各地で相次ぐ台風や大雨による災害で被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

本格的な台風シーズンを迎え、9月1日の「防災の日」をきっかけに自宅の備えを見直す時期になりました。

しかし、長引く物価高のなか、シニア世代の防災対策には見過ごせない「家計の壁」が生じています。年金生活者の厳しい実態と、自己負担を抑えながら安全を確保する具体的な知恵を、各種データから紐解きます。

ココがポイント
  • 高齢者の8割が「在宅避難」を望む一方、シニア世代の54.4%が「避難所の暑さ」に不安を抱えている

  • 高齢単身無職世帯は毎月2万9980円の赤字家計だが、台風の備蓄に必要な初期費用は1万3000円にのぼる

  • 備蓄に「十分自信がある」高齢者はわずか4.6%だが、簡易トイレ購入費を最大1万5000円まで補助する自治体もある

1. 避難所の「暑さ」に不安の声。高齢者の8割が「在宅避難」を望む理由

大型台風や災害が発生した際、多くの人が地域の避難所への避難を思い浮かべます。しかし、近年の酷暑や、避難所という密閉空間を想像したとき、シニア世代の本音は少し違うようです。

セキュリティ会社のセコム株式会社が実施した「防災に関する意識調査」(2026年8月公表)によると、安全が確保されている前提で最も過ごしたい避難生活の場所として、全体の64.8%が「自宅(在宅避難)」を選択しました。年代別に見ると、20〜30歳代が50%台にとどまったのに対し、60歳代では79.0%と、実に約8割が「在宅避難」を望んでいることが分かりました。

自宅を選ぶ理由としては「慣れた環境で過ごしたい(67.6%)」「プライバシーを確保したい(61.7%)」に加え、「移動による体力的な消耗を避けたい(29.6%)」というシニア世代ならではの声も目立ちます。

加えてもう一つ、避難所を避けたい理由として無視できないのが「暑さ」です。安全用品メーカーのミドリ安全株式会社が公表した「世代別防災意識調査 2026」(2026年8月公表)では、避難所をためらう理由として「夏の暑さ・冷房がないことへの不安」が44.6%で全体2位にランクイン。シニア世代に限るとこの不安は54.4%と過半数に達しました。

実際、文部科学省の調査(令和8年5月1日現在)によると、災害時に避難所となる公立小中学校の体育館等のうち、冷房(空調)が設置されているのは33.1%にとどまっています。

在宅避難を希望する割合と避難所の「暑さ」への不安1/3

在宅避難を希望する割合と避難所の「暑さ」への不安

出所:セコム株式会社「防災に関する意識調査(2026年)」、ミドリ安全株式会社「世代別防災意識調査2026」を基にLIMO編集部作成

  • 在宅避難を希望する割合:全体64.8%、60歳代79.0%
  • 避難所の「暑さ・冷房不足」に不安を感じる割合:全体44.6%、シニア世代54.4%

冷房が十分に整っていない体育館などでの避難生活は、熱中症リスクの高い高齢者にとって身体的にも過酷になりかねません。多くのシニアが「台風や停電が来ても、なんとか自宅でしのぎたい」と考えるのは、自然な選択と言えるでしょう。

1.1 在宅避難の絶対条件:自宅はハザードマップ上、安全ですか?

ただし、在宅避難は誰にでも当てはまる選択肢ではありません。

絶対的な大前提は「自宅が浸水想定区域や土砂災害警戒区域に入っていないこと」です。

もし自宅がハザードマップ上で危険とされている場合は、住み慣れた自宅であっても、暴風雨が激しくなる前にためらわず指定避難所や親族宅などへ避難する必要があります。まずハザードマップで自宅の災害リスクを確認することが、命を守る防災の第一歩です。

2. 年金家計を圧迫する「防災コスト」

自宅の安全が確認でき、在宅避難を選べるとしても、次に立ちはだかるのが「経済的な壁」です。セコムの同調査では、在宅避難を希望しながらも自宅の備えに「課題がある(していない・分からない)」と答えた人が約3割(30.4%)にのぼりました。

サントリービバレッジ&フード株式会社の「災害時の避難生活に関する実態調査」(2026年8月公表)でも、在宅避難を希望する人のうち「備えに十分自信がある」と答えたシニアはわずか4.6%にとどまっています。

備えが進まない理由として最も多く挙がったのは「保管場所(スペース)がない(28.1%)」、次いで「全部揃えようとするとお金がかかる(26.3%)」でした。

この「コストの壁」は、実際の年金生活者の家計と照らすとより深刻に見えてきます。総務省統計局の最新の家計調査(2025年平均)によると、65歳以上の無職世帯の家計収支は次の通りです。

65歳以上無職世帯の家計収支(月額)2/3

65歳以上無職世帯の家計収支(月額)

出所:総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」をもとにLIMO編集部作成

  • 高齢夫婦無職世帯:実収入25万4395円、消費支出26万3979円、非消費支出3万2850円で毎月4万2434円の赤字
  • 高齢単身無職世帯:実収入13万1456円、消費支出14万8445円、非消費支出1万2990円で毎月2万9980円の赤字

ただでさえ毎月3万〜4万円を貯蓄から取り崩している家計に、近年の食品・電気代などの物価高がさらに追い打ちをかけています。内閣府の調査(令和5年度)でも、災害に備えて非常食や避難用品を準備していると答えた高齢者は全体で34.3%にとどまり、単身高齢者や低所得世帯ほど「特に何もしていない」割合が高い傾向が示されています。

2.1 【独自試算】台風対策に最低限必要な備蓄費用は

では、在宅避難に備えて防災グッズを新規に一式揃えると、どの程度の費用がかかるのでしょうか。LIMO編集部で、最低限用意しておきたい5つのアイテムの購入費用を独自に試算しました。

台風対策5点セットの費用内訳(LIMO編集部試算)3/3

台風対策5点セットの費用内訳(LIMO編集部試算)

出所:LIMO編集部独自試算(2026年8月時点の一般的な通販価格帯を基に算出)

  • 飲料水(500ml×24本、3日分目安):約2000円
  • 簡易トイレ(30回分):約3000円
  • LEDランタン(1台):約2500円
  • モバイルバッテリー(1台):約3000円
  • 窓ガラス飛散防止フィルム・養生テープ:約2500円
  • 5点の合計:約1万3000円

この「最低限の備えだけで約1万3000円」という金額は、毎月3万〜4万円を貯蓄から取り崩しながら暮らす高齢世帯にとって、決して軽い出費ではありません。

ただでさえ余裕のない家計にとって、まとまった初期費用の負担感は大きく、こうした出費のハードルが、シニア世帯の防災対策を足踏みさせる一因になっていると考えられます。だからこそ、後述する自治体の補助制度や身近な工夫を上手に活用しながら、無理のない範囲で備えを整えていくことが大切です。

3. 筆者からのコメント

熊谷 良子

ここまで、シニア世代の「在宅避難」への切実な希望と、それを阻む家計の厳しさを見てきました。

実はもう一つ、見落とされがちなデータがあります。日本トイレ協会の調査(2025年)によると、災害用の簡易トイレを自宅に備蓄している家庭は全国で28.8%にとどまります。2016年の熊本地震でも、避難生活で「困ったこと」の第2位はトイレ(62%)で、仮設トイレが行き渡るまで4日以上を要した避難所が66%にのぼったと報告されています。

断水はすぐに家庭のトイレを使えなくします。備蓄というと食料や水に意識が向きがちですが、高齢者にとっては夜間のトイレ移動そのものが負担になりやすく、簡易トイレの確保は水や食料と同じかそれ以上に優先度の高い課題だといえるでしょう。

次のページでは、この簡易トイレの購入費まで補助してくれる、知っておきたい自治体の支援制度をご紹介します。