近年、シニア世代の就労意欲の高まりとともに、65歳以降も働き続ける方が急増しています。日本年金機構が公表した最新のデータによると、令和6年度末時点での「65歳以上の老齢厚生年金受給者(働きながら年金を受け取っている人)」は344万4000人にのぼり、前年度から21万5000人も増加していることがわかりました。この数字は4年前の令和2年度と比べると68万4000人も増えており、定年後も社会で活躍し続ける生き方が当たり前の時代になりつつあります。
筆者はファイナンシャルプランナーとして、これまで多くの方の家計相談やセカンドライフの資金計画に携わってきました。「定年後も働きたいけれど、完全に仕事を辞めたときに年金はどうなるの?」「働き損にならないか心配」といったご相談を本当によくお受けします。
実は、働きながら厚生年金に加入して老齢厚生年金(会社員などが受け取る年金)を受け取っていた方が退職すると、年金額が計算し直されて増額される仕組みがあります。これを「退職改定」と呼びます。この記事では、最新の就労データも踏まえつつ、退職の前後で年金がどのように変わり、家計にどんな影響を与えるのかを3つのポイントに絞って分かりやすく解説していきます。
1. 65歳以上「働きながら年金をもらう人」344万人超→1年で「21万人」増加
年金を受け取りながら働く人は増えています。令和6年度末の在職者に係る老齢給付の受給状況は、次のとおりです。
- 老齢給付の受給者数:415万9000人(前年度比11万9000人増)
- うち65歳以上の老齢厚生年金受給者:344万4000人(前年度比21万5000人増、6.7%増)
65歳以上の老齢厚生年金受給者数の推移を見ると、
- 令和2年度:276万人
- 令和3年度:285万3000人
- 令和4年度:306万8000人
- 令和5年度:322万9000人
- 令和6年度:344万4000人
となっており、4年間で68万4000人増加しています。なお、この資料でいう「在職者」には、厚生年金保険の被保険者のほか、適用事業所で働く70歳以上の人なども含まれます。
また、在職老齢年金による年金の支給停止対象ではない人も、この数字に含まれています。これほど多くの方が65歳以降も働き続けている現在、退職したあとにご自身の年金がどう計算し直されるのかを知っておくことは、すべてのシニア世代にとって必須の知識といえるでしょう。
2. 退職後の年金見直し「退職改定」とは?いつから増える?
働きながら厚生年金に加入し、老齢厚生年金を受け取っている70歳未満の方が退職した場合、それまで働きながら納めてきた厚生年金保険料が年金額に反映され、受給額が再計算されます。
これが「退職改定」と呼ばれる仕組みです。まず、いつ見直されるのかを確認します。
2.1 1か月を経過したときが起点
日本年金機構は、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている70歳未満の方が退職して1か月を経過したときに、退職した翌月分の年金額から見直されるとしています。
退職日から1か月が経つのを待って手続きが進みます。辞めた月からすぐに増えるわけではなく、実際に振込額が変わるまでには少し間があきます。
2.2 反映されていない期間が足される
再計算では、年金額に反映されていない退職までの厚生年金に加入していた期間を追加して計算し直します。
65歳以降も働いていた方は、在職定時改定によって毎年1回は反映されています。それでも直前の期間は反映されないまま残るため、退職のタイミングでまとめて足される形になります。
3. 要注意!「1か月以内の再就職」ではすぐに見直されない
ここが見落とされやすい部分です。
3.1 転職の場合は対象にならない
日本年金機構は、退職して1か月以内に再就職し、厚生年金に加入したときは年金額の再計算は行われないとしています。転職などがこれにあたります。
同じ「退職」でも、そのあと厚生年金のある職場へすぐ移ったかどうかで結論が変わります。空白なく次の勤め先に入った場合、年金額はそのままです。
3.2 それでも次の機会はある
再就職して厚生年金に加入し続けている場合は、65歳以上70歳未満であれば在職定時改定の対象になります。9月1日を基準日として、翌月の10月分の年金額から見直される仕組みです。
退職改定の対象にならなくても、働き続けているかぎり年に1回は反映される機会があるということです。
4. 退職すると年金が増える?「支給停止」解除のインパクト
増える理由は2つあります。
4.1 支給停止がなくなる
日本年金機構は、退職改定について、年金額の一部または全部支給停止がなくなり全額支給されるとしています。
在職老齢年金では、基本月額と総報酬月額相当額の合計が令和8年度の支給停止調整額である65万円を超えると、超えた分の2分の1が差し引かれます。退職して給与がなくなれば、この判定そのものがなくなります。
4.2 2つの効果が重なる
退職までの加入期間が年金額に足されること、そして支給停止が解除されること。この2つが同時に起きるため、退職後の振込額は思っていたより変わることがあります。
働いていた間の振込額を基準に退職後の家計を考えていると、見込みがずれます。
ライフプランを引き直すなら、退職後の振込額が確定してからが確実です。止まっていた分は戻りますが、給与がなくなる影響のほうがずっと大きいためです。
