5. 過去5期の並び。利益は伸び、ROEは動かない
5期を並べると、この会社の性格がよく見える。売上高は2022年2月期の5,836億円から6,161億円、6,350億円、6,653億円、そして2026年2月期は7,000億円へ。毎期きれいに増えている。
営業利益も494億円、533億円、553億円、592億円、614億円と5期連続で増えた。営業利益率は8.47%、8.65%、8.71%、8.90%、8.78%。ほぼ8%台後半で安定している。
ところがROEは8.9%、8.9%、8.8%、8.6%、9.0%。5期を通じて9%前後で動いていない。利益が積み上がるのと同じ速さで、自己資本も積み上がったからだ。
自己資本比率は86.6%から88.3%へ上がり、直近は88.1%。総資産5,546億円に対し純資産は4,885億円である。
現金及び預金1,271億円と短期の有価証券1,531億円を合わせると、資金性の資産だけで2,800億円規模になる。総資産の半分だ。
稼いだ利益をきちんと積み上げてきた結果だが、同時に資本効率が上がらない原因でもある。厚みと効率が反対方向に働く典型的な形だと読み取れる。
5.1 財務キャッシュフロー607億円の流出
その構図に変化の芽が見える。2026年2月期の財務活動によるキャッシュフローは607億円の流出だった。同じ期の当期純利益444億円を上回る規模である。
配当金の支払額は150億円。自己株式の残高は前期末の14億円から470億円へ増えた。配当と自己株式の取得を合わせた株主への配分が、その期の稼ぎを超えたと読み取れる。
営業キャッシュフローは480億円、投資キャッシュフローは663億円の流出。稼いだ現金だけでは投資と還元の両方を賄いきれず、手元の資金を取り崩した期になっている。
積み上げから吐き出しへ、資本政策の向きが変わり始めた期だと位置づけられる。1期だけで判断はできないが、ROEが動くとすればここが起点になるだろう。
6. 創業家系で3割超を握る所有構造
なぜ資本の厚さがこれほど長く続いたのか。所有構造にも手がかりがある。
2026年2月期時点の大株主は、島村企画が16.65%、島村興産が9.74%、クリエイティブライフが6.85%。同じ住所に本店を置く3社で33.24%を占める。
これに日本マスタートラスト信託銀行の信託口9.49%、日本カストディ銀行の信託口6.52%が続く。上位10名で6割近くを握る構造だ。
安定株主が3割を超える会社では、資本効率を上げろという外からの圧力は届きにくい。逆に言えば、変化が起きるときは外圧ではなく経営の判断で起きる。財務キャッシュフローの向きが変わったことは、その文脈で見ておきたい。
6.1 費用の重心は人件費と地代家賃
低い販管費率の中身も確かめておく。2026年2月期の販管費1,837億円のうち、人件費は809億円。うち給料及び手当が758億円を占める。
次に大きいのが地代家賃の334億円だ。この二つで販管費の6割強になる。広告宣伝費は118億円、減価償却費は69億円である。
つまり費用の重心は、人と店舗の賃料という固定的な項目にある。賃上げと賃料の上昇が続く局面では、この2項目が利益率を直接押す。
1Qの営業利益が売上を上回る速さで伸びたことは、その圧力をいまのところ吸収できていることを示す。ただ余裕がどこまであるかは、次の四半期以降で確かめたい論点だ。
7. 筆者コメント
過去5期を眺めると、この会社が何を最適化してきたのかが見えてくる。売上と利益をなめらかに伸ばし、財務を厚くし、店の運営効率を業種平均から引き離す。そこは一貫している。
手をつけてこなかったのが資本の量だ。稼いだ現金は資産として残り、総資産の半分が資金性の資産という姿になった。
直近の期に配分の向きが変わったのは、そこに手が入り始めた合図だと考えている。ただ所有構造を見れば、この変化は外から急かされたものではない。だとすればペースも経営の判断次第で、市場が期待するより緩やかかもしれない。
株価の倍率が下がっている局面では、業績の良し悪しだけを追いがちだ。私はむしろ、貸借対照表のどこが動いたかを先に確かめることをおすすめしたい。
参考資料
8.1 免責事項
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石津 大希
