイント1:書き留めるのは「どこの会社か」と「何の契約か」のふたつから

記録を残そうと考えると、すべてを漏れなく書かなければならない気がして、始める前に手が止まってしまいます。相談の場でおすすめしているのは、まず項目を思い切って絞ることです。書き留めるのは「どこの会社と付き合っているか」と「そこで何の契約をしているか」のふたつ。この段階では、預け先の名前と、預貯金なのか、値動きのあるものを持っているのか、保障のついた契約なのか、といった種類の区別が分かれば十分です。細かい内容や、いつ始めたのかまで思い出せなくても構いません。思い出せないところは空欄のままにして、次に確かめる宿題として印だけ付けておきます。ご夫婦それぞれに契約がある場合は、どちらの名義のものかも並べて書いておくと、あとから見返すときに迷いません。すべてを埋めようとすると終わらない作業になりますが、この時点で目指すのは完成度ではなく、外に出しておくことです。埋まらないところがあっても、書き出した分だけは説明できる状態になります。

8.4 ポイント2:問い合わせ先と「いつ時点のものか」を書き添えておく

会社名と契約の種類まで並べたら、そこに書き添えておきたいのが、問い合わせるための窓口と、その記録をいつ書いたのかという時点です。

窓口については、支店や担当の連絡先、届いている書類のどこを見れば分かるか、といったことを一行添えておくだけでも役に立ちます。入院や急な事情でご本人が動けないときにも、この一行があれば、ご家族が調べ直すところから始めずに済むためです。あわせて大切なのが、いつ時点のものかを添えることです。

契約の内容も、窓口の連絡先も、年月がたてば変わっていきます。書いた時点が分かっていれば、読む側は「ここから先は確かめ直す必要がある」と判断できます。

日付のない記録は、それが今も正しいのかどうかを読む人が判断できず、かえって迷わせてしまうことがあります。反対に、時点さえ書いてあれば、多少古くなっていても手がかりとして働きます。書類が届く先の住所や、案内が届く形になっているかどうかを添えておくのも、あとから確かめる助けになります。

8.5 ポイント3:暗証番号や金額は書かず、ご家族に伝わる形にしておく

ここが記録を残すうえでいちばん気をつけたいところです。暗証番号やパスワードのたぐいは、記録に書き残さないでください。書き留めた紙やデータが人目に触れたときに、そのまま引き出せる状態になってしまうからです。

同じ理由で、いくら預けているかという金額も書かないことをおすすめしています。値動きのあるものを持っていれば金額は日々動きますし、価格の変動によって元本を下回ることもありますから、書いた時点の数字はすぐに実態と離れていきます。

記録の役目は残高を示すことではなく、「どこに何があるか」までを伝えることだと考えると、線を引きやすくなります。そのうえで、その記録の置き場所をご家族に伝えておきます。何が書いてあるかを細かく共有しなくても、どこにしまってあるかさえ伝わっていれば、必要になったときに開くことができます。

ご夫婦でお互いの分を持ち寄って一度ひととおり目を通しておくと、片方しか知らない状態が減ります。なお、契約の内容や手続きの取り扱いは改正や見直しによって変わることがありますので、実際の確認の進め方については、公的機関の情報や契約先の窓口、関連する部署でお確かめください。

何をどこまで書き留めておくかは、契約の数やご家族の状況によって変わります。この記事でお伝えしたのは項目の絞り方ですので、実際の進め方については、状況を確かめながら専門家とご一緒に整えていただければと思います。

9. まとめにかえて

仕事を退いたあとの時期は、増やすことよりも、今あるものを目減りさせずに使っていくことへ関心が移りやすい時期です。ところが、その「今あるもの」がどこにいくつあるのかを、ご自身の言葉で説明できないままになっていることがあります。長い年月のあいだに契約が積み重なり、ご夫婦それぞれに別の付き合いがあれば、覚えていられる量を超えてしまうのは自然なことです。

この記事では、どこの会社の何の契約かというふたつから書き留めること、問い合わせるための窓口といつ時点のものかを書き添えること、そして暗証番号や金額は書かずにご家族に伝わる形にしておくことを、相談の現場でよく交わされる整理として取り上げました。

書き留めるという行為そのものは地味ですが、頭の中にあるものを外に出しておくと、ご自身が説明に困らなくなるだけでなく、入院や急な事情でご本人が動けないときにも、ご家族が手がかりから調べられる状態になります。

値動きのある資産には価格の変動があり、元本割れとなる可能性があります。また、契約の内容や手続きの取り扱い、税に関する定めは、改正によって変わることがあります。この記事でお伝えしたのはあくまで記録の残し方についての考え方ですので、最新の内容は公的機関の情報や、契約先の窓口でご確認ください。ご自身の状況に沿った判断については、関連する部署や専門家に確かめながら進めていただければと思います。

参考資料

筒井 亮鳳