株価が短い期間で行って戻る。値幅だけを見れば元の位置に帰ってきただけだが、その間に会社の中身が変わったかどうかは別の話だ。住友化学(4005)の直近1カ月は、まさにその形をたどった。8月上旬に482円まで沈み、8月21日には560円と、この1カ月で最も高い水準まで戻している。往復の中身を見ていきたい。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
- ①2027年3月期1Qの営業利益は610億円で前年同期の2.4倍。四半期利益は赤字から黒字に転じた
- ②株価は8月上旬に482円まで下げたのち、8月21日は560円で直近1カ月の最も高い水準に戻した
- ③コア営業利益の柱は住友ファーマとアグロ&ライフソリューション。売上構成比が最大の石化系事業の利益率は2.1%にとどまる
1. 482円まで沈んだ株価が、3週間で1カ月の高値に戻るまで
直近1カ月の終値を並べると、動きは大きく三つの局面に分かれる。
7月下旬は530円台から550円台。ここが起点だ。そこから水準がじりじり切り下がり、8月上旬には482円まで下げた。1カ月の中で最も低い水準である。
そこから戻りの局面に入った。8月中旬は520円台から530円台でもみ合い、8月19日には512円まで押し戻される場面もあった。
流れが変わったのは足元だ。8月20日の522円に対し、8月21日の終値は560円。前日比で7%を超える大幅高となり、この1カ月では最も高い水準に到達した。
起点の7月23日が553円だったので、1カ月を通してみれば小幅な上昇にとどまる。ただ道中で1割を超える下げと、そこからの戻しを両方こなしている。ボラティリティ(株価の日々の値動きの激しさ)の高い1カ月だった。
当日の大幅高が何を織り込んだのかは断定できない。相場全体の地合いや需給が絡むからだ。ただ、同じ会社の株価が3週間で1割以上動く局面では、市場の見方がまだ固まっていない可能性が高い。
2. PER13.2倍・PBR0.84倍という値付けが前提にしているもの
直近時点のPER(株価収益率)は13.2倍、PBR(株価純資産倍率)は0.84倍である。
会社が示す2027年3月期の1株当たり当期利益予想は42.4円。560円という株価は、その予想利益の13倍強を払う水準にあたる。
PBRが1倍を下回っている点も見逃せない。帳簿上の純資産に対して、市場がそれより低い値段を付けているという意味になる。
化学業種158社のROE(自己資本利益率)中央値は6.5%だ。住友化学の2026年3月期のROEは6.4%で、ほぼ中央値並みである。
資本効率そのものは業種の真ん中にいる。それでもPBRが1倍に届かないのは、いまの利益水準がどこまで続くのかについて市場の確信が薄いからだと読み取れる。
3. 1Q営業利益610億円、前年同期の2.4倍という立ち上がり
2027年3月期1Qは、売上収益(IFRS)が5,781億円だった。前年同期の5,261億円から9.9%の増収である。
損益面の変化はもっと大きい。営業利益は610億円で、前年同期254億円の2.4倍に膨らんだ。
親会社の所有者に帰属する四半期利益は407億円。前年同期は▲45億円の赤字だったので、黒字に転じた形だ。
通期予想は売上収益2兆3,600億円、営業利益1,770億円、当期利益700億円。前期比ではそれぞれ+1.4%、+16.6%、+14.9%の伸びを見込んでいる。
1Qの営業利益は通期予想の34.5%、当期利益は58.1%に達した。四半期あたり25%が均等なペースだから、利益は前倒しで積み上がっている。
もっとも、1Qの進捗が速いことと通期の達成が近いことは別だ。化学は原燃料価格と為替の影響を受けやすく、四半期ごとの利益の並びは均等になりにくい。
4. 自己資本比率29.6%。業種の真ん中とは大きく違う財務の形
利益の話と並べて見ておきたいのが財務の形だ。
2026年3月期末の親会社所有者帰属持分比率は29.6%で、前期末から3.4ポイント上昇した。有利子負債は1兆1,515億円で、1年間に1,347億円減っている。
一方、化学業種の自己資本比率中央値は64.4%である。住友化学はその半分以下の水準にある。
会社はD/Eレシオ(有利子負債を純資産で割った値)について、中長期的に0.7倍程度を目安とすると説明している。2026年3月期末の有利子負債1兆1,515億円と資本合計1兆2,367億円を並べれば、まだ目安の上にいる。
負債を厚く使う財務は、業績が上向く局面では株主のリターンを押し上げる。逆に下振れる局面では減益の幅を増幅させる。
1Qの利益が前年の2.4倍に伸びた局面で、株価が1カ月に1割超の振れ幅をつけたのは、この増幅装置が両方向に効くことを市場が意識しているからだと考えられる。
5. 筆者コメント
1Qの利益の伸びと、この1カ月の株価の振れ幅を並べて見ると、市場が何を測りかねているのかが見えてくる。
営業利益は前年同期の2.4倍。数字だけなら文句のつけようがない。それでも株価は3週間で1割超の下げと戻しを往復した。
私が気になるのは、利益の伸びが「戻り」なのか「切り上がり」なのかがまだ判別しにくい点だ。2026年3月期の営業利益は1,517億円で、2025年3月期の1,930億円を下回っている。前期は減益の年だったわけだ。
その減益の年に当期利益は増え、資本の厚みも増した。損益計算書の上と下で方向が逆になる期は、外から評価しにくい。
PBRが1倍に届かない値付けは、この判別しにくさに対する市場の答えだと読み取れる。逆に言えば、四半期の利益が二桁の伸びを重ねていけば、値付けの前提はそのぶん動く余地がある。
四半期の増益率だけでなく、営業利益と当期利益が同じ方向を向き続けるかどうかに目を向けたい局面だ。
