オンラインゲームの世界的企業として知られ、『メイプルストーリー』などの人気タイトルを抱えるネクソン。

同社は直近の決算発表で、1株415円、総額約3,240億円という異例の特別配当を発表し、市場の大きな注目を集めました。多くの人は「ゲームがヒットして業績が絶好調だから、これほどの大盤振る舞いができるのだろう」と考えるかもしれません。

一体なぜ、ゲーム会社がこれほど巨額の現金を一度に還元できるのでしょうか。また、なぜ「自社株買い」ではなく「特別配当」という手段を選んだのでしょうか。

この秘密について、元機関投資家の泉田良輔氏がネクソンの事業構造と財務体質を分析し、業績好調の本当の理由を解説します。

ココがポイント
  • ネクソンの最終利益倍増は為替要因が大きく、本業の営業利益は+12.8%の成長
  • 1兆円超の資産と、投資からも現金を生む強固なキャッシュフロー構造が巨額配当の源泉
  • 会社は「配当か自社株買いか」ではなく、ROEを高めるために配当を「先」に行う戦略を選んだ

1. 最終利益が2倍に。業績好調の裏にある「為替」の影響

「これだけ大きな特別配当を出すということは、よほど本業のゲーム事業が絶好調なのだろう」。そう思っていませんか。

実は、本業の伸びと、最終的な利益の伸びを分けて見ると話が違います。

2026年12月期の中間決算(1〜6月)を見ていきましょう。売上収益は2,733億円(前年同期比+17.4%)、本業の儲けを示す営業利益は894億円(同+12.8%)でした。一方で、最終的な儲けである純利益は869億円と、前年同期比で+101.9%もの大幅な増益となっています。

純利益がほぼ倍増しているのを見ると、業績が急拡大しているように見えます。しかし、この利益倍増の主因は「為替差益」(外貨建ての資産や取引を円に換算する際に生じる利益)です。前年同期に216億円の為替差損が発生していたのに対し、当中間期は128億円の為替差益を計上した結果、最終利益が大きく押し上げられました(決算短信 p.2)。つまり、本業の稼ぐ力を映す営業利益の伸びは+12.8%であり、最終利益の倍増とは分けて考える必要があります。

また、ネクソンの業績開示には特異な点があります。通期の業績予想を開示せず、1四半期(3ヶ月)先までの予想をレンジ(幅)を持たせて開示しているのです。第3四半期累計(1〜9月)の予想は、売上収益が前年同期比+12.1%〜+15.7%、営業利益が△4.1%〜+4.2%、純利益が+29.4%〜+38.6%となっています。

泉田氏はこの開示スタイルについて、ゲーム事業ならではの特性を指摘します。

「タイトルの発売のタイミングでズレ込んだりしちゃうので、通期予想するというよりかは1四半期ずつ予想していくというスタイルになっていると考えられます」

マーケティングの動向やタイトルのリリース時期によって業績がブレやすいため、いわば「視界の晴れている範囲だけを正確に伝える」手法をとっていると言えます。

2026年12月期 中間決算 業績の伸び率1/3

2026年12月期 中間決算 業績の伸び率

出所:株式会社ネクソン「2026年12月期 第2四半期決算短信」p.1を基にイズミダイズム作成

2. 1兆円を超える資産と、潤沢なキャッシュを生む構造

では、なぜネクソンは総額約3,240億円にも上る特別配当を実施できるのでしょうか。その理由は、同社の強固な財務体質とキャッシュを生み出す構造にあります。

貸借対照表(企業の健康診断書)を見てみましょう。2026年6月末時点の資産合計は1兆3,564億円に上ります(同社はIFRSを採用しており、売上高は「売上収益」と表記されます)。そのうち、現金及び現金同等物が5,461億円を占め、その他の預金2,959億円と合わせた手元資金は8,420億円に達しています。さらに、借入金はゼロであり、親会社所有者帰属持分比率(自己資本比率)は79.4%と極めて健全な状態です。

お金の流れを示すキャッシュフロー計算書を見ると、その特異性がさらに際立ちます。本業で稼いだ現金を示す「営業活動によるキャッシュフロー」は375億円のプラスでした。注目すべきは「投資活動によるキャッシュフロー」です。

泉田氏は次のように解説します。

「通常の設備投資型の企業だと、ここの投資活動によるキャッシュはマイナスのことが多いのですが、このネクソンの場合はプラスです」と泉田氏は指摘します。実際の金額は593億円のプラスでした

有価証券の売却や償還(満期を迎えて元本が返ってくること)による収入が502億円あったことなどから、投資活動でも現金が生み出されています。結果として、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを合わせたフリーキャッシュフローは969億円のプラスとなっています。事業で稼いだお金に加えて、投資資産の回収からも現金が入ってくる構造があるため、巨額の配当を実施するだけの十分な体力を備えているのです。

ネクソンのキャッシュフロー構造2/3

ネクソンのキャッシュフロー構造

出所:株式会社ネクソン「2026年12月期 第2四半期決算短信」p.14-15を基にイズミダイズム作成