「2つの会社で働いていて、両方の給与から厚生年金保険料が引かれている——これは二重払いでは」と不安になったことはありませんか。副業やダブルワークが広がる中、複数の勤務先で社会保険に加入するケースは珍しくなくなっています。
この記事では、そうした不安の背景にある制度の仕組みを、実際の計算方法と必要な手続きに分けて具体的に整理していきます。
結論から言うと、これは制度上正しい仕組みです。ただし、放置していると保険料の計算が正しく行われず、後から調整が必要になることがあります。この記事では、2つの勤務先で同時に厚生年金に加入した場合の保険料の決め方と、必要な手続きを編集部で整理します。
働き方が多様化し、複数の職場を掛け持ちする人が増えている中、この仕組みを知らないまま放置している人は少なくないはずです。まずは自分がこの制度の対象になっているかどうかを確認するところから始めましょう。制度を正しく理解しておけば、給与明細を見て不安に感じる場面も減らせるはずです。
なお、厚生年金の受給額の実態に関する詳しい説明は、下記の記事より一部を引用・参照しています。
- 2つの勤務先で同時に厚生年金の加入要件を満たす場合、両方から保険料が引かれるのは制度上正しい仕組みです。
- 保険料は2社の報酬月額を合算した標準報酬月額をもとに計算され、それぞれの報酬額に応じて按分されます。
- この仕組みを適用するには、事実発生から10日以内に「二以上事業所勤務届」の提出が必要です。
1. 「両方から引かれている」は、間違いではないことがある
まず、なぜこの不安が生まれやすいのかを確認します。仕組みを知らないまま2社分の天引きを見ると、誰でも「何かの間違いでは」と感じてしまうはずです。
1.1 1つの会社しか想定していないと、2社分の天引きに戸惑う
厚生年金保険料は、通常であれば1つの勤務先の給与から天引きされるものだと考えている人がほとんどです。そのため、副業先やダブルワーク先でも同時に厚生年金の加入要件(週の所定労働時間や賃金など)を満たし、2社両方の給与明細に保険料の記載があると、「二重に取られているのでは」と驚いてしまいます。
しかし、これは退職・就職のタイミングのズレで起きる一時的な重複(同月得喪によるもの)とは、まったく別の仕組みです。2つの勤務先で継続的に社会保険の加入要件を満たしている場合は、両方から保険料が引かれること自体が、制度上想定された正しい状態です。
同月得喪による重複は、いずれ一本化されて余分な分は還付される一時的な現象です。これに対し、二以上事業所勤務のケースは、2つの勤務先での加入状態が継続する限り、両方から保険料が引かれ続ける恒常的な仕組みという違いがあります。
2. 編集部整理:2社分の保険料は、合算してから按分される
それでは、具体的にどのように保険料が計算されるのかを確認します。仕組みを知っておけば、給与明細の数字がなぜその金額になっているのかも理解しやすくなります。
2.1 2社の報酬月額を合算し、標準報酬月額を1つに決める
日本年金機構の案内によると、2つ以上の事業所で同時に厚生年金保険の加入要件を満たした場合、「それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した月額により標準報酬月額を決定します」とされています。つまり、A社とB社、それぞれの給与を別々に計算するのではなく、まず合計した金額をもとに、1つの標準報酬月額が決まります。
2.2 【二以上事業所勤務者・保険料計算の流れ】
前提条件:日本年金機構の公式ページに基づき、二以上事業所勤務者の保険料計算の流れを編集部で整理1/2
出所:日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」などを基にLIMO編集部作成
- ①報酬月額の合算:A社・B社それぞれの報酬月額を合算します
- ②標準報酬月額の決定:合算した月額をもとに、1つの標準報酬月額を決定します
- ③保険料の按分:決定した保険料額を、A社・B社それぞれの報酬額の割合で按分します
日本年金機構の説明では、この按分は「決定した標準報酬月額による保険料額をそれぞれの事業所で受ける報酬月額に基づき按分し決定」する仕組みとされています。報酬の多い会社ほど負担する保険料の割合も大きくなる、比例配分の考え方です。
たとえば、A社の報酬が多くB社の報酬が少ない場合、A社が負担する保険料の割合はB社より大きくなります。逆に2社の報酬がほぼ同額であれば、負担する保険料もほぼ半分ずつになる計算です。個別の金額は勤務先ごとの給与額によって変わるため、正確な数字は届出後に通知される内容で確認する必要があります。
3. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、この按分計算は自動的には行われないという点です。会社側が把握しているのは、あくまで自社で支払っている給与額だけであり、もう一方の勤務先での報酬額までは分かりません。合算・按分の計算をしてもらうためには、次に説明する届出が欠かせません。
2社の担当者同士が連絡を取り合って報酬額を共有する、ということは基本的に行われません。両社の情報をつなぐ役割は、あくまで被保険者本人からの届出が担っています。
届出をしないままでいると、それぞれの会社が自社の報酬額だけをもとに標準報酬月額を決定してしまい、本来より多く保険料を負担している可能性があります。心当たりがある場合は、早めに手続き状況を確認することをおすすめします。
「両方から引かれているのはおかしいのでは」と感じたときこそ、実は届出のタイミングを逃さないための良いきっかけになります。違和感を放置せず、確認の行動につなげることが大切です。
4. 按分を適用するには、10日以内の届出が必要
合算・按分の仕組みを実際に適用してもらうには、被保険者自身が行うべき手続きがあります。ここを知らずにいると、正しい仕組みがあっても実際には適用されないままになってしまいます。
4.1 「二以上事業所勤務届」を、事実発生から10日以内に提出する
日本年金機構は、「事実発生から10日以内に被保険者が『健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届』を日本年金機構へ提出する必要があります」と案内しています。この届出は、会社ではなく被保険者本人が行う点が特徴です。
届出の際には、基本の届書に加えて、「選択しなかった事業所」からすでに交付されている健康保険証(または資格確認書など)、高齢受給者証、特定疾病療養受療証、限度額適用認定証などがある場合は、返納のために添付が必要になります。手元にこれらの書類がある場合は、あわせて準備しておくとスムーズです。
「事実発生から10日以内」という期限は、実際に2社目で加入要件を満たした日を起点に数えます。副業先での勤務条件が変わって新たに要件を満たした場合も同様に、その時点から10日というカウントが始まる点に注意が必要です。
4.2 【二以上事業所勤務届・提出のポイント】
- 届出書類:健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届
- 提出期限:事実発生から10日以内
- 提出者:被保険者本人(会社側ではありません)
5. 【編集者の視点】
実務上のもう一つのポイントは、届出の際に「主たる事業所(選択事業所)」を自分で選ぶ必要があることです。この選択によって、健康保険証の発行元や手続きの窓口が変わります。どちらの勤務先を選ぶかは本人の判断に委ねられていますが、一度選ぶとその後の手続きに影響するため、慎重に検討する価値があります。
なお、国や地方公共団体等の短時間勤務職員で共済組合制度の対象になる場合は、国等の事業所を選択する必要があるという例外もあります。自分がこの例外に該当するかどうか不安な場合は、年金事務所に確認しておくと安心です。
民間企業のみを掛け持ちしている一般的なケースでは、この例外は基本的に関係ありません。ただし、片方の勤務先が公的機関である場合は、あらかじめこの規定を確認しておくと、届出時に迷わずに済みます。
選択事業所の変更を検討したくなった場合も、年金事務所に相談すれば必要な手続きの案内を受けられます。状況が変わった際は、一人で判断せず窓口に確認してみるとよいでしょう。
6. 心当たりがある場合の確認方法
最後に、自分が二以上事業所勤務に該当するかどうかを確認する方法を整理します。
6.1 複数の勤務先で社会保険の加入要件を満たしているか確認する
週の所定労働時間や賃金などの要件を、2社以上の勤務先で同時に満たしている場合は、二以上事業所勤務に該当する可能性があります。まずは自分の勤務条件が各社でどう扱われているか、給与明細や勤務先の担当部署に確認してみましょう。
特に、パートやアルバイトから正社員に近い働き方に移行した場合や、副業の勤務時間が増えた場合は、それまで社会保険の対象外だった働き方が、途中から対象に変わることがあります。勤務条件が変わったタイミングでは、あらためて要件を満たしていないか確認する習慣をつけておくとよいでしょう。
逆に、副業の勤務時間を減らした場合は、加入要件を満たさなくなることもあります。要件を満たさなくなった場合の手続きについても、あわせて勤務先や年金事務所に確認しておくと安心です。
6.2 届出が済んでいるか不安な場合は、年金事務所へ
すでに2社から保険料が天引きされているのに届出をした記憶がない場合は、年金事務所に相談することをおすすめします。届出の有無や、按分計算が正しく行われているかを確認できます。
相談の際は、それぞれの勤務先の名称や、おおよその報酬額、いつ頃から2社での勤務を始めたかを整理しておくと、確認がスムーズに進みます。手元にねんきん定期便や給与明細があれば、あわせて持参するとよいでしょう。
※本記事は、編集部が日本年金機構が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
7. まとめ
- 2つの勤務先で同時に厚生年金の加入要件を満たす場合、両方から保険料が引かれるのは制度上正しい仕組みです。
- 保険料は2社の報酬月額を合算した標準報酬月額をもとに計算され、それぞれの報酬額に応じて按分されます。
- この仕組みを適用するには、事実発生から10日以内に「二以上事業所勤務届」の提出が必要です。
- 届出は会社ではなく被保険者本人が行う必要があり、主たる事業所(選択事業所)も自分で選びます。
- 届出をしないままだと、按分計算が行われず、本来より多く保険料を負担している可能性があります。
「両方から引かれているのは二重払いではないか」という不安は、複数の勤務先で働く人が増えるにつれて多くの人が抱くものです。しかし実際には、報酬を合算したうえで按分するという制度が用意されており、両方から引かれること自体は誤りではありません。大切なのは、この仕組みを適用してもらうための届出を、期限内に自分で行うことです。
複数の勤務先で働くスタイルは今後も広がっていくと考えられます。この記事で紹介した仕組みを知っておけば、いざ自分が該当したときに落ち着いて対応できるはずです。
給与明細を確認する際は、天引きされている金額そのものだけでなく、その根拠がどの仕組みに基づいているのかまで意識してみると、思わぬ見落としに気づけることがあります。
心当たりがある場合や届出の状況に不安がある場合は、年金事務所に早めに相談することをおすすめします。制度の仕組みを正しく理解しておけば、給与明細を見るたびに不安になることもなくなります。
8. よくある質問
8.1 Q. 2つの会社から厚生年金保険料が引かれているのは、二重払いですか。
A. 制度上正しい仕組みです。2社の報酬月額を合算した標準報酬月額をもとに保険料が計算され、それぞれの報酬額に応じて按分されます。
8.2 Q. この仕組みを適用してもらうには、何をすればよいですか。
A. 事実発生から10日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を日本年金機構へ提出する必要があります。
8.3 Q. 届出は会社がやってくれますか。
A. いいえ、被保険者本人が行う必要があります。会社側は自社の報酬額しか把握していないため、本人からの届出がないと合算・按分の計算が始まりません。
8.4 Q. 「主たる事業所」はどう選べばよいですか。
A. どちらの勤務先を選ぶかは本人の判断に委ねられていますが、健康保険証の発行元や手続きの窓口が変わるため、慎重に検討することをおすすめします。国・地方公共団体等の短時間勤務職員で共済組合制度対象の場合は、国等の事業所を選択する必要があります。
8.5 Q. 届出をせずに放置していると、どうなりますか。
A. それぞれの会社が自社の報酬額だけをもとに標準報酬月額を決定してしまい、本来の按分計算より多く保険料を負担している可能性があります。心当たりがある場合は、早めに年金事務所へ相談することをおすすめします。
8.6 Q. 「10日以内」という期限は、いつから数えますか。
A. 実際に2社目で社会保険の加入要件を満たした日(事実発生日)を起点に数えます。副業先での勤務条件が変わって新たに要件を満たした場合も、その時点から10日以内の届出が必要です。
8.7 Q. 選択事業所は、後から変更できますか。
A. 状況が変わり変更を検討したい場合は、年金事務所に相談すれば必要な手続きの案内を受けられます。自己判断で進めず、まずは窓口に確認することをおすすめします。
参考資料
齊藤 慧

