時代時代に流行があり、歌があります。それぞれの世代に思い出に残る歌とアイドルが存在することと思います。本稿は、そろそろ40代もおしまいに近づいてきた筆者が学生だった頃に見聞したアイドルとアイドル歌謡の隆盛が、バンドブームへと切り替わる時代を振り返ってみるものです。
「スター」から「アイドル」に変わる頃ー1980年代初頭
「歌う若い人」はもっと以前から存在しました。しかし「アイドル」という呼称が定着し、「歌う若い人」、即ち「デビュー以降の成長過程をファンが共有していくことができる未成熟な歌手」を「アイドル」と称するようになったのは、一時期テレビCMで共演が続き「聖俊(せいしゅん)コンビ」と呼ばれた松田聖子、田原俊彦らがデビューした1980年が始まりだった、と記憶しています。
それ以前にも「アイドル」という言葉は使われていましたがあまりポピュラーではなく、1970年代まではテレビに登場する人たちは「スター」でした。即ち空に輝く星、手の届かない存在だったのです。
1980年は、オーディション番組「スター誕生!」から出た山口百恵が、舞台にマイクを置くというパフォーマンスをもって引退した年でもあります。「スターの時代」が終わり、「アイドルの時代」がはじまった「アイドル元年」と呼んでもいいでしょう。松田、田原をはじめこの年以降にデビューした若手歌手は皆「アイドル」と呼ばれるようになり、それまでよりもずっと身近な存在になりました。
1980年にアイドルの時代の扉が開き、翌々年の1982年は「アイドルの当たり年」と言われるほど多くのアイドル歌手がデビューしました。この年にデビューした小泉今日子、中森明菜、堀ちえみ、早見優、シブがき隊らは「花の82年組」と呼ばれ、その後のアイドルシーンを盛り上げていきます。
アイドル黄金期のオリコンチャート
1980年に萌芽し、1982年に花開いたアイドル黄金期。華やいだアイドルの時代が最盛となるのが1988年です。その年のオリコンCDシングル年間売り上げランキングを見てみましょう。
【1988年1~10位】
1.パラダイス銀河(光GENJI)
2.ガラスの十代(光GENJI)
3.Diamondハリケーン(光GENJI)
4.DayBreak(男闘呼組)
5.乾杯(長渕剛)
6.MUGO・ん…色っぽい(工藤静香)
7.剣の舞(光GENJI)
8.ANGEL(氷室京介)
9.人魚姫 mermaid(中山美穂)
10.You Were Mine(久保田利伸)
1988年は光GENJIのデビューの翌年、彼らの全盛期です。この頃のアイドルは1クール(3カ月)ごとにシングル曲をリリースしていましたから、4曲同時ランクインということは、光GENJIはこの年に出したシングルすべてが10位以内に入っているということです。ほかにアイドルと呼ばれる人で10位以内にランクインしているのは中山美穂、工藤静香の両名のみです。
工藤は30位圏内に『FU-JI-TSU』もランクインしていますが、『MUGO・ん…色っぽい』とこの曲は作詞・中島みゆき、作曲・後藤次利のコンビによるもの。『FU-JI-TSU』から始まった中島による工藤への歌詞提供は長く続き、アルバム曲も合わせて23曲に及びます(2018年末現在)。これは中島がこれまで何人ものアーティストに詞や曲を提供してきた中で、1人のアーティストに対して提供した最多数とのことです。
この年のランキングは光GENJIの異様なまでの人気で様相がわかりづらいので、11位以下も見てみましょう。