4. 税率が全然違う:20.315%と最大55%

なぜ、為替差益がこれほど問題視されるのでしょうか。それは、株の利益と為替の利益で、適用される税率が全く異なるからです。

特定口座などで上場株式を売買して得た譲渡益(値上がり益)や配当金は、「申告分離課税」という方式がとられ、税率は所得税・住民税などを合わせて一律20.315%です(国税庁の規定に基づく)。

一方で、為替差益は「雑所得」に分類されます。雑所得は給与所得など他の所得と合算して計算される「総合課税」の対象となります。日本の所得税は累進課税制度をとっているため、所得が多くなるほど税率が上がり、住民税と合わせると最大で55%もの税金が課される可能性があります。

同じ投資活動から生まれた利益であっても、それが「株の利益」なのか「為替の利益」なのかで、手元に残る金額が大きく変わってしまうのです。

譲渡益と為替差益の税率・制度比較3/5

譲渡益と為替差益の税率・制度比較

出所:国税庁データを基にイズミダイズム作成

5. 損したときは救ってくれない「片道課税」の罠

さらに投資家を悩ませるのが、税制の非対称性です。インタビュワーから「円高になって為替差損が出た場合はどうなるのか」という疑問が投げかけられると、泉田氏は現行税制の厳しい現実を指摘します。

「為替に関しては他の所得との通算NGなんで、損した分考慮されないんですよね」

特定口座内で株の売買を行っている場合、A株で儲かってB株で損をすれば、それらを相殺(損益通算)して税金を減らすことができます。さらに、引ききれなかった損失は確定申告を行うことで3年間にわたって繰り越すこと(繰越控除)も可能です。

しかし、雑所得である為替差益にはこれらの救済措置がありません。為替差益が出た時は最大55%の税金を取られるのに、為替差損が出た時は他の所得と相殺できず、繰越も還付もされません。利益が出た時だけ税金を取られる、いわば「片道課税」の状態になっているのです。

また、実務上の大きな壁となるのが「確定申告の手間」です。特定口座(源泉徴収あり)であれば、株の譲渡益にかかる税金は証券会社が自動的に計算して差し引いてくれます。しかし、為替差益については証券会社は計算してくれません。投資家自身が、配当を受け取った日や株を買った日の為替レートをすべて記録し、自分で計算して確定申告を行わなければならないのです。

5.1 最高裁も現行税制に苦言を呈している

このような投資家の実情に合わない制度に対しては、実は司法の側からも疑問の声が上がっています。

今回の最高裁判決において、国側が勝訴する形となりましたが、林道晴裁判官ほか計3名の裁判官が異例の「補足意見」を付しています。泉田氏によれば、そこには次のような現行税制への注文が書かれているといいます。

  1. 今回の結論は明文規定がなく、解釈論にとどまるものである
  2. 租税法律主義の観点から望ましい状況とは考えられない
  3. 日本の租税政策に対する国際社会からの信頼を損なう可能性も否定できない
  4. 為替差損益に係る課税のあり方について抜本的に検討し、必要な法的手当てを講じていくことが強く望まれる

泉田氏も、「こんだけ投資普及してきて当たり前のように外貨で取引するみたいな時代になったのに、買った時点で確定みたいな、『え?』って投資家がびっくりするようなルールっていうのは、もう1回ちゃんと整備せやみたいな、そんな話なんじゃないですかね」と、司法からのメッセージを代弁します。

補足意見における現行税制への言及4/5

補足意見における現行税制への言及

出所:最高裁判所「令和5年(行ヒ)第366号 所得税更正処分等取消請求事件」(2026年6月16日)

6. 投資信託は大丈夫? 対策は「円貨決済」

ここまで為替差益の恐ろしさを見てきましたが、すべての海外投資が対象になるわけではありません。インタビュワーから「『S&P500』や『オルカン』などの投資信託を積み立てている場合はどうなるのか」と尋ねられると、泉田氏は明確に答えます。

「これ関係ないです。(中略)僕らがドルで資産持ってるわけではないので、口座に。これ売却しても円で返ってくるじゃん。なので関係ないです」

円貨決済型の国内投資信託(オルカンやS&P500インデックスファンドなど)は、円で買い、売却時も円で受け取ります。投資家自身が外貨を保有する期間がないため、為替差益課税の論点が生じにくいのです。

6.1 個人投資家ができる最大の防衛策

では、米国個別株や米国ETFに投資したい人はどうすればよいのでしょうか。泉田氏は、個人でできる対策として「円貨決済」を徹底することを提案します。

「円で買って円で受け取るみたいなことをすると、外貨を持っている期間がなくなるんで、それで課税されるリスクは減らすことができます」

米国株を購入する際、事前にドルに換えるのではなく、注文時に円から直接決済する「円貨決済」を選択します。そして、売却時や配当金の受け取り時も、ドルではなく「円」で受け取る設定にしておくのです。これにより、証券口座内に「外貨(ドル)」が滞留する時間をなくし、為替差益が発生する余地を物理的に断つことができます。

ただし、この方法にはデメリットもあります。円貨決済を行うたびに、証券会社が定める往復の為替手数料がかかってしまうことです。為替手数料を節約するためにドルで保有し続けるか、税務リスクと計算の手間を回避するために手数料を払って円貨決済を徹底するか。投資家は自身の投資スタイルに合わせて選択する必要があります。

円貨決済による為替差益リスクの回避5/5

円貨決済による為替差益リスクの回避

出所:イズミダイズム作成

7. まとめ

今回の解説を通じて、NISAや米国株投資における為替差益の取り扱いについて、以下の3つのポイントが浮き彫りになりました。

  1. 円に戻さなくても課税されうる: 外貨を別の資産(他の外貨や有価証券)に交換した時点で、為替差益が確定し雑所得として認識されます。
  2. 次のアクションが引き金になる: ドルで配当を受け取ったり、株を売ってドルで保有しているだけでは非課税ですが、そのドルを使って「別の資産を買う」という次のアクションを起こした瞬間に課税の対象となります。
  3. 対策は円貨決済: 為替差益の計算や確定申告の手間、雑所得としての高い税率を回避するためには、為替手数料がかかっても「円で買い、円で受け取る」円貨決済を徹底することが有効な対策となります。

NISA制度の普及により、誰もが手軽に海外資産へアクセスできる時代になりました。しかし、税制の仕組みを正しく理解していなければ、思わぬ落とし穴にハマる可能性があります。制度の抜本的な見直しが待たれるところですが、まずは現状のルールを把握し、自身の大切な資産を守るための防衛策を講じておくことが重要です。

※本記事は一般的な税制の解説を目的としており、個別の課税の要否や確定申告の要否について断定するものではありません。実際の税務処理やご自身の取引が課税対象となるかどうかの判断については、必ず税理士等の専門家や所轄の税務署にご確認ください。

参考資料

  • 最高裁判所「令和5年(行ヒ)第366号 所得税更正処分等取消請求事件」(2026年6月16日)
  • 国税庁「No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」
  • 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
  • 国税庁「No.2260 所得税の税率」
  • 国税庁「No.1535 NISA制度」
  • 金融庁「NISA特設ウェブサイト」
  • YouTubeチャンネル「イズミダイズム」

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