6. コア営業利益の最大の柱は医薬事業だという事実
総合化学メーカーと聞けば、石油化学のプラントを思い浮かべる人が多いだろう。売上の規模から言えば、その連想は間違っていない。
2026年3月期のセグメント別売上収益を見ると、最大はエッセンシャル&グリーンマテリアルズの6,788億円で、連結売上収益の29.2%を占める。合成樹脂や合成繊維原料、各種工業薬品を扱う事業だ。
ところが利益で見ると順番が入れ替わる。同セグメントのコア営業利益は144億円で、売上収益に対する比率は2.1%にとどまる。
最も稼いでいるのは住友ファーマの1,084億円で、利益率は24.0%に達する。次がアグロ&ライフソリューションの563億円、利益率10.9%。ICT&モビリティソリューションが530億円、9.2%と続く。
売上構成比が最大の事業と、利益の柱になっている事業が別だという構図である。「総合化学」という一語で括ると、この二層構造は見えなくなる。
6.1 住友化学の利益を押し上げたのは何か
住友ファーマの利益がなぜ膨らんだのか。会社の説明によると、北米で進行性前立腺がん治療剤「オルゴビクス」と過活動膀胱治療剤「ジェムテサ」の売上が拡大したことが軸にある。
これに「オルゴビクス」の販売マイルストン収入が加わり、事業構造改善効果によって研究開発費を含む販売費及び一般管理費が減った。アジア事業の一部持分を譲渡した利益も計上している。
一方でICT&モビリティソリューションは減益だった。ディスプレイ関連材料の売価が下落し、大型液晶ディスプレイ用偏光フィルム事業の抜本的構造改革の影響も受けたという。半導体プロセス材料は出荷数量が増えたが、固定費の増加が重なった。
事業ごとに追い風と向かい風が同時に吹いている。多角化した会社の利益は、こうして相殺されながら形になる。
7. 4,888億円の営業損失から1,517億円へ。5期の振れ幅
5期の営業利益を並べると、この会社の振れ幅の大きさが分かる。
2022年3月期は2,150億円。2023年3月期は▲309億円の営業損失に転じ、2024年3月期は▲4,888億円まで沈んだ。減損損失が2,693億円計上された年である。
そこから2025年3月期は1,930億円、2026年3月期は1,517億円と黒字に戻した。当期利益も2024年3月期の▲3,118億円から、2026年3月期は609億円まで回復している。
2026年3月期については、コア営業利益が2,084億円と前期の1,405億円から679億円増えた。一方で営業利益は1,517億円で、前期を413億円下回っている。
会社の説明では、この差は非経常的な要因により発生した損益にある。前期は525億円の利益だったが、当期は566億円の損失に振れた。前期にペトロ・ラービグ社への貸付金の債務免除に伴う持分法による投資利益を計上していた反動である。
経常的な収益力は改善している一方、非経常項目が営業利益を押し下げた期だった。この二層を分けて読むかどうかで、同じ決算の見え方は変わる。
8. 営業CF2,348億円の使い道に表れる優先順位
2026年3月期の営業活動によるキャッシュ・フローは2,348億円だった。投資活動によるキャッシュ・フローは▲748億円で、差し引きのフリー・キャッシュ・フローは1,599億円の収入となった。
前期のフリー・キャッシュ・フローは3,183億円だったので、水準は半分程度に落ちている。会社は投資の取得による支出が増えたためだとしている。
財務活動によるキャッシュ・フローは▲1,991億円。有利子負債の減少が主な内容だ。稼いだ現金の多くが負債の返済に向かった1年だったことになる。
会社は中期経営計画(2025年度から2027年度)で事業ポートフォリオの高度化を掲げ、案件を厳選しつつ資産売却などで財務体質の改善に努めるという。株主還元については、中長期的に配当性向30%程度を安定して達成することを目指すとしている。
2026年3月期の1株当たり配当は13.5円で、2027年3月期は16円の予想だ。増配を見込みながら、同時に負債を減らす。この二つを並行して進める余力がどこまであるかが、次の四半期以降の見どころになる。
9. 筆者コメント
利益の重心が動こうとしているのが、直近の住友化学の姿だ。
石油化学を軸にした収益構造から、医薬と農業関連が利益を支える構造へ。2026年3月期のセグメント別コア営業利益の並びは、その移り方をはっきり映していた。
ただ、この移行は会社が狙って作ったものだけではないだろう。石化系の利益率が2%台まで薄くなったこと、つまり従来の柱が細ったことの裏側でもある。重心が動いたのか、片方が沈んだのか。二つは似て見えて、投資家にとっての意味は違う。
私が注目したいのは、非支配持分の存在だ。2026年3月期の当期利益1,154億円のうち、545億円は非支配持分に帰属している。最大の利益源である住友ファーマに外部の株主がいることの帰結である。
連結の営業利益が伸びても、親会社の株主に届く分はそのぶん目減りする。この会社の利益を読むときは、どの段の利益を見ているのかを毎回確かめる姿勢を持ってほしい。
参考資料
10.1 免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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石津 大希
