「最近、親の物忘れが増えた気がする」――。そんな身近な変化に、一抹の不安を抱く家族は少なくありません。

高齢化社会が進む中、多くの人が直面するこの問題。病院で「MCI(軽度認知障害)」と診断されたとき、多くの人が「これからどうすればいいのか」という戸惑いに直面します。

いざという時の備えとして知られるのが「成年後見制度」です。実際、成年後見制度の利用者は全国で25万9901人(令和7年12月末時点)にのぼり、その申立ての開始原因の61.3%を認知症が占めています。

しかし、MCIと診断されたからといって、公的支援や制度がすぐに使えるわけではありません。それぞれ別の手続きや条件があるからです。本記事では、MCIの検査や成年後見の費用、介護保険との使い分けを整理します。

ココがポイント
  • MCI(軽度認知障害)とは、もの忘れなどの認知機能の低下はみられるものの、日常生活はこれまでどおり自分の力で送れている状態のことです。
  • 成年後見制度の利用者は全国で25万9901人、開始原因の61.3%が認知症。申立費用は印紙代など数千円からです。
  • MCIの診断だけでは介護保険の対象にならないことがあり、要介護認定など別の手続きが必要になります。

1. MCI(軽度認知障害)とは?認知症とどう違うのか

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MCI(軽度認知障害)とは?認知症とどう違う?

出所:国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にする MCIハンドブック(ウェブ版)」をもとにLIMO編集部作成

MCI(軽度認知障害)とは、もの忘れなどの認知機能の低下はみられるものの、日常生活はこれまでどおり自分の力で送れている、健常と認知症のあいだにあたる状態のことです。

放置すると認知症へ進行するリスクがありますが、MCIから1年で認知症に進行するのは5〜15%とされる一方、適切な対策や予防によって逆に健常に回復する割合も16〜41%にのぼる段階とされています。

1.1 認知症の検査はどこで受けられる?

「もしかして?」と感じたら、まずは最初の無料相談窓口である地域包括支援センターや、普段の体調を把握しているかかりつけ医に相談しましょう。

その後、専門医療機関(もの忘れ外来や認知症疾患医療センターなど)の紹介を受け、画像検査や専門検査を行います。

検査では「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」などのスクリーニング手法に軽く触れますが、診断確定は必ず専門医が行います。

2. 成年後見制度「初期費用」はいくらかかる?

判断能力が不十分になった人の財産管理や契約を支援する「成年後見制度」。家庭裁判所への申立ての初期費用はそれほど高くありません。

たとえば後見開始の申立てをする場合、申立手数料(収入印紙)800円と登記手数料(収入印紙)2600円を合わせて、基本費用は3400円です。判断能力の程度を確認する鑑定が必要な場合は、これに鑑定料(ほとんどの場合が10万円以下)が加わることが多くなります。

申立費用の内訳は以下のとおりです。

  • 申立手数料(収入印紙):800円
  • 登記手数料(収入印紙):2600円
  • 郵便切手(裁判所との連絡用)
  • 鑑定料(必要な場合):10万円以下が多い
  • 診断書等取得費(医師への作成料)

費用支払いが困難な方向けに、市町村の「成年後見制度利用支援事業」や、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助もあります。

ただし、制度の有無・内容は市町村により異なるため、地域包括支援センターや市区町村の窓口に確認をしてください。

2.1 後見開始後の費用について

なお、成年後見制度は申立時の初期費用だけでなく、後見が始まってからも費用がかかり続ける点に注意が必要です。

特に司法書士や弁護士などの専門職が後見人になった場合、家庭裁判所が本人の財産状況等を考慮して報酬額を審判で決定し、その報酬は本人の財産から支払われます。

後見が続く限り、原則として毎年一定の報酬が発生し続けるため、申立て前に継続的な費用負担も見込んでおくことが重要です。

2.2 成年後見制度は実際どんな人が使っている?

成年後見制度の利用実態を、最高裁判所の最新データ(令和7年1月〜12月の「成年後見関係事件の概況」)で確認します。

後見開始の原因としては認知症が最も多く、全体の61.3%を占めます。

成年後見制度の開始原因別割合2/2

成年後見制度の開始原因別割合(認知症61.3%、知的障害9.6%、統合失調症9.3%、高次脳機能障害4.4%、遷延性意識障害0.5%、その他14.9%)

出所:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―令和7年1月〜12月―」をもとにLIMO編集部作成

  • 開始原因: 認知症が61.3%で最多。次いで知的障害9.6%、統合失調症9.3%、高次脳機能障害4.4%、遷延性意識障害0.5%、その他14.9%の順です。
  • 申立件数(合計 43159件): 後見開始29233件、保佐9743件、補助3302件、任意後見監督人選任881件。
  • 後見人と本人の関係: 親族がなる割合は16.4%。司法書士が最多で、次いで弁護士、社会福祉士などの専門職(親族以外)が83.6%を占めます。
  • 審判までの期間: 申立てから審判まで「2か月以内」が71.1%、「4か月以内」が93.8%にのぼります。

このように、専門職が後見人になるケースが大多数を占め、開始までには一定の審査期間を要するのが実態です。

3. 【筆者実体験】母がMCIと診断されたとき、私が「話を切り出せなかった」理由

熊谷 良子

私自身、認知症の母を介護してきた家族のひとりとして、この「気づいてから動くまで」の難しさを痛感した経験があります。

母がMCI(軽度認知障害)と診断された当初、本人にはまだしっかりしたところが多く残っていました。だからこそ、「自分は認知症になってしまうのか」という母自身のショックや焦りが強く、介護保険の申請や成年後見制度といった話を、こちらから切り出すこと自体がなかなかできませんでした。

良かれと思って先回りしようとしても、本人の気持ちに寄り添えなければ、かえって話が前に進まなくなる――。結果として、いろいろな手続きが後手に回ってしまったのが実感です。

診断から実際に制度を使い始めるまでには、書類上の手続き期間だけでなく、本人と家族それぞれの心の準備にも時間がかかるものだと、身をもって感じました。

今、同じように悩んでいるご家族がいたら、焦らず、本人のペースに合わせて少しずつ話を進めていってほしいと思います。

4. 後期高齢者の認知症で、知っておきたい注意点が3つある

認知症への公的な備えを進めるうえで、家族が誤解しがちな注意点が3つあります。

4.1 1. MCIの 診断のみでは介護保険の対象にならない場合がある

MCI(軽度認知障害)は「日常生活を自立して送れる」段階であるため、診断を受けたからといって自動的に介護保険が適用されるわけではありません。

利用には別途「要介護・要支援認定」の申請が必要です。

4.2 2. 後見開始の審判には一定の期間がかかる

審判が下りるまで「2か月以内」が71.1%ですが、約3割はそれ以上を要します。

銀行口座凍結や施設の入居契約など、目の前に手続きが迫ってから申し立てても空白期間が生じる恐れがあります。

4.3 3. 後見人がついても本人の資産を自由に動かせるわけではない

後見制度は「本人の財産保護」が目的です。

居住用不動産を売却・処分する場合、たとえ後見人(親族を含む)であっても、事前に家庭裁判所の許可が必要という実務上の制約があります。

5. 介護保険と成年後見制度、どう使い分ける?

どちらも重要な公的支援ですが、その目的は大きく異なり、認知症の進行に応じて組み合わせて利用するケースが一般的です。

5.1 介護保険制度(目的:身体介護や生活援助などの「サービス利用」)

食事や入浴の介助、デイサービスやショートステイ、福祉用具のレンタルなど、直接的な介護ケアサービスの提供を目的とします。要介護・要支援認定が前提です。

5.2 成年後見制度(目的:預貯金の管理や契約行為の「代理・保護」)

本人の意思能力が低下した後に、預貯金の管理、生活費の支払い、施設入居契約や不要な契約の取消しなど、法的な契約行為や財産管理を代理して保護することを目的とします。

判断能力の程度で法定後見(後見・保佐・補助)と任意後見に分かれます。

「介護サービスの手配やケアは介護保険、その利用契約や費用の管理は後見人」と並行して進めることが実務の整理になります。

最初の相談窓口としては、地域包括支援センターや、市区町村が設置を進めている「中核機関」に相談するのがスムーズです。

6. まとめにかえて|後期高齢者の認知症、まず何から動くべきか

後期高齢者の親のもの忘れが増え、MCIや認知症が疑われたとき、家族がまず何から動くべきか、その基本的な順序を提示します。

  1. 地域包括支援センターへの相談: 最初の窓口として、客観的な状況や今後のアドバイスを相談します。
  2. 医療機関での専門検査: かかりつけ医やもの忘れ外来などでスクリーニングを受け、確定診断を受けます。
  3. 介護保険の申請: 必要に応じて要介護・要支援認定の申請を行い、ケアのインフラを整えます。
  4. 成年後見制度の検討: 判断能力の度合いや財産管理、今後の契約の必要性を考慮し、専門家に相談します。

特定の金融商品や法律事務所、後見サービスを推奨するものではありません。

MCIは早期に対策すれば回復する可能性もある段階といわれています。公的保険や成年後見制度を正しく理解し、焦らずに「元気なうちの相談」から一歩を進めていきましょう。

7. 筆者からのコメント

熊谷 良子

親の変化に気づいたとき、戸惑うのは当然です。私自身、MCIの母に今後の話を切り出す難しさを痛感しました。

MCIは早期の対策で回復の可能性もある段階と言われていますが、公的制度の手続きはもちろん、ご本人と家族の「心の準備」にも時間がかかります。

どうか焦らず、本人のペースに寄り添いながら、まずは包括支援センターなどに頼ってみてくださいね。

参考資料