5. 働きながら受け取る「在職老齢年金」の注意点や「在職定時改定」も確認を

不足分を補う方法の一つが「働き続けること」です。ただし、60歳以降も厚生年金保険に加入して働く場合には、「在職老齢年金」という仕組みに注意が必要です。給与と年金の合計額によっては、年金の一部または全部が支給停止になることがあるためです。

日本年金機構によると、老齢厚生年金の基本月額と、総報酬月額相当額(毎月の給与や賞与を月額に換算したもの)の合計が、1月あたり「65万円」(令和8年度の支給停止調整額)を超える場合、超えた分の2分の1に相当する年金が支給停止となります。

たとえば超過額が3万円なら、その半分の1万5000円が止まる、という計算です。とはいえ、合計65万円という基準はかなり高い水準ですから、多くの方はそのまま受け取れます。

また、働き続けることがプラスに働く仕組みもあります。

「在職定時改定」といって、老齢厚生年金の受給権者が65歳以上70歳未満で厚生年金保険に加入しながら働くと、毎年9月1日を基準日に、それまでの加入実績が年金額へ反映され、10月分(12月受け取り分)から増額されます。

日本年金機構では65歳まで給与月額20万円で厚生年金保険に加入していた方が、65歳~70歳まで引き続き給与月額20万円で厚生年金保険に加入した場合の例として、1年間の在職で年額およそ1万3000円増える例も示されています。

つまり、働くことは「年金が止まるかもしれない」というマイナス面だけでなく、「将来の年金が育つ」というプラス面もあわせ持っているということです。家計の不足を補いながら年金も増やす、という視点で考えると、働き方の選択肢は広がります。詳細は日本年金機構の公式サイトで条件などを確認しましょう。

宮野 茉莉子
「働くと年金が減るから損」と決めつけて就労を控えてしまう方を、相談の現場で何度も見てきました。ですが、支給停止の基準はかなり高く、在職定時改定で年金が育つ面もあります。減る面と増える面の両方を、数字で確認したうえで判断していただくのが安心です。

6. まとめにかえて

厚生年金・国民年金の平均年金月額は、令和6年度で厚生年金が〈全体〉月15万289円、国民年金が月5万9310円でした。男女差も大きく、平均はあくまで目安です

。また、65歳以上・夫婦のみ無職世帯では毎月およそ4万2434円の不足がみられます。不足を補う選択肢の一つが就労ですが、在職老齢年金による支給停止と、在職定時改定による増額の両方を理解しておきたいところです。

宮野 茉莉子
平均額や赤字額の数字は不安をあおりがちですが、大切なのは「自分の場合はどうか」を具体的に把握することです。そして、自分はいつまで働き、働いている間の年金はどのように加入するか、年金はいつから受け取るかなど「自分なりの計画」を考えることも大切です。 年金の見込みはねんきんネットで、家計の不足は毎月の支出を一つずつ見直すことで、対策はぐっと立てやすくなります。働き方も含め、数字をもとに落ち着いて選んでいきましょう。

参考資料

宮野 茉莉子