社名を聞いて思い浮かぶのは、たぶん電線やケーブルの束ではないだろうか。私も長いあいだ、フジクラ(5803)を銅線とコネクタの会社として頭の引き出しに入れていた。ところが直近の決算を開くと、営業利益の8割を稼いでいたのは情報通信事業部門だった。株価は8月25日に前営業日から5.5%上昇し、5,292円で引けている。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
- 2026年3月期の営業利益1,887億円のうち1,527億円は情報通信事業部門。売上構成比は55.2%
- 株価は8月25日に前営業日から5.5%上昇の5,292円。直近時点のPERは26.88倍、PBRは14.4倍
- 2027年3月期の通期予想は営業利益4,320億円。期初に示していた2,110億円から倍増している
1. 電線の会社という看板と、実際の稼ぎ方が合っていない
フジクラは業種分類の上では非鉄金属に入る。銅を引き伸ばし、被覆をかけて売る会社。そう受け止めるのが自然な位置づけだ。
ところが2026年3月期の数字を事業ごとに割ると、その像はかなり崩れる。連結の営業利益1,887億円のうち、情報通信事業部門が1,527億円を占めていた。全体の8割である。
売上でも構成比55.2%と半分を超える。売上高は6,529億円。つまりこの会社は、規模でも利益でも情報通信が主役になっている。
もう一つ驚くのは利益率だ。情報通信事業部門の営業利益率は23.4%に達する。電線・ケーブルという言葉から連想されるのは、原材料の価格に利益が押しつぶされる薄利の商売だろう。実際の数字はその逆を向いている。
看板は電線、中身は通信インフラ。しかも中身のほうが圧倒的に利幅が厚い。この構造がどこから来て、いま何を生んでいるのかを、順に数字で確かめていく。
2. 5つの事業を並べると、利益はほとんど1本に寄っている
2026年3月期の報告セグメントを、売上の大きい順に並べてみる。
情報通信事業部門は売上高6,529億円、営業利益1,527億円。売上構成比55.2%、営業利益率23.4%。売上は前期比44.7%増、営業利益は65.7%増と、伸び方も他とは桁が違う。
次が自動車電装カンパニーで、売上高1,793億円、営業利益68億円。構成比15.2%に対し、営業利益率は3.8%にとどまる。
エレクトロニクス事業部門は売上高1,723億円、営業利益76億円。売上は前期比7.3%減、営業利益は66.5%減と、この期は逆風だった。営業利益率も4.5%である。
エネルギー事業部門は売上高1,569億円、営業利益189億円で、営業利益率12.1%。売上は8.1%増、営業利益は58.6%増と、こちらも伸びている。
最後に不動産事業部門。売上高110億円と規模は小さいが、営業利益49億円で営業利益率は44.9%。売上構成比1%に満たない事業が、自動車電装に近い利益を稼いでいる。
並べてみると、利益の集中の度合いがはっきりする。情報通信の1,527億円に対し、残る4部門の合計は382億円。差は4倍だ。
会社の説明によると、情報通信事業部門はデータセンタ向けの需要が伸びたことで大きく貢献した。一方、エレクトロニクス事業はサプライチェーンの問題と競争激化で減収減益、自動車事業は売価反映が進んで増収増益、エネルギー事業は高採算製品の出荷増と売価改善で増収増益だったとしている。
つまり、伸びた事業と沈んだ事業がはっきり分かれた期だった。多角化しているように見えて、業績を動かしているレバーは実質1本に近い。
資源の配り方にも同じ偏りが出ている。情報通信事業部門の設備投資は182億円で、5つの部門の中で最も大きい。減価償却費も112億円と最も重い。稼ぐ場所へ集中的に投じているという意思が、金額の並びに素直に出ている。
3. 直近1カ月で下値から6割上げ、PBRは14.4倍
株価の動きも、この構造の変化を映している。
直近1カ月をたどると、7月27日の終値4,325円から7月30日の3,720円まで下押しし、そこから水準を切り上げた。8月7日に5,185円、8月10日に5,580円と上げ、8月17日には6,078円をつけた。ここが直近1カ月でもっとも高い終値である。
その後は上げ幅を吐き出し、8月19日に5,328円、8月24日に5,016円まで戻された。そして8月25日は5,292円。前営業日から276円、率にして5.5%の上昇となった。
下値3,720円から高値6,078円までの上昇率は6割を超える。1カ月前の4,325円と比べても2割強の上昇で、値動きの荒さは相当なものだ。
直近時点のPER(株価収益率)は26.88倍、PBR(株価純資産倍率)は14.4倍。非鉄金属という業種に置かれる銘柄としては、かなり離れた水準である。
ただ、こちらにも根拠はある。2026年3月期のROE(自己資本利益率)は32.5%で、非鉄金属27社の中央値9.0%の3倍を超える。連結の営業利益率16.0%も、業種の中央値6.5%を大きく上回る。自己資本比率は57.8%で、中央値53.3%より高い。
稼ぐ力が業種の平均像から離れているのなら、値段のほうも離れる。株価は電線の会社にではなく、通信インフラを供給する会社に付けられていると考えるほうが、この水準は理解しやすい。
4. 筆者コメント
印象的なのは、この会社が「変わった」のではなく「見え方が追いついていない」ように思えることだ。
光ファイバもケーブルである。細いガラスを樹脂でくるみ、束ねて敷設する。工程の骨格は銅線の時代と地続きだ。売っているものが情報の通り道に変わっただけで、会社は同じ設備と同じ職人技を使い続けている。
にもかかわらず、利幅は別物になった。運ぶ中身が電気から情報へ移った瞬間に、値段の決まり方が変わったからだ。銅は相場で決まるが、データセンタに間に合う納期と品質は相場では決まらない。
だからこそ私は、この会社を業種名で分類することの危うさを感じる。非鉄金属の棚に置いたまま銅価格を追っていると、利益がどこから来ているのかを見落とす。
看板と中身がずれている会社は、たいてい株価の説明もつきにくい。ずれを感じたときは、まず事業別の数字に降りてみる。それが一番早い道だと思う。

