お盆休みの帰省シーズン。久しぶりに実家へ帰り、高齢の親と顔を合わせる人も多いでしょう。
そんな中、「親のスマホにマイナポータルアプリを入れて、ねんきんネットとの連携まで済ませてあげた。これで将来の年金管理もスマホでバッチリ、安心だ」と胸をなでおろしている「デジタル親孝行」な子ども世代が増えています。
確かに、国の年金デジタル化は大きく進化しています。スマホさえあれば、老齢年金の受給見込額をいつでも確認でき、国民年金保険料の免除・納付猶予の申請や学生納付特例の申請などは、マイナポータルから24時間どこからでも完了します。
しかし、知っておきたい「デジタルの盲点」はいくつか存在します。
日常的な確認や一部の手続きはオンラインで完結しますが、障害年金や遺族年金、そして「未支給年金」といった、人生の“もしもの緊急事態”における請求手続きはオンラインの対象外。
今なお「紙の書類」と「窓口・郵送」の手続きが必須であるという現実です。
デジタルの便利さを100%認めつつも、いざという時のアナログ手続きの壁は依然として厚いのが実態です。
この記事では、この夏に実家へ帰省した際に、子が親とともに必ず確認・整理しておくべき「年金手続きの盲点」と「もしもの時のアナログ備え」について、最新の公的情報を交えながら解説します。
1. この記事の3つのポイント
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マイナポータルで年金の確認や一部手続きは可能ですが、遺族年金や未支給年金などでは、引き続き窓口や郵送による「紙のアナログ手続き」が必要です。 -
お盆の帰省時はスマホ設定だけでなく、基礎年金番号の保管場所や受取口座、管轄の年金事務所を家族で共有する「15分でできる年金メモ」の作成をお勧めします。 -
2026年8月から順次届く「公金受取口座登録の意向確認書」は、同意しない場合のみ返送が必要です。詐欺に注意を促しつつ親の意向を確認しサポートしましょう。
2. マイナポータルでできる年金手続きは、意外と限られている
まず、現在の対応範囲を押さえておきましょう。
マイナポータルから電子申請できる「年金の受給に関する手続き」は、次の5つです。
- 老齢年金請求書(はじめて老齢年金を請求する場合)
- 老齢年金請求書(65歳前から老齢年金を受け取っている場合/ハガキ形式)
- 年金生活者支援給付金請求書
- 年金受取機関変更届
- 公的年金等の扶養親族等申告書
これに加えて、国民年金の被保険者としての手続き(保険料免除・納付猶予申請、学生納付特例、付加保険料、口座振替の申出など8種類)が電子申請の対象です。
いくつか、誤解されやすい点があります。
2.1 受取口座の変更は「公金受取口座に変更する場合」のみオンラインOK
任意の金融機関口座に変えたい場合や、成年後見人が手続きする場合、海外の金融機関を指定する場合は対象外です。
2.2 老齢年金の請求をスマホでできる人は「一定の条件に該当する人」
電子申請できるのは、機構から届いた年金請求書に電子申請の案内リーフレットが同封されている方だけで、その条件は次のとおりです。
- 共済組合の加入記録がないこと
- 未加入期間や持ち主不明の年金記録がないこと
- 保険料納付済期間と免除期間の合計が25年以上あること
- 他の年金を受け取っていないこと
- 単身、または配偶者・子と同一住所・同一世帯であること(同居する配偶者・子の前年所得が655.5万円未満)
- 年金の受取先を公金受取口座にすること
そして重要なのが、繰上げ請求または繰下げ請求を希望する方は電子申請を利用できないという点です。
受給開始時期を動かす選択をするなら、その時点で紙の手続きになります。申請できる期間も、誕生日の前日から10か月以内と決まっています。
3. 障害年金・遺族年金は「スマホで完結」しない
その一方で、家族の死亡や重い障害の発生に伴う年金の請求は、スマホ操作の手続きでは完結しません。
正確に言うと、マイナポータルではこれらの請求はできません。ただし「電子申請が一切できない」わけではなく、日本年金機構はe-Gov電子申請で次の手続きを受け付けています。
- 障害厚生年金の請求書
- 年金受給権者死亡届(報告書)兼 未支給年金・未支払給付金請求書
ただしこれは、e-Govの「電子申請用送付書」に請求書のPDFなどを添付して送る方式で、電子証明書が必要です。高齢の親やその遺族が自力で使う手段としては、現実的とは言いにくいのが実情です。
一方、障害基礎年金・遺族基礎年金・遺族厚生年金の請求は、機構のページに電子申請の案内自体がなく、市区町村役場の窓口や年金事務所・街角の年金相談センターへの提出が前提です。
なお、障害年金・遺族年金のオンライン対応を拡大する具体的な予定は、日本年金機構・デジタル庁・厚生労働省のいずれからも公表されていません。
3.1 なぜ紙と窓口が残っているの?
理由はおおむね3つに整理できます。
理由その1:併給の選択が個別性の高い判断だから
公的年金には「一人一年金」という原則があります。老齢・障害・遺族という支給事由の異なる年金の受給権を複数持った場合、原則としてどれか一つを選ぶことになります(同じ支給事由の基礎年金と厚生年金は、1つの年金として一緒に受け取れます)。
どちらを選ぶと手取りが多くなるかは、加入履歴・家族構成・年齢・課税関係によって変わります。
この判断を選択フォームだけで完結させるのは難しく、年金事務所の窓口で試算を確認しながら「年金受給選択申出書」などを提出する運用になっています。
理由その2:医師が作成する紙の書類が必要になるから
障害年金の請求には、医師が作成する「障害の状況に関する診断書」、初診日を示す「受診状況等証明書」、本人が書く「病歴・就労状況等申立書」が必要です。
これらは署名・押印のある紙の書類として提出することが前提で、オンライン化になじみにくい部分です。
4. 監修者からのコメント
ただし、添付書類の負担は以前より軽くなっています。
死亡診断書は原本ではなくコピー(市区町村長に提出したもの)または死亡届の記載事項証明書で足りますし、マイナンバーを記入することで戸籍謄本や世帯全員の住民票の写しの添付を省略できる場合もあります。
提出した戸籍謄本・住民票などは、申し出れば返却してもらえます(「年金用」の表示があるものを除く)。
障害年金の申請や、配偶者を亡くした後の遺族年金の請求は、心身ともに余裕のない状況で行うことがほとんどです。
入力ミスを防ぐうえでも、窓口で職員に確認しながら書類を作る意味は小さくありません。
5. 高齢の親にも関係する「障害年金」
「障害年金は現役世代の制度で、高齢の親には関係ない」と考えられがちですが、そうとは限りません。
60歳代以降の障害年金は、老後の受給額の設計に影響します。
帰省中に親の体調の変化(脳梗塞の後遺症、認知機能の低下、がん治療など)に気づいたら、次の3点を思い出してください。
5.1 65歳以降は「障害基礎年金+老齢厚生年金」を選べる
「一人一年金」の例外として、65歳以降は次の組み合わせを選択できます。
- 障害基礎年金 + 老齢厚生年金
- 障害基礎年金 + 遺族厚生年金
- 老齢基礎年金 + 遺族厚生年金
ただし、「老齢基礎年金+障害厚生年金」という組み合わせは選べません。1階だけ老齢、2階だけ障害という組み替えはできない、という点は押さえておきましょう。
障害年金は所得税・住民税が非課税で、老齢年金は課税対象です。
額面が近ければ手取りで有利になることがあり、課税所得が下がることで保険料や医療費の負担区分に影響する場合もあります。
一方で、必ず有利になるわけではありません。老齢基礎年金の額面のほうが多いこともありますし、障害年金を受けると振替加算が加算されなくなる、障害状態確認届の結果によっては支給停止となる、といった面もあります。
額面と手取りの両方で比較する必要があります。
5.2 繰下げ・繰上げの選択に影響する
受給開始時期を動かす設計をしている場合、障害年金の受給権の発生が結果を変えることがあります。
繰下げ受給について
65歳から66歳到達日の前日までに障害給付や遺族給付の受給権があると、そもそも繰下げの申出ができません。
66歳到達後の待機期間中に他の公的年金の受給権を得た場合は、その時点で増額率が固定されます。
ただし例外があり、障害基礎年金だけを受け取る権利がある方は、老齢厚生年金の繰下げ申出ができます(老齢基礎年金の繰下げはできません)。
繰上げ受給について
老齢年金を繰上げ請求すると、その日以後は、事後重症などによる障害基礎(厚生)年金を請求することができなくなります。治療中の病気や持病がある方は注意が必要です。
5.3 60歳以上65歳未満の初診日も対象になる
国民年金の被保険者であった方が、日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満で、どの年金制度にも加入していない期間に初診日のある病気やケガについては、障害基礎年金の対象になります(保険料納付要件も必要)。
ポイントは「国内に住んでいること」と「そのとき被保険者でないこと」です。
なお、障害厚生年金は厚生年金の被保険者期間中に初診日があることが要件なので、この特例の対象外です。
60歳代前半でも在職して厚生年金に加入していれば、通常どおり障害厚生年金の対象になります。
これらの手続きはいずれも、診断書の取得や初診日の証明、併給の比較が必要で、マイナポータルからは申請できません。だからこそ、親が元気なうちに情報を共有しておく意味があります。

