配当を受け取りながら暮らしている世帯にとって、「配当を確定申告すると、住民税非課税の判定にどう影響するのか」は見落としやすい論点です。「配当金生活」で検索すると、「申告不要を選んでおけば非課税は守れる」という説明が数多く見つかります。

ただしこの説明は、令和8年の今、実際の制度と噛み合わなくなっている部分があります。住民税の非課税判定は、前年の所得水準に基づいて機械的に行われる仕組みで、所得の申告方法による影響は誰にでも共通して適用されます。

令和7年分から所得税の基礎控除が引き上げられ、令和8年8月には高額療養費の自己負担限度額も変わりました。申告するかしないかで手取りと医療費の上限がどう動くのか、編集部の試算で具体的に確かめます。

なお、住民税非課税世帯の収入基準に関する詳しい説明は、下記の記事より一部を引用・参照しています。

 【住民税非課税世帯】給与・年金の収入基準《ボーダーラインはいくら?》知っておきたい5つの優遇制度!制度の基本とファクトを網羅した完全ガイド
【住民税非課税世帯】給与・年金の収入基準《ボーダーラインはいくら?》知っておきたい5つの優遇制度!制度の基本とファクトを網羅した完全ガイド
ココがポイント
  • 単身世帯が住民税非課税を保てる基準は合計所得金額45万円以下で、令和8年度から給与収入なら110万円以下に相当します。
  • 配当控除をあてにして確定申告しても、もともと所得税額が生じていない非課税世帯では控除が空振りに終わります。
  • 合計所得金額が45万円をわずかに超えると、令和8年8月から始まった高額療養費の年間上限が29万円から53万円へ移ります。

1. 「配当金生活」と住民税非課税世帯、判定のしくみを整理する

はじめに、住民税が非課税になる所得の基準と、配当所得がその基準にどう関わるのかを押さえます。ここが曖昧なままだと、後半の試算の意味がつかめません。

1.1 単身は合計所得金額45万円以下、令和8年度は給与なら110万円

住民税が非課税になる基準は、単身者の場合、前年の合計所得金額が45万円以下です。扶養親族や同一生計配偶者がいる世帯では「35万円×人数+10万円+21万円」以下という式で計算します。

注意したいのは、この45万円という所得ベースの基準は据え置かれている一方で、給与収入に換算した基準額が令和8年度から動いた点です。港区の説明では、令和7年度までの100万円以下から、令和8年度は110万円以下に変わっています。

齊藤 慧
去年まで「100万円」と覚えていた方は、今年の数字を見て一瞬戸惑うかもしれません。基準そのものが緩くなったわけではなく、控除の側が静かに動いた結果です。制度は毎年少しずつ形を変えていて、数字だけを暗記していると、いつの間にか足元をすくわれてしまいます。1年前の知識をそのまま今年に当てはめない、という姿勢を大事にしたいところです。

1.2 配当は「申告不要」を選べば、合計所得金額に入らない

上場株式等の配当所得は、特定口座(源泉徴収あり)などで源泉徴収だけを済ませる「申告不要」を選べます。この場合、配当は住民税の合計所得金額に算入されません。

つまり申告不要を選び続けている限り、配当額がどれだけ大きくても、その配当だけを理由に非課税から外れることはありません。話が動き出すのは、自分の意思でこの申告不要を外したときです。

2. 令和6年度に消えた「住民税だけ申告不要」という選択肢

ここからが、多くの「配当金生活」の解説が触れていない部分です。令和6年度に、申告の仕方そのものを制限する改正が行われました。

2.1 令和5年度以前は、所得税と住民税で別々に選べた

令和5年度以前は、所得税では確定申告をして配当控除を受けつつ、住民税だけは申告不要にする、という別々の選択ができました。住民税の非課税判定に配当を含めずに済ませる余地があったわけです。

2.2 令和6年度からは、所得税で選んだ方式に住民税もそろう

横浜市の説明では、令和6年度(令和5年分)から所得税と市民税・県民税の課税方式を一致させることとなり、異なる課税方式を選択することはできなくなりました。

所得税で申告不要を選べば住民税も申告不要、所得税で総合課税や分離課税として確定申告すれば住民税でも同じ扱いになります。住民税だけを切り離して守る手段は、すでに残っていません。

2.3 【課税方式の一致化・前後の比較】

前提条件:上場株式等の配当所得等に係る課税方式の取り扱い(横浜市の公表情報に基づく整理・令和8年8月時点)1/2

前提条件:上場株式等の配当所得等に係る課税方式の取り扱い(横浜市の公表情報に基づく整理・令和8年8月時点)

出所:横浜市「上場株式等の配当等所得及び譲渡所得等の申告方法について」などを基にLIMO編集部作成

令和5年度以前

  • 令和5年度・総合課税で確定申告:住民税だけ別に申告不要を選べた
  • 令和5年度・申告不要を選択:住民税でも所得に算入されない

令和6年度以降

  • 令和6年度・総合課税で確定申告:住民税でも所得に算入される
  • 令和6年度・申告不要を選択:住民税でも所得に算入されない

3. 【編集者の視点】

この一致化でいちばん困るのは、実は税に詳しかった層だと考えています。かつての「所得税は申告、住民税は申告不要」という組み合わせを手順として覚えている人ほど、同じ感覚で申告書を出してしまうからです。

影響は住民税だけにとどまりません。横浜市は、申告不要以外を選んだ場合、扶養控除や配偶者控除の適用、非課税判定に加えて、国民健康保険・後期高齢者医療などの保険給付や公営住宅家賃の算定にも算入されるとしています。

確定申告の方式を変える前に、扶養親族の有無や加入している医療保険の種類を書き出し、税務窓口へ相談すれば判定への影響を確認できます。

4. 配当控除めあての確定申告が、非課税世帯では空振りになる理由

「配当控除が受けられるから確定申告した方がよい」という説明は広く出回っています。ところがこの説明は、住民税非課税世帯の読者にはそのまま当てはまりません。

4.1 配当控除は税額控除、もとの税額がなければ引きようがない

配当控除は、課税総所得金額等が1000万円以下の部分について、剰余金の配当等に係る配当所得の金額に所得税10%を掛けた額を差し引く仕組みです。住民税側でも、市町村民税1.6%と道府県民税1.2%を合わせた2.8%の控除があります。

ただしこれは税額から差し引く控除です。もともと納めるべき所得税額が生じていなければ、控除率の大きさだけを見て判断すると、この点を見落とします。

4.2 令和7年分から、基礎控除は95万円に引き上げられた

国税庁の説明では、所得税の基礎控除は令和7年分・令和8年分について、合計所得金額132万円以下の人は95万円とされています。令和6年分以前の48万円から大きく上がりました。

配当以外に所得がなく、配当所得が45万円という水準であれば、基礎控除95万円の範囲に収まります。課税所得は生じず、所得税額もゼロです。配当控除を使う場面自体が訪れません。

齊藤 慧
配当控除という言葉の響きは、たしかに魅力的に映ります。「控除」と聞くだけで得をした気分になりやすいものです。ただ制度の側から冷静に眺めると、これはあくまで税金を納めている人のための仕組みで、納める税額がない人には出番が回ってきません。自分がその制度の対象に本当に入っているのかを先に確かめるだけで、判断の順番が整理されます。

5. 編集部試算:申告方式によって、手取りと非課税判定はどう変わるか

では、申告するかどうかで実際の数字はどう変わるのか、一つの前提を置いて編集部で試算します。

5.1 申告不要と総合課税で、手取りを並べてみる

単身世帯で配当以外に所得がなく、特定口座(源泉徴収あり)で上場株式の配当を年45万円受け取っていると仮定します。源泉徴収の税率は所得税および復興特別所得税15.315%と地方税5%の合計20.315%です。

申告不要のままなら、45万円から9万1417円が差し引かれて終わります。一方、総合課税で確定申告した場合、基礎控除95万円により所得税額はゼロとなり、源泉徴収された所得税分6万8917円は納めすぎとして戻る計算になります。

住民税側も、合計所得金額は45万円ちょうどで非課税の基準以下に収まります。特別徴収済みの配当割額2万2500円も住民税額から控除される対象で、この水準では申告した方が有利になり、しかも非課税も維持できます。

5.2 【配当45万円・申告方式別の比較】

前提条件:単身世帯・配当以外の所得なし・特定口座(源泉徴収あり)・課税総所得金額等1000万円以下・令和8年8月時点の税率と控除による編集部試算2/2

前提条件:単身世帯・配当以外の所得なし・特定口座(源泉徴収あり)・課税総所得金額等1000万円以下・令和8年8月時点の税率と控除による編集部試算

出所:国税庁「No.1199 基礎控除」国税庁「No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)」などを基にLIMO編集部作成

申告不要のままにした場合

  • 差し引かれる額:9万1417円(源泉徴収されて確定)
  • 非課税判定:配当は算入されず非課税を維持

総合課税で確定申告した場合

  • 配当45万円:所得税分6万8917円が戻る計算、合計所得45万円で非課税を維持
  • 配当46万円:所得税分7万449円が戻る計算、合計所得46万円で非課税から外れる
齊藤 慧
45万円と46万円。たった1万円の違いで、非課税を維持できるかどうかという結論そのものがひっくり返ります。この境目は制度を知らなければ気づきようがなく、知っていたとしても毎年の配当額を確定させるまでは自分がどちら側にいるか分かりません。ちょうどこのあたりに立っている方こそ、一度立ち止まって数字を確かめる価値があると思います。

6. 【編集者の視点】

この試算で強調したいのは、非課税世帯にとって「申告不要が常に安全」とは限らないという点です。配当額が基準の内側に収まっているうちは、申告して源泉徴収分を取り戻す選択が現実的な候補になります。

ただし、この判断は毎年やり直す必要があります。増配や買い増しで配当が積み上がれば、去年は内側だった人が今年は外側に出るからです。

複数の証券会社に口座を持っている場合、一部の口座の配当だけを確定申告に含めると、その分が合計所得金額に算入されます。各社の年間取引報告書を並べ、配当の合計額を確定させてから申告方式を決めてください。

7. 45万円を1万円超えたとき、令和8年8月の新限度額が効いてくる

非課税から外れると何を失うのか。ここは令和8年8月から数字が変わったばかりの領域で、昨年までの解説記事の金額はすでに古くなっています。

7.1 高額療養費の限度額は、今月から3万6900円と6万1500円に

70歳未満の高額療養費の自己負担限度額は、令和8年8月から令和9年7月までの区分で、住民税非課税の区分が月3万6900円とされています。その一つ上の区分は月6万1500円です。

非課税を維持できるかどうかで、医療費がかさんだ月の上限に2万4600円の差が生まれます。令和8年7月までは3万5400円と5万7600円でしたから、両方の区分とも引き上げられた形です。

7.2 新しく設けられた年間上限は、29万円と53万円

令和8年8月からは、月ごとの限度額に加えて年間上限額が新設されました。住民税非課税の区分は29万円、その一つ上の区分は53万円です。

大阪市の説明では、この年間上限は令和8年8月1日から令和9年7月31日までの1年間に受けた自己負担が対象で、支給申請は令和9年8月1日以降となります。つまり非課税かどうかで、1年間の医療費の天井が24万円分ずれることになります。

7.3 【非課税かどうかで変わる医療費の上限】

住民税非課税の区分

  • 月間の限度額:3万6900円
  • 年間上限額:29万円

一つ上の区分(標準報酬月額26万円以下)

  • 月間の限度額:6万1500円(標準報酬月額26万円以下の区分)
  • 年間上限額:53万円

8. 【編集者の視点】

配当を46万円に増やして確定申告した場合、戻ってくる所得税は7万449円という計算でした。これに対して、非課税から外れることで動く医療費の年間上限は29万円から53万円へ、24万円分の開きが生じます。

もちろん、大きな病気をしなければ上限まで使うことはありません。それでも年間上限という考え方が導入された趣旨は、長期の治療で負担が続く年に見通しを立てられるようにすることにあります。

加えて、協会けんぽは令和9年8月から所得区分がさらに細分化される予定だとしています。制度が動いている最中なので、今年の判断材料をそのまま来年に持ち越すことは避けたいところです。

配当額が基準の境目にある方は、申告方式を決める前に、加入している健康保険の窓口で自分がどの区分に当たるかを確認してください。

9. NISA口座の配当は、住民税の判定に影響しない

口座の種類でも、住民税の判定への影響が変わります。

9.1 NISA枠内の配当は、判定の外側にある

新NISAのつみたて投資枠・成長投資枠の中で得た配当は非課税で、確定申告の対象にもなりません。住民税の合計所得金額にも影響しないため、45万円の判定から切り離して考えられます。

非課税保有限度額は1800万円で、うち成長投資枠の上限は内数で1200万円です。年間投資枠はつみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円を併用できます。

9.2 枠を使い切った後の受け皿をどうするか

NISAの枠を超える部分は、特定口座(源泉徴収あり)で受け取ることになります。配当が45万円の内側に収まる年は、申告して源泉徴収分を取り戻す選択も検討できます。配当の合計額を確定させてから決める順番が大切です。

齊藤 慧
毎年、申告方式を決め直すというのは、正直なところ面倒に感じます。一度決めたらずっとそのままにしておきたい、というのが本音でしょう。それでも制度がこれだけ動いている以上、去年の正解をそのまま貼り付けて済ませるより、年に一度だけ立ち止まって確認する方が、結果的には穏やかに過ごせるはずです。小さな手間が、後の安心につながります。

※本記事は、編集部が国税庁・協会けんぽ・地方公共団体が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。

10. まとめ

  • 単身世帯が住民税非課税を保てる基準は合計所得金額45万円以下で、令和8年度から給与収入なら110万円以下に相当します。
  • 令和6年度から所得税と住民税で異なる課税方式を選べなくなり、住民税だけ申告不要にする手段はなくなりました。
  • 配当控除は税額控除のため、基礎控除95万円の範囲に収まる非課税世帯では使う場面が訪れません。
  • 配当45万円・他に所得なしの試算では、確定申告すると所得税分6万8917円が戻る計算になり、非課税も維持できます。
  • 合計所得金額が45万円を超えると、令和8年8月からの高額療養費の年間上限が29万円から53万円へ移ります。

配当所得と住民税非課税の判定は、「申告不要にしておけば安心」という単純な話ではなく、毎年の配当額に合わせて申告方式を確認する必要がある仕組みです。

年明けに届く年間取引報告書で配当の合計額を確定させ、45万円の内側か外側かを見極めてください。判断に迷う場合は、市区町村の税務窓口と健康保険の窓口に相談することをおすすめします。

11. よくある質問

11.1 Q. 住民税非課税世帯でも配当の確定申告をした方がよいのですか。

A. 配当以外に所得がなく、配当額が非課税の基準の内側に収まっている場合は、申告することで源泉徴収された所得税分が戻る計算になります。ただし基準を超えると非課税から外れるため、配当の合計額を確定させてから判断してください。

11.2 Q. 令和5年度以前のように、住民税だけ申告不要にすることはできますか。

A. できません。令和6年度から所得税と住民税の課税方式を一致させることとなり、異なる方式を選ぶことはできなくなりました。

11.3 Q. NISA口座の配当も45万円の判定に含まれますか。

A. NISAの非課税枠内で受け取る配当は非課税で確定申告の対象にもならないため、住民税の合計所得金額には影響しません。判定から切り離して考えられます。

11.4 Q. 高額療養費の限度額はいつ変わったのですか。

A. 70歳未満の限度額は令和8年8月から改定され、住民税非課税の区分は月3万6900円、年間上限額は29万円となりました。年間上限額はこのとき新設された仕組みです。

参考資料

齊藤 慧