家では常にピエロ役として立ち振る舞っていた筆者は、オリンピックの演技や競技を見ても感動することができなくなりました。学校のクラスメイトが口々に「感動したよね」と言っていても、ピンときません。その場の雰囲気でうなづいたりしましたが、心の底から「感動した」という気持ちが湧いてこない理由を当時は分かりませんでした。

運動会や学芸会などのクラス一丸になるイベントでも、「みんなで頑張ろう」という気持ちが出てこないのです。また、卒業式で涙を流す同級生のことも理解できませんでした。

こうして何事もクールに捉え、徐々に素の感情を表に出さなくなりました。どんな場所でも笑いが起きるように、場の空気が凍り付かないように全力を注ぎました。それが生まれ持った性格だと信じていたのですが、夫となる男性との出会いによって幼少期からの環境のせいだと自覚するようになったのです。

結婚や家庭への考えを変えてくれた夫との出会い

長年、普段はクールな性格だけどお笑い担当と自己分析していましたが、付き合うようになる直前に夫から「感情の起伏が平坦」「無理して場を盛り上げようとしている」ことを指摘されて初めて自分自身の心の闇に気がつきました。

そこで、どこで間違ってしまったのか時計を巻き戻し、一人きりで考えていくうちに、幼少期まで遡ってしまったのです。両親の連夜のけんか、母の結婚への愚痴や父の悪口などを耳にして育ってきたことで、本音を言えず仮面を被っている人間になっていたことに気がつきました。

本格的に交際がスタートしてから、小さい頃の辛かった思い出を少しずつ吐露していきました。夫はただ黙って聞いてくれたり、「夫婦げんかはウチの親もしていたよ」と言ってくれましたが、彼の両親のけんかの内容を聞いていると他愛のないものでした。そして、他の家と比較したことで、どれだけ筆者の両親がけんかばかりしていたかを認識することもできたのです。

子供を通じて自分自身の傷を癒す日々

結婚をする前に、夫婦げんかを子供の前ですることの愚かしさと、その悪影響に気がついたのは幸運でした。そして、冒頭で紹介した友田教授の著書に偶然に出会い、両親の言動でダメージを受けていたと確信したのです。そうした自らの経験を活かし、子供の前で大きなけんかをすることなく、今まで結婚生活を過ごしてきました。

3人の子供の成長を見守っていると、親の顔色を気にしながら過ごしてきた子供時代を思い出す瞬間があります。そういう時は、筆者自身も童心に戻り、無邪気に遊んだり笑ったりして過去の傷を癒すようにしています。完全にトラウマは消え去りませんが、子育てを通じてもう一度幼少期をやり直している、そんな日々を送っています。

中山 まち子