内閣府が7月に公表した最新の「景気ウォッチャー調査(令和8年6月調査)」によると、景気の現状判断DIは「44.0」(前月差0.4ポイント上昇)となったものの、長引く物価高などの影響で飲食関連などが落ち込み、家計動向関連のDIは低下を示すなど、生活者の不安は依然として払拭しきれない状況が浮き彫りとなっています。

こうしたマインドの落ち込みを裏付けるように、総務省統計局が公表した「2025年(令和7年)家計調査」によると、65歳以上の無職夫婦世帯では年金などの収入に対して毎月約4.2万円の赤字が発生しており、貯蓄の取り崩しによる補填が必要となっています。

長引く物価高や、国による「退職所得控除」の見直し議論なども相まって、老後の生活を支えるまとまった資金である「退職金」への関心は日増しに高まっています。

しかし、長年勤め上げた職場をいざ退職するとなったとき、「自分の退職金はいつ、どの口座に振り込まれるのか」を正確に把握している方は案外少ないものです。

実は、退職金が支払われるタイミングは、法律で定められている公務員と、各社の規程に委ねられている民間企業とで大きく異なります。

さらに、勤務先が「中小企業退職金共済(中退共)」や「企業型確定拠出年金(企業型DC)」といった外部の制度を利用している場合、「待っていれば会社が振り込んでくれる」という認識のままでは、いつまで経っても退職金を受け取ることができません。

本記事では、公的機関の資料に基づき、制度や業種ごとの退職金の支給時期の目安を解説。さらに、退職後の資金計画を狂わせないための「請求手続きの落とし穴」について整理します。

1. この記事の3つのポイント

  •  業種による違い: 公務員の退職手当は原則1ヶ月以内だが、中小企業の退職一時金は会社の就業規則により支給時期は異なる。
  •  請求主体の違い: 「中退共」や「企業型DC」の退職金は、会社ではなく退職者本人が各機関へ直接請求手続きを行う必要がある。
  •  タイムラグに注意: 外部機関の制度を利用する場合、書類の不備確認や運用商品の現金化を挟むため、着金までに1ヶ月〜2ヶ月半程度を要する。
齊藤 慧

退職金に関するトラブルで起こりうるのが、「退職して3ヶ月経つのに振り込まれない」という事例です。

勤務先の退職金制度が「中退共(中小企業退職金共済)」であったにもかかわらず、ご本人が請求書の入った手帳を自宅に放置したまま、「会社が振り込んでくれるものだ」と思い込んでいたというケースもあるでしょう。

退職金は、会社の預金から直接支払われるのか、外部の共済や年金制度から支払われるのかによって、誰が手続きをするかが変わります。退職前にご自身の会社の「退職金規程」を必ず確認し、お金の出所を把握しておくことが重要です。

※この記事は、編集部が国税庁などの公的資料を基に執筆・検証しています。

2. 制度・業種別で大きく異なる「退職金の支給時期」

退職金が指定の口座に振り込まれるまでの期間は、法律や会社のルールによってそれぞれ異なります。公務員のように明確な期限が設けられているケースもあれば、民間企業のように自社の就業規則で独自に定められているケースもあります。

2.1 国家公務員・地方公務員は「退職後1ヶ月以内」が原則

公務員の退職手当については、法律によって支払いの期限が守られています。国家公務員の場合は「国家公務員退職手当法」などの規定に基づき、原則として退職した日から1ヶ月以内に支給されることになっています。地方公務員の場合も、国家公務員の制度に準じた条例が定められているため、同様に1ヶ月以内の支給が基本です。

2.2 中小企業の退職一時金は「1〜2ヶ月後」が主流だが規程次第

民間企業が自社の資金を取り崩して従業員に直接支払う「退職一時金」の場合、労働基準法等の法律で「退職後〇日以内に支払わなければならない」という決まりはありません。

そのため、振り込みのタイミングは各社が定める「就業規則」や「退職金規程」によります。「退職した月の翌月末」や「退職後2ヶ月以内」に設定している企業が多い傾向にあります。

2.3 【執筆者の一言メモ】

民間企業にお勤めの方は、退職の意向を伝える前や有給消化に入る前に、社内ポータル等で「退職金規程」のPDFや冊子に目を通しておくことをおすすめします。

「支払日」の項目を確認するだけで、退職直後の生活費のやりくりや住宅ローンの返済計画が立てやすくなります。

3. 「中退共」の退職金はいつもらえる?請求手続きの仕組み

日本の中小企業で広く導入されているのが、国がサポートする「中小企業退職金共済(中退共)」という制度です。この制度を利用している場合、退職金の支給元は会社ではなく、中退共事業本部となります。

3.1 会社ではなく「退職者本人」が直接請求する

中退共の特徴は、退職金の請求手続きを「退職者本人」が行わなければならない点です。退職時に会社から「退職金共済手帳(退職金請求書)」を受け取り、ご自身で必要事項を記入し、住民票の写しなどのマイナンバー確認書類とともに、直接機構へ郵送する必要があります。

3.2 書類提出から約1ヶ月〜2ヶ月半で振り込まれる

中退共本部が請求書を受理し、書類に不備がないことが確認されると、通常は約4週間(1ヶ月程度)で指定した本人の口座へ退職金が振り込まれます。ただし、退職した月までの掛金を会社がまだ納付していない場合や、掛金の納付方法によっては、確認が取れるまでに2ヶ月半以上かかることもあります。

3.3 執筆者の一言メモ

中退共の請求書には、税金の負担を軽くするための「退職所得の受給に関する申告書」の欄が一体化しています。ここの記入を忘れると、退職金から一律で約20%の所得税等が源泉徴収されてしまい、後からご自身で確定申告をして取り戻す手間が発生します。書類を書く際は、記入漏れがないか念入りにチェックしてください。

4. 「企業型確定拠出年金(DC)」の退職金を受け取る流れ

退職金制度の一部、あるいは全部として「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を導入している企業も増えています。投資信託などの運用商品を自分で選んで積み立てる制度ですが、こちらも支給時期に特有のタイムラグが存在します。

確定拠出年金と確定給付企業年金の比較1/1

確定拠出年金と確定給付企業年金の比較

出所:厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」

4.1 運用商品の「現金化」を伴うため着金まで1〜2ヶ月かかる

企業型DCの資産を60歳以降に「老齢給付金」などの退職金として受け取る場合、運営管理機関(証券会社や銀行)の専用サイトや書面での請求手続きが必要です。

手続きを行うと、それまで運用していた投資信託などの商品がいったんすべて売却され、現金化される工程を挟みます。

商品の受渡日や事務処理に日数を要するため、請求手続きを完了してから実際に口座へ着金するまでに1〜2ヶ月程度かかるのが一般的です。

4.2 退職ではなく「転職」の場合は移換手続きが必要

60歳未満で会社を退職し、別の企業へ転職する場合、企業型DCの資産は退職金として現金で引き出すことは原則できません。転職先の企業型DC制度へ持ち運ぶか、ご自身で加入するiDeCo(個人型確定拠出年金)へ「移換(資産のお引越し)」を行う必要があります。退職後6ヶ月以内に移換手続きを行わないと、国民年金基金連合会に資産が自動移換され、余計な手数料が引かれ続けてしまうため注意が必要です。

4.3 執筆者の一言メモ

企業型DCを一時金として受け取る際、手続きのタイミングによっては「自分が売却したいと思った日の株価」で売れるとは限りません。現金化されるまでに数日間のズレが生じるため、相場が大きく変動している時期に手続きをする場合は、金額が想定より目減りする可能性も考慮しておく必要があります。

5. 退職金が遅い・振り込まれない場合のチェックポイント

退職から数ヶ月経っても一向に退職金が振り込まれない場合、何らかの手続き漏れや認識のズレが生じている可能性があります。焦らずに以下のポイントを確認しましょう。

5.1 まずは就業規則の「退職金規程」を再確認する

もっとも多いのが、自社の規程で「退職から半年後に支給する」などと定められているにもかかわらず、「退職月の翌月にはもらえるはず」と思い込んでいるケースです。

規程が手元にない場合は、前の勤務先の人事・総務担当者に連絡し、支払い予定日を直接確認することが確実な方法です。

5.2 外部制度は書類の不備で手続きが止まっていないか確認する

中退共や企業型DCの場合、提出した書類の印鑑相違や、添付書類(マイナンバーや住民票など)の不足が原因で、審査がストップしているケースがあります。

通常は不備があれば手紙などで通知が来ますが、引越しなどで住所変更が済んでおらず通知が届いていないことも考えられます。手続きから1ヶ月半以上経っても連絡がない場合は、各制度のコールセンター等へ問い合わせて進捗状況を確認してください。

6. 執筆者コメント(総括)

退職金の手続きは、会社員生活の中で何度も経験するものではないため、多くの方が手探りの状態になります。特に近年は、企業型DCや中退共など「自分で動かなければならない制度」が普及しているため、自己責任の範囲が広がっています。

わからないことがあれば、在職中に遠慮なく社内の担当部署に確認し、不明点をクリアにした状態で清々しい退職の日を迎えていただきたいと思います。

7. まとめ

制度や業種による退職金の支給時期と手続きのポイントは以下の通りです。

  1. 公務員の退職手当は、原則として退職日から1ヶ月以内に支給される。
  2. 中小企業などの退職一時金は、各社の「退職金規程」により1〜2ヶ月後など支払い時期が異なる。
  3. 「中退共」や「企業型DC」は、会社ではなく退職者本人が各機関へ請求手続きを行わなければ振り込まれない。
  4. 外部制度を利用している場合、書類審査や商品の現金化を挟むため、着金までに1ヶ月〜2ヶ月半程度を要する。

長年の勤務の対価として受け取る退職金は、その後の生活基盤を支える大切な資金です。しかし、「待っていればいつか口座に入るだろう」という受け身の姿勢では、思わぬ手続き漏れで受け取りが大幅に遅れてしまうリスクがあります。

退職の日を迎える前に、ご自身の会社の退職金がどの制度を利用して運用されているのかを把握し、必要な手続きの流れをリストアップして備えてみてはどうでしょうか。

8. よくある質問

8.1 Q1. 自己都合退職の場合、退職金の支給時期は遅くなりますか?

A. 基本的に、自己都合退職であっても会社都合退職であっても、退職金が振り込まれる時期のルール(退職後〇ヶ月以内など)が変わることは少ない傾向にあります。ただし、自己都合退職の場合は、会社の規程によって退職金の「支給金額」そのものが減額されるケースは多く見られます。

8.2 Q2. 中退共の退職金請求に期限はありますか?

A. はい、あります。中退共の退職金を受け取る権利は、退職した日の翌日から5年を経過すると時効により消滅してしまいます。長期間放置すると受け取れなくなる恐れがあるため、退職金共済手帳を受け取ったら速やかに請求手続きを行うことが推奨されます。

8.3 Q3. 退職金を受け取るために確定申告は必要ですか?

A. 原則として、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先や支払機関(中退共など)に正しく提出していれば、税金の計算や源泉徴収は支払う側で行われるため、ご自身での確定申告は不要です。ただし、申告書を提出し忘れて約20%の税金が引かれてしまった場合は、確定申告を行うことで払いすぎた税金の還付を受けられます。

8.4 Q4. 会社が倒産した場合、中退共の退職金はどうなりますか?

A. 中退共の退職金は、事業主ではなく中退共事業本部から従業員へ直接支払われる仕組みになっています。そのため、万が一勤務先が倒産した場合でも、それまでに積み立てられていた掛金に応じた退職金は保護され、従業員自身で請求手続きを行えば確実に受け取ることができます。

8.5 Q5. 企業型確定拠出年金(DC)を脱退して一時金を受け取ることはできますか?

A. 企業型DCの資産は老後資金の形成を目的としているため、原則として60歳になるまで引き出すことができません。ごく一部の例外的な条件(掛金残高がごく少額である、国民年金保険料の免除者であるなど)を満たした場合に限り「脱退一時金」として受け取れることがありますが、厳しい要件が設けられています。 

参考資料

齊藤 慧