3. 三菱重工の強み:大型ガスタービンが築く「深い堀」
ここからは、各社が持つ競争優位性について深掘りしていきます。泉田氏は機関投資家の視点から、競合他社が容易に参入できない事業上の障壁を次のように解説します。
「投資の世界だと『モート』って言うんだけど、深い堀のことを意味するんだけど、他の競合が入ってこれないバリアがある」
三菱重工の最大のモートは、エナジー事業における大型ガスタービンの圧倒的な実績と技術力です。
3.1 世界最高水準の発電効率が生む過去最高の受注
データセンターの建設ラッシュなどで電力需要が急増する中、最も早く大容量の電力を供給できる火力発電の価値が世界的に見直されています。三菱重工は、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた「GTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)」という高効率な発電設備を得意としており、最新型のJAC形GTCCの発電効率は64%と世界最高水準を誇ります。
この圧倒的な技術力が評価され、FY2025におけるエナジー事業の受注高は3兆9,367億円に達しました。そのうちGTCCの受注高は、前年度を大幅に上回る2兆6,526億円と過去最高を記録し、受注残高は5兆円を超える規模にまで成長しています。大型ガスタービンの世界シェアは56%に達しており、GEやSiemensといった世界的企業と市場を寡占する状態を作り上げています。
3.2 インストールベースがもたらす好循環
一度発電所に導入された設備は、長期間にわたって使用されます。泉田氏はこの「インストールベース(導入実績)」の多さが、さらなる強みを生み出していると指摘します。
「インストールされているものが多いと、やっぱりメンテナンスのサポートも厚いじゃない。ガスタービンって頻繁に壊れるものじゃないんですけども、羽が劣化するんで交換が必要なんですよ」
過酷な環境で稼働するタービンは定期的な部品交換やメンテナンスが不可欠です。導入実績の多い企業ほどサポート体制が充実し、顧客からの信頼を得てさらに新規受注を獲得しやすくなるという、強者がさらに強くなる好循環が生まれています。
4. 川崎重工の強み:フィジカルAIとロボット技術の実績
川崎重工のモートは、長年培ってきたロボット技術と、それを活かした「フィジカルAI(物理的な実体を持つAI)」の領域にあります。
4.1 NVIDIAが認めた産業用ロボットの底力
川崎重工は産業用ロボットの大手であり、特に半導体工場などで使われる搬送用ロボットでは世界シェア1位の実績を持ちます。この確かな実績に目をつけたのが、AI半導体の世界的トップ企業であるNVIDIAです。
両社は協業関係を深めており、2026年5月には共同開発パートナーへと格上げされ、アメリカのサンノゼに「川崎重工 PHYSICAL AIセンター」を設立しました。
インタビュワーから、人型ロボット(ヒューマノイド)への期待について問われると、泉田氏は地に足の着いた見解を示します。
「やっぱり産業ロボットでどうAIを使うかっていうところが最初ファーストステージで、そこがしっかりしてくると人型が出てくるっていう順番なのかなと思っているので、やっぱり産業用に注目したいですね」
4.2 価格競争力を持つ医療用ロボット
また、川崎重工は「hinotori(ヒノトリ)」という国産の手術支援ロボットも展開しています。先行する海外製の「da Vinci(ダヴィンチ)」のインストールベースにはまだ及びませんが、1台あたり1億〜2億円程度とda Vinciの半額ほどの価格設定を実現しており、今後のシェア拡大が期待される強力な商材となっています。
5. IHIの強み:戦闘機エンジンがもたらす安定収益
IHIの最大のモートは、航空・宇宙・防衛事業における「エンジン」の製造技術と、それに伴うストックビジネスの仕組みにあります。
5.1 国内唯一の戦闘機エンジンメーカー
日本、イギリス、イタリアの3カ国で共同開発が進められている次世代戦闘機プログラム(GCAP)など、防衛関連の話題に注目が集まる中、IHIは戦闘機のエンジンを作れる国内唯一の企業としての地位を確立しています。実は1950年代には三菱重工やSUBARUもエンジン開発を手掛けていましたが、その後撤退したため、現在ではIHIの独壇場となっています。
5.2 アフターマーケットによる高利益率のストックビジネス
航空機エンジンもガスタービンと同様に、一度採用されると他社製品への乗り換えが極めて難しい領域です。泉田氏は、このビジネスモデルの真の強みは「売った後」にあると解説します。
「メンテナンスとか部品の交換とかそういったところが収益の柱になってくるし、そういうところってだいたいあと何ヶ月したら壊れるなとか何ヶ月したらメンテナンスだなってのが分かるので、整備しやすいから利益率も高くなりがちなんだよね」
エンジン本体の販売だけでなく、その後のスペアパーツ供給やメンテナンスといったアフターマーケットが利益の源泉となります。将来の収益が予測しやすい(ビジビリティが高い)ストックビジネスの構造こそが、IHIの高い営業利益率を支えているのです。
6. 投資家が注目すべきポイントとリスク
このように、重工3社はそれぞれ全く異なる領域で強固なモート(競争優位性)を築いています。
6.1 利益の出る事業×テーマの掛け算
泉田氏は、重工3社への投資を考える際のアプローチを次のように結論づけました。
「やっぱり利益出てる事業は明確なので、長期で見るときはその事業でしっかり利益出せていけるのか、さらにそれにテーマが乗ってくると面白いと思うので、そういった要素の掛け算で判断すると面白いかもしれませんね」
AIによる電力需要、フィジカルAI、防衛費増額といったマクロな投資テーマだけで飛びつくのではなく、各社が「どの事業で実際に利益を稼いでいるのか」というファンダメンタルズを見極めることが重要です。
6.2 留意すべきリスク要因
一方で、各社固有のリスクにも目を向ける必要があります。三菱重工のガスタービン事業に対しては、アメリカの新興企業(NuScaleやTerraPowerなど)が開発を進めるSMR(小型モジュール炉)が将来的な代替手段として脅威となる可能性があります。
川崎重工のロボット事業は、ABBやファナック、安川電機といった強力な競合とのシェア争いが激化しています。IHIのエンジン事業も、次世代戦闘機の開発プロジェクトの進捗や国際的な分担割合の決定次第で、将来の業績に影響が及ぶ可能性があります。
一括りに「重工株」として捉えるのではなく、それぞれの事業構造と競争優位性を深く理解した上で、自身の投資戦略に合った銘柄を選別していくことが求められます。
なお、本記事は動画内容の解説を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行っていただくようお願いいたします。
参考資料
- 三菱重工業株式会社「2026年3月期 決算短信」
- 三菱重工業株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」
- 川崎重工業株式会社「2026年3月期 決算短信」
- 川崎重工業株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」
- 株式会社IHI「2026年3月期 決算短信」
- 株式会社IHI「2026年3月期 決算説明会資料」
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
※リンクは記事作成時点のものです。

