厚生年金の平均受給月額を知りたいとき、月報や年報でよく目にするのが「加入25年以上」の平均月額です。ところが同じ表の中でも「全体」と「新規裁定」で数字に大きな差があり、どちらを見ればよいのか迷った経験はないでしょうか。

厚生労働省・日本年金機構「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和8年3月現在)」によると、厚生年金・老齢年金・25年以上の平均月額は、全体(既裁定含む)で15万4747円、令和8年3月の新規裁定分では9万3038円と、月6万円以上の差が出ています。

この記事では、この差がなぜ生まれるのか、どちらの数字を老後設計に使うべきかを、公的統計の内訳から整理していきます。

ココがポイント
  • 厚生年金・老齢年金・25年以上の全体平均は15万4747円、新規裁定は9万3038円
  • 新規裁定の平均が低く見えるのは、基礎年金がまだ付いていない特別支給の受給者も含む「混在数値」だから
  • 「基礎年金あり」同士で比較すると、新規裁定13万8454円と全体15万6883円の差は月1万8429円に収まる

1. 厚生年金・老齢年金の平均月額は「全体15万4747円」だが新規は9万3038円

まずは、厚生労働省の月報が示す平均月額の全体像から見ていきます。

1.1 令和8年3月現在の全体平均は15万4747円

最新資料である「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和8年3月現在)」によると、厚生年金保険(第1号)の受給者に係る老齢年金(25年以上)の平均月額は15万4747円でした。

これは、すでに受給している人(既裁定)と、当月に新たに受給を始めた人(新規裁定)を合わせた全体の平均で、いわゆる「25年以上受給する権利のある人」の実額に近い数字です。

1.2 新規裁定分は9万3038円と大きく下がる

一方、同じ表の令和8年3月新規裁定の欄を見ると、老齢年金・25年以上の平均月額は9万3038円と、全体平均より6万1709円も低くなっています。同じ「25年以上」の平均であるにもかかわらず、これほど差が出るのは意外に感じるかもしれません。

厚生年金・老齢年金(25年以上)の全体平均と新規裁定平均の差1/2

厚生年金・老齢年金(25年以上)の全体平均と新規裁定平均の比較

出所:LIMO編集部作成

2. 差が生まれる理由「基礎年金あり/なし」で分けると見え方が変わる

大きな差が生まれる背景を、月報の内訳表から読み解きます。

2.1 新規裁定平均は「基礎年金未受給者」を含む混在数値

厚生年金の受給は、60〜64歳で特別支給の老齢厚生年金を受け取り始めるケースと、65歳で老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に受け取り始めるケースが混在します。月報の「新規裁定・25年以上」の平均は、この両方を含んだ数字です。

そのため、基礎年金がまだ付いていない特別支給の受給者や、繰上げで受給を始めた人の金額も平均に含まれ、実勢よりも低く出ます。

2.2 「基礎年金あり」同士で比較すると差は月1万8429円

混在の影響を取り除くため、「基礎年金あり」の平均だけを取り出して比較すると、全体(既裁定含む)が15万6883円、新規裁定が13万8454円で、差は月1万8429円まで縮まります。

さらに、繰上げ受給していない「基礎繰上げなし」の平均を見ると、全体15万8582円に対して新規裁定は16万9402円と、むしろ新規裁定のほうが高い水準です。

これは、直近の賃金上昇や標準報酬月額の増加が反映されているためと考えられます。

「基礎年金あり/なし」の内訳で見た厚生年金の平均月額2/2

厚生年金の平均月額を基礎年金あり/なしで分解した比較

出所:LIMO編集部作成

3. 老後の目安に使うのは「全体・基礎あり」の月額

結論として、老後の家計設計で参考にすべきは、混在数値の全体平均ではなく、内訳を追った「基礎年金あり」の平均月額です。

3.1 男女差の背景も同じ視点で読む

同じ月報によると、厚生年金保険(第1号)の標準報酬月額の平均は全体33万9762円、男子38万5406円、女子27万5130円と、現役期の報酬にも大きな男女差があります。老後の受給額に反映されるのは、この加入期間と報酬月額の累積です。

したがって、平均月額だけでは自分の位置がつかみにくい場合は、標準報酬月額の平均や加入期間の分布とセットで確認するとよいでしょう。

太田 彩子

老後生活を考え始めたとき、まず気になるのは年金額だと思います。自分がいくらもらえるのか?と興味を持つきっかけとして平均額を知るのは良いことですが、大切なのは「自分自身の見込額」です。次の章でくわしく見ていきましょう。