NISAを活用して、米国株や海外ETFに投資する人が増えています。多くの人は「NISA口座で運用していれば、利益には一切税金がかからない」と認識しているのではないでしょうか。

しかし、米国株の配当をドルで受け取って再投資したり、ドル決済で銘柄を乗り換えたりする実務的な投資行動の中に、実は「為替差益」として最大55%もの税金が課されるリスクが潜んでいます。

一体なぜ、非課税口座であるはずのNISAで課税の対象になり得るのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が、最高裁判決の論理を読み解きながら、NISAや米国株投資家への実務的な影響と具体的な対策を解説します。

1. この記事の3つのポイント

  •  最高裁は「外貨で別の資産を取得した時点で為替差益が確定する」と判断した
  •  NISAの非課税対象は配当と譲渡益のみで、為替差益は別枠の雑所得として扱われる
  •  ドルで受け取った配当を貯めて別の米国株を買うと、為替差益に課税されるリスクがある
  •  為替差益は最大55%の総合課税で、損失が出ても他の所得と損益通算ができない
  •  対策は「円貨決済」を徹底し、外貨を保有する期間を作らないこと

2. NISAでも「為替差益」は非課税の対象外

近年、「NISA口座でも税金が取られるかもしれない」という話題が個人投資家の間で不安を呼んでいます。この議論の発端となったのは、2026年6月16日に下された最高裁判所の判決(令和5年(行ヒ)第366号)です。

まず事実関係を整理しておきましょう。この最高裁判決の当事者は、スイスの金融機関に105億円を送金し、運用を一任していた日本の居住者(富裕層の個人)です。つまり、NISA口座に関する裁判ではなく、富裕層の外貨運用事案に対する判決です。

この裁判での最大の争点は、「外貨で別の資産を取得した場合、為替差益はいつ実現・確定するのか」ということでした。納税者側は「円に戻すまで為替変動リスクが残っているのだから、利益は未確定である」と主張しました。これは一般的な投資家の感覚に近いものでしょう。しかし国側は、外貨で別の資産を取得した時点で経済的価値が固定化されるため、その時点で為替差益が確定すると主張しました。

最高裁は国側の主張を認めました。外国通貨で他の種類の外国通貨や同一外貨建て有価証券を取得した場合、変動していた当該外国通貨の経済的価値が取得した資産の経済的価値をもって固定化され、取得時の価値を上回る部分が実現した利得となる、というのが判決の論理です。そして、取引時の円換算額を所得税法36条1項の「収入すべき金額」として認識するというのが司法の結論です。これは「権利確定主義」と呼ばれる考え方に基づいています。

為替差益が実現するタイミング1/5

為替差益が実現するタイミング

出所:最高裁判決 令和5年(行ヒ)第366号を基にイズミダイズム作成

泉田氏は、この判決の論理を現行税制の一般論として敷衍(ふえん)し、一般の米国株投資家やNISA口座にも影響が及ぶ可能性を指摘しています。

一部では「新しいルールができてNISAが課税されるようになった」と誤解されていますが、泉田氏はこれを明確に否定します。権利確定主義に基づくこの解釈は、約48年前の最高裁判例(昭和53年)から存在する古くからの考え方であり、今回はそれが外貨建て取引に対して明確に適用されたに過ぎません。

その上で、泉田氏はNISA制度の仕組みと為替差益の関係について次のように整理します。

「NISAの非課税は株の配当、譲渡益に関しての話であって、為替差益は別枠ですよっていうところが今回のポイントになります」

つまり、NISA口座の非課税枠が適用されるのは、あくまで「上場株式等の配当・分配金」と「譲渡益(株の値上がり益)」だけです。外貨を保有している間に生じた為替差益は、NISAの非課税対象外であり、「雑所得」として別枠で課税されうるというのが、現行税制における正しい理解となります。

3. あなたも当てはまる? 危ない3つのケース

では、具体的にどのような投資行動をとると、個人投資家が為替差益の課税対象になる可能性があるのでしょうか。泉田氏は、米国株投資家が陥りやすい「気をつけるべき3つのケース」を提示します。

なお、以下の解説で登場する為替レートの数値(1ドル130円や150円など)は、仕組みを理解するための「仮設例」であり、判決の事実ではありません。

3.1 ケース1:事前にドル転して、後で米国株を買う

米国株を買うために、あらかじめ手元の円をドルに交換(ドル転)して証券口座に置いておくケースです。

たとえば、1ドル130円の時に円をドルに換え、しばらく口座に寝かせておいたとします。その後、株価が下がったタイミングで米国株を購入した際、為替レートが1ドル150円になっていたとします。この場合、株を買っただけにもかかわらず、ドルを保有していた期間に生じた20円分の為替差益が雑所得として確定したとみなされます。

3.2 ケース2:米国株をドルで売り、そのドルで別銘柄に乗り換える

保有していたA社の米国株が値上がりしたので利益確定の売りを出し、その代金を「ドル」のまま受け取るケースです。
そのドルを口座にしばらく置いておき、後日、面白そうなB社の株をそのドルで購入したとします。この時、A社を売却してドルを受け取った時点のレートと、B社を購入した時点のレートに差があり、円安に進んでいれば、その差額が為替差益として課税対象になります。

3.3 ケース3:ドル建て配当を貯めて再投資する

これが最も多くの個人投資家に関係するケースかもしれません。インタビュワーからも「NISAで米国の高配当ETFを買い、ちょこちょこ入ってくるドルの配当金を貯めておいて、まとまったら別の米国株を買っている」という実例が挙げられました。

泉田氏は、この行動こそが課税の論点になり得ると警鐘を鳴らします。

「ドルで受け取ったものが円安が進んで別の株を買うってなると、そこは為替差益っていうのが出てるから、それは雑所得ですよという話なんですね」

NISA口座内で受け取った配当金そのものは非課税です。しかし、その「ドル」を保有している間に円安が進み、そのドルを使って別の株を買った瞬間に、為替差益が実現したとみなされてしまうのです。

米国株投資で為替差益が確定する3つのケース2/5

米国株投資で為替差益が確定する3つのケース

出所:イズミダイズム作成