韓国サムスン電子がメモリー投資再開に向けて動き出した。2019年末から年明けにかけて、中国・西安工場の第2棟(X2)および平澤工場第2棟(P2)で製造装置を導入。他社に先がけて投資再開のスタンスを打ち出した。

西安工場で3D-NANDの新規投資

 3D-NANDを生産する西安第2工場においては、19年7月時点では月産5000枚規模のパイロットラインの構築にとどまるとみられていた。しかし、ここにきて、3万枚規模の量産ライン導入が決まり、年内に装置導入が完了する予定だ。最先端の92層世代を量産する見通しで、次期投資となる6万枚体制(装置導入時期は20年)に向けても年内に追加投資の判断を行う。

 また、平澤工場についても、20年2月からP2への装置導入を開始する。P2はまずDRAMの生産を先行させる計画で、装置導入は華城地区のDRAMラインからの移設をメーンに行っていく。導入規模についてははっきりしていないが、それほど大規模なものにならない可能性が高い。

 サムスンは19年4~6月期決算において、西安および平澤の新ファブ向け投資スケジュールについては、予定どおり行っていくとしていた。建屋完成時期はそれぞれ西安が19年末、平澤が20年内とコメントしており、公言どおり投資を実行していくかたちとなりそうだ。

韓国経済背負うサムスン電子

 メモリー市況については、NANDがようやく価格下落が止まり、10~12月期からは価格反転の兆しが出てきた。悪化していた需給バランスは改善し、供給メーカー、ユーザー双方で溜まっていた在庫水準も健全化しつつある。

 しかし、肝心の最終需要に関してはハイパースケーラーを筆頭に、完全に回復しているとは言い難い状況。スマートフォン向けも米中貿易摩擦の影響に加えて、5G端末登場に向けた買い控えなども影響し、メモリー需要に力強さはない。DRAMも各社が依然として利益を確保できていることもあって、生産調整は小幅にとどまっており、年内一杯は下落基調が続く見通しだ。

 こうした状況のなかで、今回のサムスンの投資再開の決定は、需要回復を受けてのものというより、市場シェアをより意識した投資戦略とも受け取れる。韓国経済を背負う立場にあるサムスンにとっては、他社よりも先行して設備投資を再開させることで、東芝メモリやSKハイニックスとのシェアをより一層広げたい考えだ。また、今回の西安の投資決定は、年末から64層世代の商業生産を開始する中国YMTC(長江ストレージ)に対する牽制だと指摘する声もある。

マイクロンは台中で新建屋の建設決定

 サムスン以外ではマイクロンが台湾でのDRAM投資を加速させている。旧レックスチップの台中工場(Fab16)で新建屋の建設を決定。4月からすでに着工しており、20年後半からの設備導入を予定している。同社のDRAM生産は国内の広島工場(Fab15)および、台湾2工場で展開。台湾では台中のほか、旧イノテラの桃園工場(Fab11)を構えている。広島工場がすべての技術ノードに対応するマザーファブ的な役割を担い、台湾拠点が別々のノードを受け持ち、量産機能を果たしている。具体的には、Fab15は現在、1Xnmの生産が中心だが、今回の拡張により、1Z世代の対応を強化する。Fab11では主力ノードを20nm世代から1Y世代に微細化投資を通じて移行させる。

 サムスンやマイクロンが具体的な投資計画を打ち出している一方、東芝メモリやSKハイニックスは今のところ投資再開の動きを見せていない。特に東芝メモリに関しては四日市工場第6製造棟(Y6)の第2期投資、ならびに北上新工場(K1)におけるパイロットライン設置以降の量産投資が見えてきておらず、その動向に注目が集まっている。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳