7. 年金をもらいながら働くと減る?2026年4月から在職老齢年金の基準額は月65万円に
年金を受け取りながら働く場合に気になるのが、在職老齢年金の仕組みです。
日本年金機構の「在職老齢年金の支給停止の仕組み」によると、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取る65歳以上70歳未満の方は、老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額(※4)の合計が基準額を超えると、老齢厚生年金が調整(支給停止)されます。
この基準額が、2026年4月から月51万円→月65万円へ引き上げられました。合計が65万円以下なら老齢厚生年金は全額支給され、超える場合は「基本月額−(基本月額+総報酬月額相当額−65万円)÷2」の額が支給されます。
※4 基本月額は、加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額です。総報酬月額相当額は、「その月の標準報酬月額+その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12」で求めます。
7.1 賃金月46万円・年金月10万円なら、いくら変わる?
厚生労働省が公表している在職老齢年金の解説資料(2026年1月版)の例を見てみましょう。賃金(総報酬月額相当額)が月46万円、老齢厚生年金が月10万円の場合、合計は56万円です。
2026年3月までの基準額51万円では5万円を超えるため、その半分にあたる2万5000円が支給停止となり、年金は月7万5000円でした。2026年4月からは合計56万円が基準額の65万円以下に収まるため、月10万円が全額支給されます。
7.2 見落としやすい注意点は3つ
- 対象は、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取る65歳以上70歳未満の方です。
- 判定に使うのは賃金だけではありません。老齢厚生年金の月額に、賞与を含めた賃金を合わせた額で判断されます。
- 調整されるのは老齢厚生年金です。老齢基礎年金は変わらず支給されます。
個々の加入状況や受給額によって結果は異なるため、実際に働き方を決める前に、年金事務所などで最新の取り扱いを確認しておくと安心です。
8. 65歳以上の夫婦無職世帯は毎月4万2434円の不足。貯蓄はどのくらい備えている?
同調査で、夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦無職世帯を見ると、実収入は月25万4395円(うち社会保障給付が22万8614円)、消費支出は26万3979円、税金・社会保険料などの非消費支出は3万2850円でした。
収支は月4万2434円の赤字で、先に見た単身世帯の2万9980円を上回ります。なお、家計収支編のデータには介護費用が含まれていません。
8.1 不足額が続くと、いくら必要になる?
たとえば月4万2434円の不足が続く場合、1年間で約50万9000円、20年間では約1018万円になります。
8.2 貯蓄の平均値は2564万円、中央値は1777万円
2026年5月19日に総務省統計局が公表した「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果」によると、世帯主が65歳以上の二人以上の世帯の貯蓄現在高は、平均値が2564万円、中央値が1777万円でした。
貯蓄現在高が2500万円以上の世帯は36.3%を占めますが、平均値と中央値の間には787万円の開きがあります。世帯主が65歳以上の無職世帯に限ると、平均値は2494万円でした。
平均値は貯蓄の多い世帯に引き上げられやすいため、中央値もあわせて確認しておきたいところです。同調査は二人以上の世帯が対象で、単身世帯は含まれていない点にも注意が必要になります。
9. まとめにかえて|年金額と支出を並べて「不足額」を把握しよう
2026年度の年金額は4年連続のプラス改定となりましたが、65歳以上の無職世帯の家計は、単身で月2万9980円、夫婦で月4万2434円の赤字でした。年金だけで暮らす世帯は4割強で、働く、受給開始時期を調整する、貯蓄を活用するなど、複数の手段を組み合わせている世帯も少なくありません。
2026年4月には在職老齢年金の基準額が月65万円に引き上げられ、65歳以降も働きやすい環境が整いつつあります。まずは、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」や、Webで確認できる「ねんきんネット」で、ご自身の見込み額を数字で把握しましょう。
不足額が見えれば、働き方の見直しや受給開始時期の検討、資産形成の制度の活用など、具体的な備えを考えやすくなります。
「年金だけでは足りないかもしれない」というお話は、気持ちが重くなりがちなテーマですが、不足額がわかれば、打てる手も見えてきます。
まずは、年金の見込み額と毎月の支出を紙に書き出し、その差を確かめてみてください。差が小さければ支出の見直しで、大きければ働く期間や受給開始時期、貯蓄の使い方の検討で、備えの道筋が立てやすくなります。
2026年4月に在職老齢年金の基準額が引き上げられたように、制度も少しずつ変わっていくものです。
最新の情報を確かめながら、ご自身のペースで準備を始めていきましょう。
参考資料
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「年金の繰下げ受給」
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」
- 内閣府「令和7年版高齢社会白書 第2節 高齢期の暮らしの動向」
- 日本年金機構「在職老齢年金の支給停止の仕組み」
- 厚生労働省「在職老齢年金制度の見直し」解説資料(2026年1月版)
池上 翠


