年金の支給日が近づくと「今年はいくら増えるのか」と同時に、「結局、手取りはいくらになるのか」が気になるという方も多いのではないでしょうか。
2026年度は年金額の増額改定がありましたが、天引きされる税金や社会保険料の仕組み、さらには秋以降に届く行政書類への対応を正しく理解していないと、額面ほど手取りが増えていなかったり、思わぬ手続き漏れにつながったりすることがあります。
さらに、老後の生活設計を考えるうえでは、公的年金だけに頼らず、新NISAなどを活用した資産形成をどう組み合わせるかも重要なテーマです。今回は、60歳から89歳までの年金受給の実態と、受給後に注意したい行政手続き、そして新NISAで人気を集める「オルカン」「S&P500」の運用実績比較から、老後資金づくりのヒントを探ります。
なお、年金額および新NISAの運用実績に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 記事を読むとわかる3つのポイント
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60歳から89歳までの年金平均受給月額と、手取りを左右する天引き・行政書類の注意点 -
新NISAの「オルカン」と「S&P500」、運用実績と分散投資の考え方の違い -
40代から資産形成を始めた方が、ファイナンシャルアドバイザーへの相談を通じてたどり着いた考え方
2. 【一覧表】60歳から89歳、年金の平均受給月額はいくら?「手取り」を左右する天引きの仕組み
まずは、2026年6月支給分から反映された年金額の改定について、内容を確認しておきましょう。
公的年金の支給額は、毎年度、賃金や物価の変動に応じて改定されます。2026年度においては、国民年金(基礎年金)が前年度比で1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%の増額となりました。
2026年度における具体的な支給額例は、以下の通りです。
2026年度における国民年金・厚生年金の支給額例
- 国民年金(老齢基礎年金・満額・1人分):月額7万608円
- 厚生年金(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む):月額23万7279円
※厚生年金のモデルケースは、平均的な収入(平均標準報酬45万5000円)を得ていた夫が40年間就業し、その配偶者が国民年金を満額受給する場合の世帯の給付水準です。
この新しい改定率は、2026年6月に支給される4月・5月分から反映されます。年金受給者には、6月の支給に合わせて日本年金機構から「年金額改定通知書」と「年金振込通知書」が送付されます。「年金額改定通知書」には改定後の年金額が、「年金振込通知書」には年金から特別徴収される税金や社会保険料の内訳と、実際に口座へ振り込まれる手取り額が記載されています。
年金受給額が一定以上の場合、現役時代と同様に「介護保険料」「公的医療保険料(国民健康保険または後期高齢者医療制度)」「個人住民税・森林環境税」「所得税・復興特別所得税」の4項目が特別徴収(天引き)されます。「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で示される金額は、これらが引かれる前の「額面」であるため、実際の手取り額はこれより少なくなる点に注意が必要です。
では、現在のシニア世代は実際にいくら受け取っているのでしょうか。1歳刻みの平均年金月額を、年代別に見ていきます。
データを見ると、65歳から69歳の平均年金月額は、厚生年金が14万円台から15万円台、国民年金が6万円台であることがわかります。
70歳代の平均月額は、厚生年金が14万円台から15万円台、国民年金は5万円台から6万円台で推移しています。
80歳代の平均受給額をみると、厚生年金は15万円台から16万円台、国民年金は5万7000円台から5万9000円台となっています。
なお、64歳までの平均額が65歳以降より低くなっているのは、繰上げ受給を選択した人や、特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分のみを受給している人が含まれるためです。ここで示されているのはあくまで各年齢の平均値であり、実際の受給額は現役時代の加入状況や保険料の納付実績に応じて個人差があります。
また、手取りを考えるうえで見落としがちなのが、「仮徴収(4・6・8月)」と「本徴収(10・12・2月)」の間で天引き額が変わる仕組みです。住民税や介護保険料などの年間額は6月にその年度分が確定するため、前年度の情報をもとにいったん天引きする仮徴収期間と、確定した年間保険料から仮徴収分を差し引いて調整する本徴収期間との間で、時期によって振込額が変動するケースがあります。10月の本徴収に切り替わったタイミングで急に手取りが減ったように感じても、それは制度上の年間調整であることを知っておくと安心です。
さらに、シニア世代の家計を大きく左右するのが「住民税非課税世帯」の壁です。厚生労働省『令和6年国民生活基礎調査』をもとに、年代別の住民税課税世帯の割合を見てみましょう。
- 30〜39歳:87.5%
- 40~49歳:88.2%
- 50~59歳:87.3%
- 60~69歳:79.8%
- 70~79歳:61.3%
- 80歳以上:52.4%
- 65歳以上(再掲):61.1%
- 75歳以上(再掲):54.4%
30歳代から50歳代では約9割が課税世帯であるのに対し、60歳代では79.8%、65歳以上では61.1%、75歳以上では54.4%と、年齢が上がるにつれて課税世帯の割合は低下する傾向にあります。
住民税非課税世帯になると、(1)高額療養費制度の自己負担上限額が下がる、(2)介護保険料が減免される、(3)高額介護サービス費の負担が軽減される、(4)臨時給付金の支給対象になりやすくなる、という4つの経済的支援を受けられます。ただし適用要件や軽減割合は世帯構成や所得水準、制度改正によって細かく異なるため、自身の年金額とのバランスを見ながら制度の内容を正確に把握しておくことが大切です。
住民税非課税世帯に該当する場合に受けられるその他の優遇措置についてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
「住民税非課税世帯」を対象とした「優遇措置」8選 《年金・給与》年収いくらで該当するのか境界線も見ておこう 年金155万・給与110万が分かれ目?
ご相談を受けていると、年金の「額面」と「振込額」の差に驚かれる方は少なくありません。
一覧表を読むときのコツをひとつお伝えすると、平均額の凸凹には必ず理由がある、ということです。たとえば厚生労働省のデータでは63歳の平均額だけが6万8758円と大きく落ち込んでいますが、これはこの年齢層に「特別支給の老齢厚生年金」の報酬比例部分だけを受け取っている方が多く含まれるためです。平均値を自分の見込み額と重ねて一喜一憂する前に、その数字が自分と同じ受け取り方をしている人のものかどうかを確かめていただきたいです。
そのうえでおすすめしたいのが、「年金振込通知書」を1年間手元に置いて、家計の基準表として使うことです。10月の本徴収で天引き額が変わったときに、慌てずに「通知書のとおりだ」と確認できるだけで、精神的な負担がずいぶん違うと思います。
3. 【2026年8月最新】年金受給者が知っておきたい「行政書類の罠」と口座のリスク
年金の振込額や非課税の壁を確認した後に待ち受けているのが、行政から送られてくる書類への対応です。政府はマイナンバーに紐づく「公金受取口座」の登録を推進しており、2026年8月頃から、まだ登録を済ませていない年金受給者を対象に、現在の年金受取口座を公金受取口座として登録してよいかを確認する「意向確認書」が順次発送されます。
特徴的なのは、受給者が「登録しないでください」という回答を期限内に行わなかった場合、自動的に同意したものとみなされ、口座が登録されてしまう「みなし同意」の仕組みになっている点です。では、登録を望まない場合はどうすればよいのでしょうか。
年金振込口座の登録を拒否する場合は、同封されている書類の案内に従い、期限内(到着から45日以内)に「不同意申出書」を返送する必要があります。
こうした全国規模の行政手続きが始まると必ず発生するのが便乗詐欺で、「口座登録を手伝います」といった名目でキャッシュカードを預かろうとしたり暗証番号を聞き出そうとしたりする不審な電話・訪問には注意が必要です。行政の手続きでATMの操作を求められたり暗証番号を聞かれたりすることは絶対にありません。
さらに秋口の9月には、「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」が届きます。これは翌年の年金から天引きされる所得税の計算で、配偶者控除や扶養控除などの各種控除を適用するための書類です。提出を忘れると人的控除が適用されず源泉徴収される所得税額が増え、翌年2月の年金支給額で手取りが減ることがあります。もし申告し忘れて税金が多く引かれてしまった場合でも、後から確定申告(還付申告)を行うことで、払い過ぎた税金を取り戻すことができます。
年金受給の手続きや税金管理を本人だけが抱え込んでいると、いざという時に家族が大きな不利益を被ることもあります。口座名義人が亡くなったことを金融機関が把握すると、遺産分割トラブルを防ぐために口座は直ちに凍結され、水道光熱費などの自動引き落としも含めてすべてストップします。また、亡くなる前であっても認知症等で本人の意思確認ができないと金融機関が判断した場合、口座は事実上の凍結状態となり、家族であっても生活費や介護費用を引き出せなくなるリスクが生じます。
年金は亡くなった月分まで支給される権利があるため、故人の口座が凍結される前後に生じる未払い分は「未支給年金」として、生計を同じくしていた3親等内の親族が優先順位に従い自身の名義で請求できます。ただし、受け取った未支給年金は「遺族自身の一時所得」として所得税の対象になるため、同じ年に他の一時所得が重なった場合や、遺族自身の所得が増えて非課税世帯のボーダーラインを超えてしまう場合がある点には注意しておきたいところです。
今回の意向確認書のように、返送しないと同意したことになる通知は、中身より先に「期限」だけでも確認していただきたいです。到着から45日というのは、体調を崩したり、お盆やお正月で家を空けたりしているうちに、あっという間に過ぎてしまう長さです。
詐欺についても、他人事とは思えません。行政の大きな手続きが始まると、それに便乗した電話は必ず増えます。厄介なのは、最近の手口が「怪しいリンクを送りつける」ようなわかりやすいものではなく、こちらの個人情報をある程度つかんだうえで、いかにも本物らしい口調で話しかけてくることです。相手が制度名を正確に言えるからといって、本物とは限りません。少しでも引っかかったら、その場で答えず一度電話を切って、年金事務所や自治体の窓口に自分からかけ直す。これだけで防げるケースは多いはずです。
そしてもうひとつ。帰省の機会があれば、ご実家に開封されていない役所の封筒がたまっていないか、さりげなく見てみてください。口座の凍結や未支給年金の扱いは、いざその時が来てから調べ始めると本当に大変です。元気なうちに家族で一度話しておけると安心だと思います。
4. 年金だけに頼らない!新NISA「オルカン」と「S&P500」、分散投資の考え方
年金の実態を踏まえると、公的年金だけでゆとりある老後を送るのは簡単ではありません。そこで注目したいのが、新NISAで人気を二分する「オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)」と「S&P500(eMAXIS Slim 米国株式)」です。まずは2026年6月22日時点における両ファンドの運用パフォーマンスを見ていきましょう。
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)
- 設定日:2018年10月31日
- 設定来のトータルリターン:+283.06%
- 過去5年間のリターン:+151.72%
- 過去1年間のリターン:+42.42%
- 過去6カ月間のリターン:+15.36%
- 過去1カ月間のリターン:+3.32%
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
- 設定日:2018年7月3日
- 設定来のトータルリターン:+345.36%
- 過去5年間のリターン:+175.94%
- 過去1年間のリターン:+40.01%
- 過去6カ月間のリターン:+13.08%
- 過去1カ月間のリターン:+2.36%
直近1年間はオルカンがS&P500をやや上回った一方、直近5年間・設定来のリターンはいずれもS&P500が優勢という結果になっています。なお両ファンドは設定日が約3カ月異なるため、設定来リターンの単純比較はできない点には留意が必要です。
組入上位5銘柄(オルカン・S&P500)2/2
出所:三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」をもとにLIMO編集部作成
両ファンドは組入上位銘柄のほとんどが共通しており、NVIDIAやApple、Microsoftといった巨大IT企業が成長エンジンになっている点は同じです。では、なぜ運用実績に差が生まれるのでしょうか。その鍵を握るのが、構成銘柄の「比率」と投資対象地域の広さです。
S&P500は米国の主要企業約500社のみで構成されているため、NVIDIAやAppleといった上位企業の組入比率が非常に高くなります。
一方、オルカンも構成の約6割は米国株ですが、残りの約4割には日本や欧州、新興国などが含まれています。
つまり「米国の成長を信じるならS&P500、米国以外の成長も取りこぼしたくないならオルカン」という考え方の違いが、そのまま運用実績の差につながっているのです。直近1年でオルカンがS&P500を上回ったのも、この「米国以外の約4割」の分散効果が発揮された結果といえます。
最近は新NISAの積立をどう組み立てるかというご相談をよくいただきます。「オルカン一本でいいのか、S&P500も混ぜるべきか」で悩まれる方が本当に多いです。
リターンのパーセンテージと同じくらい見ていただきたいのが信託報酬です。年0.1%前後の差だと「そんなに変わらないのでは」と感じてしまいますが、20年30年と積み上がると無視できない金額になります。長く付き合うものほど、こまかい差が効いてきます。
なお、ここで並べた数字はあくまで「過去にどうだったか」であって、これからを保証するものではありません。実際に、小学生のお子さんを育てながら資産形成の第一歩を踏み出された40代の方の相談事例を後ほどご紹介しますので、あわせて参考にしてください。
5. 【試算】オルカンとS&P500、それぞれの積立シミュレーション
たとえば、40歳から20年間、毎月3万円(20年間の累計元本720万円)を積み立てた場合、オルカンのような全世界株式型を想定して年4%で運用できたと仮定すると、資産評価額は約1091万円(運用益約371万円)になる計算です。
一方、S&P500のような米国株式型を想定して年6%で運用できたと仮定すると、同じ元本720万円に対して資産評価額は約1360万円(運用益約640万円)になる計算です。
同じ毎月3万円の積立でも、想定利回りの差によって20年後の資産額には270万円近い開きが生まれる可能性があります。ただし、これらの数字はあくまで一定の前提を置いた試算であり、直近5年間のような高いリターンが続く保証はもちろん、元本を割り込むリスクがある点も忘れてはいけません。オルカンとS&P500のどちらを選ぶ場合でも、期待リターンの大きさだけでなく、値動きの振れ幅(リスク)を自分がどこまで受け止められるかという視点もあわせて考えることをおすすめします。
【投資に関するご注意】 本記事は、特定の金融商品の勧誘や売買の推奨を目的としたものではありません。投資には元本を割り込むリスクがあります。投資に関する最終的な判断は、必ずご自身の責任において行われるようお願いいたします。




