「厚生年金の方が国民年金より受給額が多い」ということは、なんとなく知られています。しかし、具体的にいくら違うのか、そしてその差がどんな要素で決まるのかまで正確に把握している人は、意外と多くありません。
特に見落とされがちなのが、厚生年金だけに存在する「配偶者がいることによる上乗せ」の仕組みです。この記事では、平均受給額の違いを確認したうえで、この上乗せの中身と、いつまでも続くわけではないという注意点を編集部で整理します。
なお、厚生年金の受給額の実態に関する詳しい説明は、下記の記事より一部を引用・参照しています。
- 老齢基礎年金の満額(令和8年度)は月7万608円、厚生年金の平均受給月額は15万289円です。
- 厚生年金には、被保険者期間20年以上で配偶者がいる場合に加算される「加給年金」という、国民年金にはない上乗せ制度があります。
- 加給年金は配偶者が65歳になると打ち切られ、世代によっては振替加算による補填もありません。
1. 平均額で比べると、厚生年金は国民年金のおよそ2倍
まず、公表されている平均受給額から、両者の差を確認します。
1.1 老齢基礎年金の満額は月7万608円
日本年金機構の公表資料によると、老齢基礎年金の令和8年度の満額は月7万608円です。これは20歳から60歳までの40年間、保険料を満額納めた場合の金額で、国民年金だけに加入していた人が受け取る年金の目安になります。
この満額は、あくまで40年間すべて保険料を納めた場合の金額です。学生時代の納付猶予や、収入が少ない時期の免除期間があると、その分年金額は比例して減ります。自営業者やフリーランスとして働いてきた人は、この満額を基準に、自分の実際の納付状況がどの程度に当たるかを把握しておくことが大切です。
1.2 厚生年金の平均受給月額は15万289円、男女差も大きい
これに対し、厚生年金の受給者が受け取る平均受給月額(老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計)は、全体で15万289円です。男女別に見ると、男性は16万9967円、女性は11万1413円と、現役時代の加入期間や標準報酬月額の違いが、そのまま受給額の差として表れています。
この男女差が生まれる背景には、勤続年数の長さや、産休・育休、非正規雇用といった働き方の違いが、標準報酬月額や厚生年金の加入期間に反映されていることがあります。同じ「厚生年金加入者」というくくりでも、現役時代の働き方によって受給額の幅は大きく変わります。
この平均額は、あくまで現在の受給者全体をならした数字です。これから受給を迎える世代は、現役時代の標準報酬月額や加入期間の記録次第で、平均を上回ることも下回ることもあります。自分の見込み額を知りたい場合は、平均値だけを見るのではなく、ねんきん定期便などで個別の記録を確認する必要があります。
2. 平均額だけでは見えない、厚生年金だけの上乗せ「加給年金」
受給額の違いは、平均値の差だけでは語れません。厚生年金には、家族構成によって上乗せされる、国民年金にはない制度があります。
2.1 配偶者がいると、年最大42万3700円が上乗せされる
日本年金機構の資料によると、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人が、生計を維持している配偶者や子を持つ場合、老齢厚生年金に「加給年金額」が加算されます。令和8年4月からの金額は、配偶者について基本額24万3800円に、受給者の生年月日に応じた特別加算(3万6000円〜17万9900円)が上乗せされます。特別加算が上限まで付く場合、配偶者分だけで合計は年42万3700円です。
特別加算の金額は、年金を受け取る本人の生年月日によって段階的に決まります。生年月日が若いほど特別加算が高くなる設計のため、同じ配偶者ありという条件でも、本人の年代によって加給年金の総額は変わってきます。自分がどの区分に当てはまるかは、年金事務所や日本年金機構の資料で確認できます。
2.2 条件は被保険者期間20年以上、国民年金にはこの仕組みがない
加給年金額が付くための基本条件は、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上あることです。この制度は厚生年金保険法に基づく仕組みであり、国民年金だけに加入している人には、これに相当する上乗せ制度はありません。同じ「配偶者がいる世帯」でも、厚生年金加入者かどうかで、受け取れる年金の中身が変わってきます。
子についても、18歳到達年度の末日までの子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子であれば加算対象となります。金額は1人目・2人目の子であれば配偶者と同じ基本額が加算されますが、3人目以降は減額されます。また、配偶者加算のような特別加算は子には上乗せされません。
配偶者と子の両方が対象になる場合は、それぞれの加算額が合算されます。子育て世帯で厚生年金の被保険者期間が長い人ほど、老後の受給額に占める加給年金の割合が大きくなる可能性がある、というのがこの制度の実像です。
3. 【編集者の視点】
実務上のポイントは、加給年金の対象になるかどうかは、本人の加入期間だけでなく、配偶者の年齢や収入状況にも左右されるという点です。生計を維持されている配偶者であることが条件のため、配偶者に一定以上の収入がある場合は対象外になることもあります。
老後の家計を考える際は、平均受給額の比較だけでなく、自分が加給年金の対象になり得るかどうかを、早めに確認しておく価値があります。
また、加給年金は自動的に支給が始まるわけではなく、所定の届出が必要になる場合があります。65歳で老齢厚生年金の受給が始まるタイミングで、自分に加給年金の対象となる配偶者や子がいる場合は、手続きの要否を年金事務所に確認しておくと安心です。
4. 編集部試算:加給年金を含めると、月々の差はどこまで広がるか
加給年金は年単位の金額で示されることが多いため、月額に換算して、平均受給額との比較で確認します。
4.1 年42万3700円は、月額に直すと約3万5308円
加給年金の配偶者分(上限額)年42万3700円を12か月で割ると、月額に直しておよそ3万5308円です。これを厚生年金の平均受給月額15万289円に単純に上乗せすると、月額はおよそ18万5597円になります。国民年金だけの老齢基礎年金満額(月7万608円)と比べると、差は月11万5000円近くに広がる計算です。
もちろん、この試算は加給年金が上限額まで付く場合の一例にすぎません。特別加算の金額は本人の生年月日によって変わるため、実際の上乗せ額は人によって幅があります。それでも、平均受給額の比較だけでは見えない差が、家族構成によって生まれ得るという点は押さえておく価値があります。
4.2 【年金の内訳別・月額の目安】
前提条件:老齢基礎年金満額(令和8年度)・厚生年金平均受給月額・加給年金(配偶者・上限額)をもとに、月額換算で編集部が試算1/1
出所:日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」、厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」などを基にLIMO編集部作成
- 老齢基礎年金のみ(満額):7万608円
- 厚生年金(平均受給月額):15万289円
- 厚生年金(平均)+加給年金(配偶者・上限額を月換算):約18万5597円
5. 【編集者の視点】
加給年金の月額換算は、あくまで年額を12で割った目安であり、実際の支給は年金支給のタイミングでまとめて行われます。家計の月々の見通しを立てる際は、実際の支給サイクルも踏まえて考える必要があります。
6. 加給年金は一生続くとは限らない、という落とし穴
大きな上乗せに見える加給年金ですが、この加算には終わりがあります。ここを見落とすと、老後の家計計画が崩れかねません。
6.1 配偶者が65歳になると、加給年金は打ち切られる
日本年金機構の資料によると、加給年金額の対象になっている配偶者が65歳になると、それまで支給されていた加給年金額は打ち切られます。配偶者自身が65歳になれば、配偶者本人の老齢基礎年金の受給が始まるため、役割が切り替わるという考え方です。
この切り替わりは自動的に処理されますが、家計にとっては、それまで加給年金分として見込んでいた収入が、ある時点で突然無くなることを意味します。配偶者の誕生日が近づいたら、加給年金がいつまで続くのかを逆算しておくと、家計の見通しが立てやすくなります。
6.2 振替加算での補填は、昭和41年4月2日以降生まれの配偶者にはない
加給年金が打ち切られる代わりに、条件を満たせば配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」が上乗せされる仕組みがあります。しかし振替加算の金額は配偶者の生年月日が若いほど少なくなり、昭和41年4月2日以後生まれの配偶者はゼロになります。つまり、現役世代に近い年齢の配偶者を持つ場合、加給年金が打ち切られた後の補填は基本的に期待できません。
振替加算がゼロになる世代が生まれた背景には、昭和61年の基礎年金制度導入時、それ以前は任意加入だった被用者の配偶者も国民年金に加入することになった経緯があります。当時すでに年齢を重ねていた配偶者は、40年の満額加入期間を確保できないため、振替加算という経過措置で不足分を補う仕組みが設けられました。制度が定着した後の若い世代には、そもそもこの経過措置自体が不要という位置づけです。
加給年金から振替加算への切り替わり
| タイミング | 年金額の変化 |
|---|---|
| 配偶者が65歳未満の間 | 加給年金額(配偶者分)が上乗せされる |
| 配偶者が65歳に到達 | 加給年金額は打ち切り |
| 配偶者が昭和41年4月2日以後生まれの場合 | 振替加算はゼロ、補填なし |
出所:日本年金機構「加給年金額と振替加算」などを基にLIMO編集部作成
6.3 【加給年金から振替加算への切り替わり】
- 配偶者が65歳未満の間:加給年金額(配偶者分)が上乗せされる
- 配偶者が65歳に到達:加給年金額は打ち切り
- 配偶者が昭和41年4月2日以後生まれの場合:振替加算はゼロ、補填なし
※本記事は、編集部が日本年金機構が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
7. 自分の受給額を確認する方法
最後に、自分の将来の受給額や加給年金の対象になるかどうかを確認する方法を整理します。
7.1 ねんきん定期便・ねんきんネットで見込み額を確認する
50歳以上の人に届く「ねんきん定期便」には、現在の加入状況をもとにした年金見込み額が記載されています。「ねんきんネット」でも、より詳細なシミュレーションが可能です。
ただし、50歳未満の人に届くねんきん定期便には、これまでの加入実績に応じた年金額のみが記載されており、将来の見込み額とは性質が異なります。年齢によって記載内容が変わる点は、確認する際に押さえておくとよいでしょう。
7.2 加給年金の対象かどうかは、年金事務所での確認が確実
加給年金は、本人の被保険者期間だけでなく、配偶者の年齢や収入状況によっても対象かどうかが変わります。自分のケースが対象になるかどうか判断が難しい場合は、年金事務所に相談することをおすすめします。
特に、配偶者との年齢差が大きい世帯や、配偶者の生年月日が振替加算の対象範囲の境目に近い世帯は、加給年金と振替加算のどちらがどれだけ受け取れるのか、個別に確認しておく価値が大きいと言えます。
相談する際は、本人と配偶者それぞれの基礎年金番号や生年月日が分かる書類を手元に用意しておくと、確認がスムーズに進みます。年に一度は加入記録とあわせて見直しておく習慣をつけておくと、老後の家計をより正確に見通せます。
8. まとめ
- 老齢基礎年金の満額(令和8年度)は月7万608円、厚生年金の平均受給月額は15万289円です。
- 厚生年金には、被保険者期間20年以上で配偶者がいる場合に加算される「加給年金」という、国民年金にはない上乗せ制度があります。
- 加給年金(配偶者分)は令和8年4月から最大年42万3700円、月額に換算するとおよそ3万5308円です。
- 加給年金は配偶者が65歳になると打ち切られ、昭和41年4月2日以後生まれの配偶者には振替加算による補填もありません。
- 自分の受給見込み額や加給年金の対象可否は、ねんきんネットや年金事務所で確認できます。
厚生年金と国民年金の受給額の差は、平均値の比較だけでは全体像がつかめません。加給年金のように家族構成で変わる上乗せがある一方で、その上乗せには終わりがあるという点まで押さえておくことが、老後の家計を正確に見通す第一歩になります。
自分の将来の受給額を具体的に知りたい場合は、ねんきん定期便やねんきんネットで確認するか、年金事務所に相談することをおすすめします。
9. よくある質問
9.1 Q. 厚生年金は国民年金の何倍くらいもらえますか。
A. 平均値で見ると、老齢基礎年金の満額は月7万608円、厚生年金の平均受給月額は15万289円で、およそ2倍です。ただしこれは平均であり、現役時代の加入期間や標準報酬月額によって大きく変わります。
9.2 Q. 加給年金は誰でももらえますか。
A. 厚生年金保険の被保険者期間が20年以上あり、生計を維持している配偶者や子がいる場合に加算されます。国民年金だけに加入している人には、この制度はありません。
9.3 Q. 加給年金は一生続きますか。
A. 続きません。加給年金額の対象になっている配偶者が65歳になると打ち切られます。世代によっては、その後の振替加算による補填もありません。
9.4 Q. 自分が加給年金の対象になるか、どこで確認できますか。
A. 本人の加入期間だけでなく配偶者の年齢・収入状況にも左右されるため、年金事務所での確認が確実です。ねんきんネットでも一定の情報を確認できます。
参考資料
齊藤 慧

