ソニーは、9月17日付で吉田憲一郎社長署名のCEOレターを発信し、半導体事業(現イメージング&センシング・ソリューション{I&SS}事業)を保有し続けることを表明した。「ソニーの成長を牽引する重要な事業の1つで、今後さらに大きな価値創出が期待できるため、保有し続けることが長期的な企業価値向上に資する」と判断した。
半導体は「ソニーのテクノロジーの象徴」
ソニーは、米ヘッジファンドのサード・ポイントから「半導体事業を分離・上場し、エンタテインメント会社と半導体会社に分割する」提案を受けていたが、今回のCEOレターでこれを事実上、拒否した。
CEOレターでソニーは自らのアイデンティティーを「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」と定義し、経営の方向性として「人に近づく」を掲げた。クリエイターが捉えたい世界を人間の眼を超える能力で入力・把握し、その世界をユーザーに美しく出力して表現する、それらをつなぐ信号処理技術をいかに極めるかを追求しており、そこでイメージング&センシング技術は「ソニーのテクノロジーの象徴」であり、長期的な企業価値向上の観点からも最重要技術だと述べた。
独立にはマイナス影響も
イメージセンサーは、頻繁な製造設備の更新で競争力を保つ必要があるロジックやメモリーと異なり、同じ設備を使いながら性能改善や新機能で差異化でき、膨大なプロセス開発費や設備投資負担を定常的に必要としないと説明。さらに、成長と競争力強化へ投資を続けるが、投資負担を平準化していく計画であるため、中長期的に投資はイメージセンサー事業が創出するキャッシュフローでまかなえると説明した。
また、外部の財務専門家と行った分析結果として、半導体事業を独立・上場して運営する場合、上場にかかる時間、特許ライセンス費用の負担増、人材採用面でのマイナス、上場企業としてのコストとマネジメントリソース、税務面での機会損失などが生じるとも説明した。
19年度は半導体で国内首位に
電子デバイス産業新聞の調べによると、ソニーの半導体事業は2019年度に国内半導体メーカーで史上初めて売上高首位に立つ見通しだ。
18年度に売上高約1.2兆円で国内首位だった東芝メモリ(10月からキオクシアに社名変更予定)は、主力のNANDフラッシュメモリーが年率3割にも及ぶ価格下落にさいなまれているため、19年度は売上高が1兆円を下回る可能性が高い。
一方でソニーは、iPhone 19年モデルにも見るとおり、スマートフォンのカメラが多眼化していることを背景にイメージセンサーの需要が好調。19年度は売上高9900億円を計画しているが、19年4~6月期の売上高は前年同期比14%増の2307億円、営業利益は同70%増の495億円と大幅に伸びた。中国メーカー向けの需要が前倒しで来た可能性もあるが、7~9月期も強い需要が継続する見通しで、フル生産を継続している。
AIとの組み合わせを模索
ソニーは25年度に半導体事業で売上高約1.3兆円を想定し、主力のイメージセンサー市場の世界シェア(金額ベース)を18年度の51%から25年度には60%まで高めることを目指すとともに、現在は数%にとどまっているセンシング領域の売上構成比を30%に引き上げる方針を打ち出している。このセンシング領域で25年度に売上高約4000億円を見込んでおり、モバイル分野に加えて産業用や車載用へ販路を拡大し、イメージセンサーと人工知能(AI)を組み合わせたソリューションの提供も目指す。
今回のCEOレターでも、イメージセンサーにAIを組み合わせたAIセンサーの開発を推進していく考えを改めて示した。IoT、自動運転、ゲーム、先端医療など幅広い領域で活用を見込んでおり、イメージセンサーをデバイスからソリューションやプラットフォームに進化させていくと述べた。
ちなみに、AIに関しては、5月に米マイクロソフトとクラウドゲーム分野やAIソリューション領域でパートナーシップを結ぶ意向確認書を締結した。
設備投資については、19~21年度の3年間で6000億円を投資し、月産能力を13万枚(現在の月産能力は約10.5万枚)まで高める計画。また、21年度以降の需要に対応するため、これに1000億円を追加投資してイメージセンサー新増設棟の建設を検討中で、19年度中に判断する予定だが、21年度以降の投資は減少していくと説明しており、ROIC(投下資本利益率)を25年度に20~25%(18年度実績は約15%)まで高める考えだ。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏