6. 【75歳以上 後期高齢シニア】働くシニアが増える背景:「生きがい」と「余暇」をあきらめないセカンドライフ

老後の生活を支える主な柱は公的年金ですが、近年では決まった年金収入だけを頼りにするのではなく、あえて仕事を続けるシニアが目立つようになっています。

総務省の統計(2024年)によると、65~69歳の53.6%、70~74歳の35.1%、そして75歳以上の後期高齢期であっても12.0%の人が現役で就業しています。

働くシニアが増えている背景には、単なる「生活費の赤字補填」にとどまらない、現代の高齢者世帯ならではのライフスタイルや意識の変化があります。

6.1 家計簿から見える「余暇」と「家族との時間」への本音

セカンドライフにおける家計管理といえば「節約」が強調されがちですが、シニア夫婦の家計簿からは、趣味や人付き合いを大切にしたいという本音が浮かび上がります。

先述の家計調査では、75歳以上無職(二人以上)世帯でも、「教養娯楽」に毎月平均2万2322円を支出しています。

さらに、70歳代無職世帯の家計を詳しく見ると、交際費(月平均1万9871円)のうち、お孫さんへのプレゼントやお祝い金などに充てられる「贈与金」が月平均9245円、パック旅行費や宿泊料などの「教養娯楽サービス」が月平均1万3020円を占めています。

物価高が続くなかで、ただ生活を切り詰めるだけでは、こうした旅行や趣味、大切な人との交流といった「暮らしの潤い」が失われてしまいます。

リタイア後もこうした余暇やファミリーライフをあきらめず、自分らしく楽しみ続けるために、「働いて収入を得る」という選択が前向きに捉えられているのです。

6.2 働くことがもたらす「健康」と「社会とのつながり」

「働かなくてもいい状況であっても働きたい」男性は70歳代、女性は60歳代から多数派に4/6

「働かなくてもいい状況であっても働きたい」割合が高まる。男性は70代、女性は60代から多数派に

出所:マイナビ「マイナビ、「シニアのアルバイトに関するライフエンゲージメント調査」を発表」

シニア層の就労意欲の高さは、意識調査からも裏付けされています。アルバイトとして働く60〜70歳代を対象にしたマイナビの「シニアのアルバイトに関するライフエンゲージメント調査」では、意外にも「働かなくてもいい状況であっても働きたい」と回答した人が多数派(男性70代で50.7%、女性60代で44.4%)を占めています。

同調査でシニアが働く目的を尋ねたところ、生活費のためだけでなく、「健康維持のため」「健康的な生活リズムを作るため」「社会とのつながり(孤独感の解消)」が上位に挙がりました。実際に「働くことで生活の質(QOL)が向上した」と実感しているシニアは約6割(58.7%、女性では62.8%)にのぼります。

内閣府の「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」でも、高齢者の外出目的として「趣味・余暇・社会活動」が34.3%を占めており、働くことはまさに社会との接点を持ち、アクティブに過ごすための強力な手段となっています。

6.3 「資産寿命」を延ばす間接的な効果

高齢期の就労は、家計全体にとっても非常に大きなメリットをもたらします。

たとえ「週に数日だけ」「短時間」といった無理のない範囲であっても、毎月数万円の収入を得ることができれば、家計の赤字を縮小させ、これまでの貯蓄を取り崩すペースを緩やかにすることができます。

さらに、働くことで外出機会が増えて生活リズムが整えば、心身の健康維持につながり、将来的に発生し得る医療費や介護費の増加を抑える間接的な経済効果(家計防衛効果)も期待できるでしょう。

7. 健康状態が家計を分ける分岐点にも?

75歳を過ぎると、同じシニア世帯でも「健康状態」や「暮らしの形」によって、家計の構造は以下のように大きく変化します。

  • 夫婦ともに自立して生活している世帯
  • どちらか一方が要介護状態にある世帯
  • 配偶者を亡くし、実質的に単身に近い生活を送る世帯

実は、心身の健康状態こそが老後家計の最大の分岐点です。

一方が要介護になれば医療費やサービス費の負担が一気に重くのしかかります。

また、ひとり暮らしになった場合でも、住居費や光熱費などの基本コストは半分にはならず、1人当たりの生活費負担はかえって高くなるのが現実です。

8. 【75歳以上 後期高齢シニア】1割・2割・3割はどう決まる?医療費負担割合の仕組み

75歳になると全員が「後期高齢者医療制度」に移行し、窓口での負担割合は前年の所得によって決定されます。

基本は1割負担ですが、2022年10月からは一定以上の所得がある人を対象に「2割負担」も導入されています。

8.1 負担割合と判定基準

  • 1割:現役並み所得者、2割該当者に該当しない方
  • 2割:一定以上の所得がある人:下記1、2の両方に該当する場合
    1. 同じ世帯の被保険者の中に課税所得が28万円以上の人がいる
    2. 同じ世帯の被保険者の「年金収入」+「その他の合計所得金額」の合計額が以下に該当する。(1人の場合は200万円以上、2人以上の場合は合計320万円以上)
  • 3割:現役並み所得者
    • 同じ世帯の被保険者の中に課税所得が145万円以上のかたがいる場合(注)一定の基準・要件を満たす場合、窓口負担割合が1割又は2割になるケースがある

なお、自己負担を抑える緩和措置は2025年9月末で終了しています。

今後は2割負担の影響を直接受ける人が増えるため、医療費の増加が貯蓄を取り崩すペースに直結しかねません。老後資金を長持ちさせるためにも、自分がどの負担区分になるのか定期的にチェックしておきましょう。

9. まとめにかえて|長寿時代を見据えた家計管理のポイント

後期高齢シニア夫婦の多くは、年金収入に加え、これまでの貯蓄を取り崩しながらセカンドライフを送っています。

しかし、現代のシニア世代にとっての家計管理は、ただ単に支出を切り詰め、生活を縮小させることではありません。大切なのは、お孫さんとの交流や趣味、旅行といった「人生の潤い」をあきらめず、無理のない範囲での就労や公的制度の正しい活用を通じて、老後資金を長持ちさせる「資産寿命」を上手に延ばしていくことです。

たとえ週に数日、短時間の仕事であっても、そこで得る数万円の収入は家計を大きく助け、同時に健康維持や孤独感の解消という計り知れないメリットをもたらします。

現在の家計状況をポジティブに見直し、攻めの「無理のない就労」と、守りの「医療・介護保障制度の理解」を組み合わせながら、健康寿命と資産寿命をバランスよく延ばしていきたいものです。

10. 筆者からのコメント

熊谷 良子

多くのシニアが「子どもに金銭的負担をかけたくない」と願うからこそ、元気なうちから正しい制度の知識を持つことが最大の生活防衛になります。

例えば医療費であれば、「高額療養費制度」を正しく活用することで、一般的な所得層であれば外来は月額約1.8万円、入院を含めた世帯合算でも月額約5.8万円が支払いの「天井」となります。

貯蓄の目減りを恐れて過度に生活を切り詰め、趣味や家族との時間を諦める前に知っておきたいことは結構あるかもしれません。

「公的保障による守り」を正しく把握した上で、週に数日だけ「無理のない範囲で働く」という攻めの姿勢を組み合わせる。この両輪のバランスこそが、老後の人生の潤いと資産寿命を両立させる最良の鍵となります。

参考資料