退職金や長年の貯蓄など、まとまった資金を手にしたタイミングで「新NISA」を始めるシニア世代が増えています。非課税保有期間が無期限になり、生涯にわたって非課税で資産形成を続けられる新NISAは、老後の資産運用とも相性の良い制度です。

一方で、まとまった資金を動かすからこそ気をつけたい、いくつかの「陥りやすいパターン」もあります。これは判断力の問題ではなく、誰もが持つ心理的なクセによって起こりやすいものです。

この記事では、新NISAで起こりがちな3つの典型パターンと、その回避策を整理していきます。

ココがポイント
  • まとまった資金を一括で特定の商品に集中投資すると、値下がり時の影響を大きく受けやすい
  • 値動きに動揺して売却(狼狽売り)すると、NISA口座の売却損は他の利益と相殺できず、非課税の恩恵をいかせないまま損失だけが確定してしまう
  • NISAの非課税枠は売却してもその年のうちには復活せず、翌年以降に売却額(簿価)分だけ戻る仕組み。この誤解が「慌てた売買」につながることがある

パターン1|まとまった資金を一括で特定の商品に集中投資してしまう

退職金などのまとまった資金が手元にできると、「早く増やしたい」という気持ちから、特定の銘柄やテーマ型の投資信託に一括でまとまった金額を投じてしまうケースがあります。値上がり局面ではその分リターンも大きくなりますが、逆に値下がりした場合、資産全体への影響もそれだけ大きくなります。

集中投資と分散投資、値下がり時の影響イメージ1/2

集中投資と分散投資、値下がり時の影響イメージ

※特定の資産が30%下落した場合の概念イメージ。実際の値動きを保証するものではありません。

特定の1銘柄に資金を集中させた場合、その銘柄が値下がりすれば資産全体が同じ割合で目減りします。一方、複数の資産・地域・時期に分けて投資しておけば、値下がりした部分の影響は資産全体の一部にとどまり、振れ幅を抑えやすくなります。「増やす」ことだけでなく、「大きく減らさない」という視点を持つことが、まとまった資金を扱う際にはより重要になります。

和田 直子

退職金という「まとまったお金」を目の前にすると、少しでも早く増やしたいという気持ちが強くなるのは自然なことだと感じます。ただ、新NISAの成長投資枠は年間240万円まで、つみたて投資枠と合わせて年間360万円までと決まっているので、無理に一度で使い切る必要はありません。数回に分けて投資する時間分散と、複数の資産に振り分ける分散投資を組み合わせることで、まとまった資金でも値動きの波を和らげやすくなります。

パターン2|値動きに動揺して売却してしまう(狼狽売り)

保有している商品の評価額が下がると、「これ以上損をしたくない」という気持ちから、値下がりした局面で売却してしまうことがあります。これは投資経験の長さにかかわらず、誰にでも起こりうる自然な心理的反応です。

ここで見落とされがちなのが、NISA口座ならではの注意点です。通常の課税口座であれば、ある商品で損失が出ても、他の商品の利益と相殺する「損益通算」や、損失を翌年以降に繰り越す「繰越控除」という仕組みを使えます。

しかしNISA口座内で生じた売却損については、この損益通算や繰越控除の対象になりません。つまり、値下がり局面で売却してしまうと、非課税という制度の恩恵をいかせないまま、損失だけが確定してしまうことになります。

和田 直子

評価額が下がった画面を見て不安になるのは、資産運用の経験を積んだ方でも同じです。SNSでは「値下がりのニュースを見て、居ても立ってもいられなくなった」人たちの不安の声がたくさんあがります。

だからこそ、はじめから「長期・積立・分散」を前提に、当面使う予定のない資金で取り組むことが大切です。日々の値動きを頻繁に確認しすぎないことも、動揺による判断を避けるための現実的な工夫のひとつだと思います。