新NISAで株式投資への関心が高まり、東京証券取引所が資本コストを意識した経営を促すなか、企業が「資本コストを超えて価値を生んでいるか」を測る指標として、経済利益(EVA®=経済的付加価値)が改めて注目されています。

EVAは、税引後の本業利益(NOPAT)から、投下資本に対する資本コスト(WACC分)を差し引いた「本当の儲け」を金額で示す指標で、花王など日本の大手企業も経営目標に採用してきました。

本記事では、EVAの意味・計算式から、ROIC−WACCとの関係、残余利益モデル(RIM)やDCFとの違い、EVA経営、注意点までを初〜中級者向けにやさしく解説します。

ココがポイント
  • EVA=(ROIC−WACC)×投下資本で価値創造を額で測る
  • 資本コストを超えて稼いだ「儲けの絶対額」を示す
  • 毎年のEVAの現在価値合計はDCF(企業価値)と一致

経済利益(EVA)とは?意味をやさしく解説

経済利益(EVA:Economic Value Added=経済的付加価値)とは、企業が事業で稼いだ利益から、その事業に投じた資本のコストを差し引いた、「資本コストを超えて生み出した価値」を金額で示す指標です。米国のコンサルティング会社が考案し、1990年代以降、世界の大手企業に広がりました。

普通の会計利益(営業利益や純利益)は、借入の利息は費用として引きますが、株主資本のコスト(株主が求めるリターン)は引きません。しかし本来、株主のお金にもコストがあります。EVAは、この株主資本コストまで含めた「資本の総コスト」を差し引くことで、会計上は黒字でも、資本提供者の期待を超える価値を本当に生んでいるかを厳しく問います。EVAがプラスなら価値創造、マイナスなら価値破壊です。

経済利益(EVA)の計算式

EVAは、次の式で計算します。

EVA = NOPAT − 投下資本 × WACC

NOPAT(税引後営業利益)は本業の税引後の儲け、投下資本は株主資本+有利子負債、WACC(加重平均資本コスト)は資本の平均コストです。「投下資本 × WACC」は、その資本を使うために最低限稼がねばならない金額(資本コストの額)を表します。

この式は、次のようにも書けます。

EVA =(ROIC − WACC)× 投下資本

NOPAT ÷ 投下資本がROIC(投下資本利益率)なので、両者は同じです。この形が示すのは、EVAのプラス・マイナスを決めるのは、ROICが資本コスト(WACC)を上回るかどうか、という一点です。ROICは「ROICとは?投下資本利益率の意味・計算式・目安」、WACCは「WACCとは?加重平均資本コストの意味・計算式・目安」で解説しています。

経済利益(EVA)の計算例

かんたんな数値例で確かめます。ある会社の投下資本が1,000億円、ROICが10%、WACCが6%だとします。NOPATはROIC × 投下資本 = 100億円。資本コストの額は投下資本 × WACC = 1,000億円 × 6% = 60億円です。したがってEVAは、100億円 − 60億円 = 40億円。

別の式でも同じです。(ROIC 10% − WACC 6%)× 投下資本1,000億円 = 40億円。この会社は、資本コストというハードルを超えて、年40億円の価値を生み出している、と読めます。

EVAスプレッド=ROIC−WACC=価値創造の分かれ目

EVAの核心は、「ROIC − WACC」という差にあります。これをEVAスプレッドと呼びます。EVAは、このスプレッドに投下資本を掛けたものです。判定はシンプルで、ROICがWACCを上回れば(スプレッドがプラスなら)価値創造、下回れば価値破壊です。

ROIC > WACC → 価値創造

ROIC < WACC → 価値破壊

ここで重要なのは、EVAが「率」ではなく「額」で価値を測ることです。ROIC−WACCのスプレッド(率)が同じでも、投下資本が大きい企業ほど生み出すEVA(額)は大きくなります。高ROICでも事業規模が小さければEVAの額は小さい——率だけでは見えない「稼ぎの絶対量」を捉えられるのが、EVAの持ち味です。東証が求める資本コスト経営やPBR改革も、突き詰めればこの「ROICでWACCを超えよ」という要請にほかなりません。

残余利益モデル(RIM)との違い——事業版か株主版か

EVAは、株式評価で使われる残余利益モデル(RIM)とうり二つの発想です。両者の違いは、「誰の目線で見るか」にあります。

RIMは株主目線で、「純利益 −(自己資本 × 株主資本コスト)=(ROE − 株主資本コスト)× 自己資本」。

一方EVAは事業全体(株主+債権者)目線で、「NOPAT −(投下資本 × WACC)=(ROIC − WACC)× 投下資本」。RIMが株主資本とROE・株主資本コストで見るのに対し、EVAは投下資本とROIC・WACCで見る——同じ「資本コストを超えた超過利益」を、株主版で測るか事業版で測るかの違いです。RIMの詳しい中身は「残余利益モデル(RIM)とは?計算式・エクイティスプレッドからPBR・DDMとの関係」で解説しています。

EVAと企業価値・DCFの関係

EVAは、単年の価値創造を測るだけでなく、企業価値評価とも直結します。将来にわたって生み出すEVAの現在価値を合計したものを、MVA(市場付加価値)と呼びます。そして、投下資本にこのMVAを足したものが企業価値になります。

企業価値 = 投下資本 + 将来EVAの現在価値の合計(MVA)

驚くべきことに、こうして求めた企業価値は、将来のフリーキャッシュフローを割り引くDCF(割引キャッシュフロー法)の結果と理論的に一致します。EVAとDCFは、別ルートから同じ企業価値にたどり着くのです。この関係は、確定した投下資本をアンカーにする残余利益モデルが、DCFと同じ結論に至るのと同じ構造です。DCFの考え方は「DCFとは?理論株価の出し方・割引率・計算式」、将来価値を今に直す現在価値は「現在価値とは?計算式・将来価値/割引率との関係からNPV・DCF」で解説しています。

EVA経営——日本企業の実践

EVAは、投資判断だけでなく経営管理の目標にも使われます。これがEVA経営です。日本では花王が長年EVAを経営の中心指標に据えてきたことで知られ、近年はROICと組み合わせて資本効率を管理する企業が増えています。

EVAを経営目標にすると、「売上や利益の絶対額」だけでなく「資本コストを超えて価値を生んでいるか」を全社・事業部門ごとに問えるようになります。EVAがマイナスの事業は、たとえ黒字でも資本コストを賄えていない=価値を破壊しているため、再編・撤退の判断材料になります。東証の資本コスト経営の要請とも軌を一にする考え方です。

EVAを高める方法・注意点

EVAを高める道筋は、計算式から明快です。

①NOPATを増やす(収益性の改善)

②資本コストを上回るリターンを生む投資に資金を回す

③価値を生まない投下資本を圧縮する(遊休資産の売却・在庫削減)

④資本コスト(WACC)自体を下げる

の4つです。

一方で注意点もあります。

第一に、会計調整が煩雑なことです。厳密なEVAの算出には、NOPATや投下資本に多くの調整を加える流儀があり、実務では簡便化されることも多いです。

第二に、短期志向に陥りやすいことです。単年のEVAを追いすぎると、将来の価値を生む長期投資(研究開発など)を削ってしまう懸念があります。EVAは、単年の数字と長期の価値創造のバランスで見ることが大切です。

新NISA・初心者は経済利益(EVA)をどう捉えればよいか

新NISAで個別株に投資する初心者は、EVAを自分で精密に計算する必要はありません。大切なのは、「利益の絶対額より、資本コストを超えて稼げているか(ROIC>WACC)が価値創造の分かれ目だ」という発想を持つことです。

ポイントは、①黒字でも資本コストを超えていなければ価値を生んでいないと理解する、②ROIC−WACCスプレッドがプラスの会社に注目する、③そのスプレッドが長く続く強い事業かを見る、の3点です。

EVAの発想は、資本を大切に使う経営かどうかを見抜く物差しになります。

元機関投資家イズミダの視点:EVAは「額」で価値を突きつける

私が経営指標としてのEVAを評価するのは、それが価値創造を「率」ではなく「額」で突きつけるからです。ROICが高くても、事業規模が小さければ生み出す価値の絶対額は小さい。逆に、スプレッドが薄くても巨大な投下資本を回す企業は、大きなEVAを生みます。この「額」の視点は、私がいつも申し上げる「グローバルでNo.1級の規模を持つ企業こそ、大きな価値を生み価格決定権を握る」という考えと通じます。率のワナに陥らず、稼ぎの絶対量まで見よ——EVAはそれを教えてくれます。

そのうえで、実務家として二点付け加えます。ひとつは、EVAの土台であるNOPATや投下資本は会計数値であり、化粧ができるということ。だから私は平常収益力に引き直し、その超過利益が構造的に続くのかを問います。もうひとつは、EVAは単年指標ゆえに短期志向を招きやすいこと。目先のEVAのために、将来の価値を生む研究開発や設備投資を削れば、それこそ本末転倒です。設備投資は将来への仕込みであり、サイクルで見るべきもの。株式投資は「なんでも鑑定団」と同じで、勝負は値決めです。EVAという「額の物差し」を持ちつつ、超過利益の持続性と長期の価値創造まで見極める——それが、この指標を実戦で活かすコツだと考えています。もっとも、前提しだいで景色は変わるので、数字を鵜呑みにしないことが肝心です。

まとめ

経済利益(EVA=経済的付加価値)とは、資本コストを超えて稼いだ利益の絶対額を示す指標で、「NOPAT − 投下資本 × WACC =(ROIC − WACC)× 投下資本」で計算します。ROICがWACCを上回れば価値創造、下回れば価値破壊。残余利益モデル(RIM)の事業版にあたり、将来EVAの現在価値合計(MVA)を投下資本に足した企業価値はDCFと一致します。花王などのEVA経営でも使われ、東証の資本コスト経営の核心にある指標です。ただし会計調整や短期志向に注意を。最後は値決めがものを言う——これがEVAを使いこなす王道です。

よくある質問(FAQ)

Q. 経済利益(EVA)とは何ですか?

A. 企業が資本コストを超えて稼いだ利益の絶対額を示す指標(経済的付加価値)です。「NOPAT − 投下資本 × WACC」で計算し、プラスなら価値創造、マイナスなら価値破壊を意味します。

Q. EVAの計算式は?

A. 「NOPAT − 投下資本 × WACC」、または「(ROIC − WACC)× 投下資本」です。どちらも同じ結果になります。

Q. EVAと残余利益モデル(RIM)の違いは?

A. EVAは事業全体目線で(ROIC−WACC)×投下資本、RIMは株主目線で(ROE−株主資本コスト)×自己資本です。同じ超過利益の考え方の、事業版と株主版の違いです。

Q. EVAと企業価値・DCFの関係は?

A. 将来EVAの現在価値合計(MVA)を投下資本に足すと企業価値になり、これはDCF(フリーキャッシュフローの割引)と理論的に一致します。

Q. EVAの注意点は?

A. 会計調整が煩雑で、単年指標ゆえに短期志向に陥りやすい点です。会計数値は平常収益力に直し、長期の価値創造とのバランスで見ることが大切です。

泉田 良輔